日本IBMが、先行する大手クラウドベンダーに攻勢をかける。ターゲットは、クラウド移行が加速していくとみられる基幹業務システムの領域。オンプレミス(客先設置)の割合が高く、クラウド移行の際の商談規模が大きくなる基幹領域は、クラウドベンダーにとって魅力的だ。ライバルであるAWS(Amazon Web Services)も基幹業務システムの取り込みを重点施策に挙げる。日本IBMは、長年の基幹業務システムの構築経験をもっており、この領域のクラウドビジネスではAWSやAzureに対して十分な勝算があると踏んでいる。(安藤章司)

 強みとする基幹業務システムの領域では、先行するAWSやマイクロソフトAzureに「打ち勝っていける」と、日本IBMの三澤智光・取締役専務執行役員は自負している。現在、富士フイルムのオンプレミスシステムの約80%をIBMクラウドへ移行するプロジェクトが進行中。稼働後の2年間の試算ベースで運用コストを約45%削減する意欲的なものだ。

 「クラウド移行で削減した約45%のコストを新しいデジタル領域に投資できる」(三澤専務)と指摘。デジタル領域の拡充に向けての原資を確保すると同時に、IBMクラウドへ移行することで、AI(人工知能)のWatsonをはじめとするクラウドネイティブの付加価値アプリケーション群や、先進的な開発手法も利用しやすくなる。ライバルのAWSも自社のクラウド上に100種類以上のサービスを取り揃えて、クラウド移行メリットの最大化に努めている。

 ユーザー企業がオンプレミスで運用している重要システムを巡っては、中長期の単位での契約も行っている。先の富士フイルムのプロジェクトは全体で5年の契約だという。オンプレミス基盤の減価償却の期間が一般的に4~5年であることを踏まえ、クラウドサービスでありながら5年で契約した。

 クラウドサービスは、時間単位で利用できる柔軟性をもつが、この短さでは基幹業務システムの運用には馴じまない。だからといって激しい競争によって毎年のように利用コストが下がるクラウドにあって、長すぎる契約は逆にデメリットが大きい。AWSはこれまで累計で60回余りの値下げをしている。5年の長さは基幹業務システムの特性と、クラウドの特性のバランスをとった契約期間だと日本IBMではみている。

 基幹業務システムのクラウド移行には工数がかさみ、パートナーの参画なくしてビジネスに厚みをもたせるのは困難。そこで今回のIBMクラウド事業のパートナーにはインテック、日本情報通信(NI+C)、SRAホールディングスグループのAIT、兼松エレクトロニクス(KEL)、エス・アンド・アイなど基幹業務システムやWatsonに強いSIerを中心に10社が参画を表明している。

 IBMクラウドやWatsonに精通したエンジニアの絶対数が国内では不足しており、パートナー技術者の育成支援に力を入れる。基幹業務システムのクラウド移行が活性化すれば、「パートナーにっても大きなビジネスチャンスとなる」と、日本IBMの三浦美穂・執行役員パートナー事業・アライアンス事業統括本部長は呼びかける。

 対するAWSも、最上位のプレミアパートナーに新しく伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)を迎え入れるとともに、住友化学の大規模SAP S/4HANAの移行事例を挙げながら「SAPなどの基幹系システムや金融機関の勘定系システムのAWS移行を重点領域」(アマゾン ウェブ サービス ジャパンの今野芳弘・パートナーアライアンス本部本部長)と位置づける。これにマイクロソフトAzureも加わり、世界大手クラウドサービスの争いが一段と過熱する見通しだ。