応研(原田明治社長)は主力の中堅・中小企業向け基幹業務ソフトである「大臣NX」シリーズのSaaS版として、「大臣NXクラウド」を6月にリリースする。クラウド化の動きが鈍かった中堅・中小企業向け基幹業務ソフト市場だが、ここにきて主要メーカーが相次いで本格的なクラウドシフトの姿勢を鮮明にしている。ついに、市場が大きくクラウドに動くか──。(本多和幸)

大臣NXは会計から順次SaaS化

 応研がSaaS型で提供するクラウド製品は、先行投入した社会福祉法人向け会計ソフトの「福祉大臣NXクラウド」のみ。財務会計、販売管理、給与計算などの製品については、パートナーであるNECネクサソリューションズが自らクラウド環境を用意し、「基幹業務SaaS by 大臣」としてサブスクリプション形式で提供しているが、応研自身はクラウドで提供していなかった。

 しかし、応研もついにクラウドシフトのロードマップを明らかにした。6月から、順次クラウド製品群を「大臣NXクラウド」ブランドの下にリリースする。まずは財務会計製品である「大蔵大臣NX」、建設業特化の「建設大臣NX」をSaaS化し、販売管理、顧客管理、給与計算、人事管理も順次SaaS版を市場投入する予定だ。
 
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藤井隆文
東京本社統括マネージャー

 このタイミングでクラウド製品のリリースを発表した背景について、同社の藤井隆文・東京本社統括マネージャーは、「ユーザーニーズの高まりが一番大きな要素。中小企業では、ユーザー企業側がハードウェアのメンテナンスをする人的リソースを確保できなくなってきているという切実な事情もあり、経営層にもクラウドを求める意識が高まってきている」と説明する。販売パートナーの商談に応研のスタッフが同行して製品のデモを行うような場面でも、クラウドの選択肢はないのかと問われることが急激に増えたという。

 さらに、先行して提供していた福祉大臣NXクラウドが、観測気球の役割を果たした。藤井統括マネージャーによれば、「福祉大臣NXクラウドへの評価が販売パートナーからもお客様からも高かったことに加え、会計だけでなく給与計算や人事管理などもクラウド製品を出さないのかという声もかなりいただいていた」とのことで、こうした声が、大臣NXシリーズの主要製品のクラウド化に踏み切る大きな判断材料になった。
 
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安藤直樹
開発部基礎開発チーム
リーダー

 クラウドインフラには「Microsoft Azure」を採用し、ユーザー企業ごとに専用のVMを用意する。大臣シリーズの対応OSはWindows系のみ、対応データベースも「SQL Server」シリーズのみであることを考えれば自然な選択にみえる。「クラウドインフラとしての利用料金だけで考えるとAzureよりも安いコストを提示してきたクラウドベンダーもあったが、開発の工数やメンテのしやすさなどを考慮」(安藤直樹・開発部基礎開発チームリーダー)して総合的に判断した。

 また、SaaS版のリリースから1か月後にあたる7月には、ソフトウェアライセンスのみをサブスクリプションで提供し、ユーザーや販売パートナーがクラウド環境を自由に選択できるプランもラインアップする計画だ。藤井統括マネージャーは、「傾向としては、SaaS版は事務機メーカー系の販社や事務機ディーラーのビジネスモデルにフィットし、ソフトウェアライセンスのサブスクリプションモデルは、自社のテクノロジーやツールと業務ソフトをセットにしてソリューションとして提供するSI系のパートナーにフィットするというイメージ」と説明する。応研は大臣シリーズ全般について、クラウド環境での動作保証には取り組んでおり、その対象となるクラウドサービスも年々拡充してきた。現在では、AWSやAzureをはじめ、国内外の有力IaaSには軒並み対応済み。SI系パートナーのビジネスの状況次第では、さらに拡充していく方針も示している。

本当の戦いはこれから

 応研が活躍する中堅・中小企業向け基幹業務ソフト市場では、ピー・シー・エー(PCA)が2008年にいち早くSaaS製品(現在のPCAクラウド)のリリースに踏み切ったが、長らく競合製品が登場せず、同社の“一人旅”状態が続いてきた。この状況はPCAに先行者利益をもたらしたが、競合ベンダーのクラウド化が進まなかったことでユーザー側の選択肢が増えず、市場形成が遅れた側面もある。PCAはほぼ10年をかけ、今年1月にPCAクラウドのユーザーが1万法人を突破したが、同社幹部は週刊BCNの取材に対して、PCAクラウドの成長が期待よりも遅かったことを認めている。

 しかし直後、市場は大きく動いた。今年2月にオービックビジネスコンサルタント(OBC)が主力製品群の全面的なSaaS化を掲げ、まずは財務会計と給与計算のSaaS製品をリリースした。そして今回、応研がさらに後に続いた。藤井統括マネージャーは、「PCAはクラウドで先行するベンダーとして意識してきたが、OBCとSaaS製品リリースのタイミングがほぼ同じになったのは偶然」と話すが、ユーザーからは「ようやく大手3社のクラウドが揃って検討しやすくなった」との声も上がっているという。主要メーカーの相次ぐクラウドシフトは、中堅・中小企業向けクラウド基幹業務ソフト市場そのものの成長を後押しする大きな要因になり得る。また、19年10月に消費税改正が予定されているため、大きなリプレース需要が発生するこのタイミングで、市場全体でユーザーのクラウドシフトが爆発的に進む可能性もあるだろう。

 大臣NXクラウド製品群の具体的な価格体系はまだ明らかになっていないが、SaaS版、ソフトウェアのみのサブスクリプション提供とも、まずは年額課金での提供を基本とし、3年や5年単位での支払いプランも検討している。月額課金は現在のところ考えていないという。先行するPCAは、一定期間の利用料金をまとめて払う「プリペイドプラン」をラインアップし、PCAクラウド成長のきっかけをつかんだが、そうした先行事例を十分に研究している様子が見て取れる。

 PCAは現在、全社売上高に占めるPCAクラウドの割合が約20%まで成長している。対して追う応研は、大臣NXクラウドを19年10月までに全社売上高の10%以上を占める規模に成長させるという目標を掲げている。