富士通は来年1月、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援を専業とする新会社を設立する。DXのコンサルティング・事業企画から、システム構築・運用までをワンストップで提供し、従来のSIサービスよりも高い利益を生むことを目指す。新会社は単体でも成長できる事業体となることを前提としており、場合によっては富士通本体との競合も辞さない覚悟だという。(日高 彰)
時田隆仁社長
人員は3年で2000人規模、投資は5年で5000億円に
富士通がDX事業強化のため新会社を設立するという動きは、8月以降一部のメディアで報じられていたが、9月26日に開催した経営方針説明会で正式な計画として時田隆仁社長から発表された。
新会社は社員数約500人でスタートする予定。富士通総研で上流工程を担当するコンサルタントのほか、富士通本体でデータ分析やAI関連の開発・営業に携わる社員が移籍する。その後は外部からの採用も進め、2022年度には2000人規模まで拡大する予定。計画通り推移すれば、国内SI子会社としては富士通エフサス(6月20日現在6619人)、富士通マーケティング(3月31日現在3289人)、富士通エフ・アイ・ピー(4月1日現在2393人)に次ぐ規模となる。また、DX事業推進のため、今後5年間で5000億円の投資を行う方針も明らかになった。
DX事業にこれだけ経営資源を集中投下する理由は、「富士通自身がIT企業から『DX企業』になる」(時田社長)ためだ。同社では、企業の情報システム部門からSI業務を受託する、従来型ITビジネスの市場は年々縮小すると見込む。それに対して、新技術やデータを活用したビジネス、その実現のためのITモダナイズは大きく拡大するとみており、これらの領域の事業を伸ばさない限り、今後の富士通の成長はないと判断した。10月1日付で、時田社長は新設職のCDXO(最高デジタルトランスフォーメーション責任者)に就任した。
同社が経営目標として掲げている「22年度にテクノロジーソリューション(SIサービスと関連商品販売)事業で営業利益率10%」の達成にあたっても、新会社は欠かせない存在になる。時田社長は「DX新会社は高付加価値モデル。従来のSIと違う利益率を生む」と述べ、新会社ではコンサルティングを中心とすることで高い利益率を確保する考えだ。「営業利益率10%への道は決して容易ではないが、成長軌道に乗せるシナリオを着実に描くことで、達成できる数字と考えている」(時田社長)とし、DX事業の強化によって、利益率向上のロードマップがより盤石になることを強調する。
単体で成長できる会社へ、他社製品も躊躇なく扱う
説明会で時田社長が強調したのが、新会社は「単体で成長できる会社にしていく」という点だ。富士通本体の中にDX事業の部隊を組織することも検討したが、その形態では既存事業との連携・調整がつきまとい、顧客に提供する価値の最大化ができないという結論に至った。時田社長は「富士通の製品やソリューションを前提にしたビジネスはしない」と話し、顧客にとって最適なものであれば、新会社は他社の製品でもためらうことなく取り扱っていくことを明言した。
人事制度や職種といった組織体制、ルール面に関しても、新会社は富士通グループの制度に合わせることはなく、ゼロベースで検討する。「新会社は将来的に富士通グループのリファレンスになる」(時田社長)としており、新しい取り組みを成功させたうえで、富士通本体やグループ各社に“逆輸入”していきたい考えだ。
新たな目標数値として、グループ全体でのテクノロジーソリューション事業の売上高を、22年度に3兆5000億円まで成長させることとした。このうち3分の1強にあたる、1兆3000億円をデジタル領域の売り上げが担う計画だ。ただ、同社では顧客の新規ビジネスのためのIT導入だけでなく、その前段階となる、既存システムのモダナイズや、関連するハードウェア/ソフトウェアの販売もデジタル領域の売り上げに計上する。デジタル領域の事業をどう定義するかには曖昧さも残る。
また、ほとんどのITベンダーがDX推進を掲げる中、新会社が何を強みとして訴求できるのかもまだ明確ではない。富士通グループには巨大な顧客基盤があるため、既存ユーザーの情報システム部門に加え、同じ企業の事業部門や経営トップ層にもアプローチ先を広げることで、DX支援の売り上げを早期に伸ばせるという目算のようだが、海外勢やスタートアップ企業からも革新的な技術やサービスが日々生まれているデジタルビジネスの領域で、時田社長自身「極めて伝統的なIT企業」と認める富士通が、どこまで存在感を発揮できるのか。CDXOとしての時田社長の手腕が問われる。