米IBMは、デジタル・プラットフォーム、AI、データ保護の三つのキーワードで、企業の業務システムの変革を支援していく。デジタル・プラットフォームは「IBM Cloud」、AIは「Watson」、そして情報セキュリティ技術を応用した包括的なデータ保護。この三つをバランスよく実装することで、デジタル時代における企業ユーザーの競争力を高める。米ラスベガスで開催された年次イベント「IBM Think 2018」で、米IBMのバージニア・ロメッティ会長兼社長(CEO)が「大きな転換点を迎えている」と指摘する新時代のコンピュータメーカーの姿はどのようなものなのか。(安藤章司)

消費者向けAIと企業AIは
根本的に異なる

 米IBMがPCサーバーやパソコン事業を早々に切り離してきたのは周知の事実。その後も「コグニティブ(AI)」に偏重しすぎたり、「クラウド」へ振れたりと、ややもすれば重点施策がブレる傾向があった。だが、ここへきて自らの進むべき道を、よりバランスよく打ち出せるようになった印象を強く与えたのが、3月19日から4日間の日程で開催された「IBM Think 2018」だった。同イベントには、ユーザー企業やビジネスパートナーなど、およそ4万人が開催場所の米ラスベガスに集結。日本からも顧客企業やJBグループ、ベル・データといった多数のIBMビジネスパートナーが参加した。
 
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米IBM
ルシア・プリー・
チーフアーキテクト/
フェロー

 さまざまな講演のなかで、共通したキーワードとして挙げられたのがデジタル・プラットフォーム、AI、データ保護だ。いずれもデジタル時代に勝ち残ることが可能な企業システムを構築するには欠かせない要素だとIBMでは捉えている。なかでも、データ保護は企業の業務システムにとって重要課題であり、同時に、アマゾンやグーグル、マイクロソフト、あるいは次々と台頭してくるITスタートアップ企業に対抗していくためのIBM自身の差異化策でもある。

 AIは学習用データが多ければ多いほど正確さが増すと一般的に考えられている。広くあまねくデータを集めたグーグルの深層学習は有名だし、フェイスブックをはじめとするソーシャルメディアも億人単位の会員データをもつことが強みだ。だが、企業で使う学習用データの場合、複数の企業から集めるのは、ライバル他社に自社のデータを渡すようなもので、事実上不可能。米IBMでWatsonなどを担当するチーフアーキテクトのルシア・プリー/フェローは、「消費者向けのAIと、企業向けAIではデータの扱い方が根本的に異なる」と、集約可能な消費者データと、集約が困難な企業データの違いを指摘する。

顧客のビジネスも
IBM自身も転換させる

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米IBM
ヒラリー・ハンター・
ダイレクター/
フェロー

 とはいえ、個々の企業がもつデータは限られており、大量の学習用データを前提とするようなAIで、十分な性能を発揮するのは難しい。そこで、IBMでは、より少ないデータでも精度の高い学習済みAIをつくりだす技術開発に力を入れる。AIのアルゴリズム開発や業種・業態に共通する部分をあらかじめテンプレートとして用意。また、IBMが独自開発する最新CPU「POWER9」に、AI演算で有用とされるエヌビディア製のGPU技術を組み合わせることで、「指をパチンと鳴らすあいだに機械学習(ML)の計算を終わらせる“スナップML”」(米IBMでコグニティブ・インフラストラクチャを担当するヒラリー・ハンター・ダイレクター/フェロー)によって、より迅速で実用性の高いAIを実現させる。
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IBM Think 2018で講演する
バージニア・ロメッティ
会長兼社長(CEO)

 米IBMのロメッティCEOは、「世の中に存在するデータの8割はAIの学習データに活用されていない」と指摘。その多くは企業がもつ販売情報や顧客情報が占めるという。例えば、企業のデータをオンプレミス(客先設置)のPOWER9とエヌビディアのGPUを搭載するサーバーで学習させ、その学習済みの知見のみをデジタル・プラットフォームである「IBM Cloud」に上げる。データ本体は保護しつつ、日々刻々と進化する知見のみをクラウド上に展開すれば、企業ユーザーにとってAIがより使いやすくなる。他社に自社のデータが渡ることなく、データを活用したAIのメリットを享受するのが狙いだ。

 データの保護は、企業が長年にわたって運用している基幹業務システムを保護することにもつながる。IBMは本来的に基幹業務システムに強いコンピュータメーカーだ。この強みをベースにしつつ、デジタル・プラットフォームのIBM Cloudと、AIのWatsonを階層的に連携させることで、企業の競争力を飛躍的に高められる。自社の強みを生かしつつ、デジタル時代に勝ち残れるよう自らを転換させていく方針を示した。
 

次世代エコシステムを構築へ
開拓的イノベーションを呼びかける

 「IBM Think 2018」と併催されたビジネスパートナー向け「IBM PartnerWorld」では、およそ2000社のIBMパートナーが一堂に会した。米IBMでビジネスパートナーを担当するジョン・テルシュ・ジェネラルマネージャーは、「パートナーの成長できる次世代のエコシステムを構築する」と宣言。パートナーがもつ業種・業態のノウハウと、企業向けに特化したAIであるWatsonやデータ保護、クラウドを組み合わせて、他社には真似のできない独自の価値をつくりだしていく。

 クラウドの登場でオンプレミスのサーバーが以前のように売れなくなったことを「破壊的イノベーション」だとするならば、パートナーが構築する業務アプリケーションにWatsonを組み込んでいくことは、「開拓的イノベーション」につながるとIBMは考える。既存システムを“破壊”するのではなく、既存システムにAIを組み込むことで、新境地を“開拓”する。この開拓者精神こそが「ビジネスパートナーの成長につながる」とパートナー各社を鼓舞。ともに成長していくことを呼びかけた。