日本IBMは、AI対応能力を強化することでPower Systemsサーバーのビジネスを活性化させる。GPUメーカーのエヌビディアとのAI関連技術の共同開発や、複数ベンダーとの協業でPower Systemsベースの技術開発を行う「OpenPOWERプロジェクト」などから得た知見をベースに、Power SystemsのAI対応の機能を拡充。これまでのバックエンド処理中心の用途に加えて、AIを駆使して売り上げや利益を伸ばす用途へとPower Systemsビジネスの領域を広げていく。(安藤章司)
Powerビジネスは「5期連続」の増収
朝海孝
常務執行役員
Power SystemsはIBM独自アーキテクチャーのPowerプロセッサーを搭載したサーバーで、UNIX系のAIXや、業務用のIBM iなどのOSが稼働する。とりわけ旧AS/400の流れを汲むIBM iは今年で30周年となる老舗プラットフォーム。ユーザーの多くを中堅・中小企業が占めているのが特徴で、IBMビジネスパートナーの主力商材として一時代を築いたサーバーでもある。バックエンド系の業務アプリケーションを稼働させるケースが多く、「業務専用機」のイメージが強かった。
日本IBMの朝海孝・常務執行役員ハードウェア事業本部長は、「Power Systemsのビジネスは5期連続の増収だ」と胸を張る。しかし、IBMビジネスパートナーのPower Systemsサーバーの販売ビジネスに限ると、将来の成長余地は限られるようにみえる。既存ユーザーの更改需要に支えられてきた側面があり、伝統的な業務アプリケーションを動かすサーバーとの印象が強いためだ。また、クラウド化の流れも無視できない。
そこで、打開策として打ち出したのがAI対応の能力強化による新しい市場の開拓だ。Power Systemsのプラットフォーム上でAIを高速稼働できるよう研究開発を行うOpenPOWERのプロジェクトでは、AI駆動に適したGPU(グラフィック処理ユニット)開発のエヌビディアや、AI研究に力を入れるグーグルなど米国企業が結集。日本からは日立製作所などが参加している。また、エヌビディアのGPUと、最新CPUのPOWER9との組み合わせで、米エネルギー省向けのスパコンも開発してきた。
こうした一連の取り組みの成果として、POWER9とエヌビディアのGPUの組み合わせでは、x86上の同じ“GPU”と比較したAI学習の処理速度で約3.7倍の処理速度を実現。「Power Systemsは、世界最速級のAIプラットフォームサーバーの性能を獲得した」と、間々田隆介・コグニティヴ・システム事業開発AI推進部部長は、従来の業務用サーバーと高速でAIを駆動できるサーバーの“二つの顔”を持つことに成功したと話す。
AI対応の強化によって、Power Systemsのユーザーは、既存のシステム資産を生かしながらAI機能を追加できるし、AIの活用が目的の新規ユーザーはOpenPOWERプロジェクトなどで培ってきた「Power SystemsのAI処理の速さを享受できる」(伊藤幸生・プロダクト・マーケティング・プロフェッショナル)としている。
ソフトへのシフトが急ピッチで進む
Power Systemsのハードウェア・プラットフォームとしての性能を高めてきたIBMは、並行してPower Systemsに対応したソフトウェアの充実にも力を入れる。例えば、「PowerAI Vision」は、近年のAI学習に欠かせないディープラーニングの学習モデル構築に役立つツール群。ディープラーニングの専門的な知識がなくても、対象分野の生産性を高めるモデル構築を支援する。
日本IBMでは、こうしたソフトを、Power Systemsの販売を担うハードウェアの事業部門で一元的に取り扱う。朝海常務執行役員は、「ハード事業部門でありながら、ソフトビジネスへのシフトが急ピッチで進んでいる」と、ソフトの比重を高めていくと話す。Power Systemsの処理速度を高めつつも、同時にAI領域を中心にIBM独自のソフトや、優れたOSSの取り込みを推し進める。ハードとソフトをPower Systemsビジネスの両翼と位置づけることで、「箱売りからのシフトを一段と加速させ、継続的なビジネスの成長が見込めるようになる」とみる。
とはいえ、足下のPower Systems事業では、AI領域やソフト比重はまだそれほど高くない。AIをはじめとするPower Systemsの付加価値を引き出す技術者や売り手をどう育成するのかが課題となる。担ぎ手がいなければ絵に描いた餅になりかねないからだ。IBMビジネスパートナーにおいても、Power Systemsが目指す新領域にどこまで踏み込めるかが成長へのカギを握る。