ERP(基幹業務システム)パッケージベンダーのワークスアプリケーションズは、販売管理(SCM)と財務会計のパッケージを軸に経営の立て直しを急ぐ。稼ぎ頭だった人事給与(HR)パッケージ事業を今年8月に売却して得た資金を使い、SCMと会計分野における次期製品の開発を進めるとともに、建設業をはじめとする特定業種に向けた営業を重点的に進めることで収益力を取り戻す。9月30日付で代表取締役最高経営責任者(CEO)に就いた井上直樹氏は、本業の稼ぎを示す営業利益ベースで「来年度(2021年6月期)以降の黒字転換を目指す」と、今年度中に体制を整え、来年度から再び事業を軌道に乗せていく方針。(安藤章司)
井上直樹CEO
創業者の牧野氏退任、井上CEO体制に
ワークスアプリケーションズは、カスタマイズなしで使える大企業向けの人事給与パッケージがヒットして急成長してきた国産ERPパッケージベンダー。しかし、人工知能(AI)技術を駆使した次期製品「HUE(ヒュー)」の開発費が予想以上に膨らんだことなどから赤字が続いていた。今年8月にHR事業を米投資会社のベインキャピタル系のSPC(特別目的会社)に売却。経営難の責任をとるかたちで、創業者の牧野正幸・前CEOが退任。後任としてシティバンク銀行やSMBC信託銀行などの金融機関で企業再建の経験を持つ井上氏がCEOに就任している。
井上CEOは、「ERPビジネス全体を俯瞰すれば、SCMや財務会計は人事給与よりも基幹業務システムの本丸に近い存在。優良顧客を多く抱える当社の経営立て直しは十分に可能」だとして、販売管理を中心としたSCMと会計を軸に経営の再構築を急ぐ。
新体制では、現行ERPパッケージ製品「COMPANY(カンパニー)」の後継となるHUEの完成度を高めることと、特定の業種に向けた営業や開発体制を整備することの二つを経営方針の柱として掲げる。まずHUEについては、会計ユーザーですでに一部稼働しているのに加え、SCMの分野でも「早いタイミングでファーストユーザーが本稼働する」としている。HUEの開発投資がかさんでいたことが赤字の大きな原因であったため、本稼働して売り上げが立つようになれば黒字化への道筋がより明確に見えてくる。
最盛期は年商500億円、人員7000人規模
HUEの開発を急ぐあまり開発人員が増大していたのも経営の重荷になった。井上CEOが社外取締役としてワークスアプリケーションズの経営に参画した17年末時点で、インドをはじめとする海外の開発子会社を含めたグループ従業員数は7000人規模。当時の年商500億円(17年6月期)のERPパッケージベンダーとしては大所帯で、さらにHUEの開発が遅れたことで人件費が一段とかさんだ。今回、HR事業を売却するなどの一連の再編によってワークスアプリケーションズの連結従業員数は約3400人と半減させている。SCMや会計におけるHUE移行が本格化すれば、売り上げも立つようになり、人件費に耐えられるようになる見込み。
とはいえ、HR事業の売却によって営業人員も半減しており、受注や売り上げにつなげる営業体制の整備が今年度(20年6月期)の大きな課題となる。
過去を振り返ると、ワークスアプリケーションズは、カスタマイズなしで使える大企業向けERPパッケージとして、ライバルのERPベンダーとの差別化を図ってきた。人事給与は労務管理上の規制が多い分野で、ノンカスタマイズで使えるワークスアプリケーションズのパッケージは非常に高く評価されてきた。だが、SCMについてはユーザー企業にとって競争力の源泉となる領域であり、個社ごとの独自の業務プロセスが多い。実際問題として、SCMの全ての領域をノンカスタマイズで対応するのは難しく、「SCMの中でも共通で使える部分を優先して開発する」(井上CEO)方法を取らざるを得ない。
業種に狙い、SCM業務の共通部分を担う
そこで、特定の業種に焦点を絞って、その業種内で共通するSCMの業務プロセスを優先的に開発することを重視する。当該業種でリーダー的な企業、同業者への影響力が大きい先進的な企業の業務プロセスの一部は、同じ業種の中で事実上の標準となっているケースが少なくない。ワークスアプリケーションズでは、そうしたリーダー的、先進的なユーザー企業を顧客にしていくことで、共通部分のノンカスタマイズ化を進めていく。
もともとワークスアプリケーションズの製品は大企業をメインターゲットとしており、これはSCMや会計でも同じだ。まずはすでに多くの優良顧客を持つ建設業界への営業を一段と強化するとともに、「建設業と類似するプロジェクト型の業務プロセスを持つ他の業種への横展開も進める」方針。大企業で使うSCMは、海外拠点の対応も求められることから、中国、シンガポール、インドの拠点を活用して、日系企業の海外サポートも充実させていく。
HR事業の売却によって、当面の開発資金を手にしたものの、本業の稼ぎを示す営業利益ベースの今年度の黒字転換は難しい見込み。HUEの完成度を一段と高めるとともに、業種戦略を実行できる営業体制の整備を推進し、来年度以降の黒字化を目指していく。