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主要ITベンダーの1Q決算 コロナの影響顕著も反転攻勢に光明 通期の利益確保に全力を注ぐ
2020/08/20 09:00
週刊BCN 2020年08月10日vol.1837掲載
3月決算企業の今年度(2020年3月期)第1四半期の業績が出揃いつつある。新型コロナウイルス感染症の猛威が直撃した今年4月から6月、各社のビジネスはどのように推移したのか。市場環境の悪化により向かい風を受けたのは共通だが、それを乗り越えるための方針や通期業績の着地点が鮮明になってきた。
(日高彰、本多和幸、齋藤秀平、安藤章司)
富士通
収益性向上の取り組みがコロナの影響をカバー
富士通の第1四半期の売上高は8027億円で、前年同期比359億円の減収となった。このうち新型コロナの影響は358億円で、コロナ禍がなければ前年並みとなるはずだったところ、コロナの影響が丸々前年からの減収分となった形だ。一方、営業利益は前年同期から188億円の増益となる222億円(営業利益率2.8%)を確保。新型コロナは121億円の減益要因となったが、システム構築事業での採算性の改善、コストの効率化、イベント出展の中止やオンラインイベントへの移行による費用減など、収益性の向上幅がコロナでの減益を上回り増益となった。
期初時点では見送っていた業績予想を今回発表し、今年度の売上高は3兆6100億円(前年比6.4%減)、営業利益2120億円(0.2%増)、当期利益1600億円(±0%)と、減収かつ利益は横ばいとなる見通し。これらは新型コロナの影響として、売上高で1100億円の減収、営業利益で380億円の減益を織り込んだ数字だ。
民間では製造、流通、小売り、ヘルスケアなどの業種で、プロジェクト実施時期の見直しが発生しているほか、中堅・中小企業では商談そのものが停滞するなどの影響が出ている。一方で、中央官庁・社会インフラ企業からの受注は第1四半期で前年比9%増と堅調。業績への影響は経済動向から遅れて出ることを想定しており、今年後半も楽観視はできないものの、ここ数年進めてきた採算性の改善や営業費用の効率化の効果が出ている。さらに、メインフレームの更新需要、スーパーコンピューター「富岳」の納入、5G基地局の所用増加といったプラットフォーム製品での増収要因もあることから、全体では前年並みの営業利益を確保できると見込んだ。
なお、同社では業績予想について、「経済活動の停滞は1Q(第1四半期)で底を打ち、2Q、3Qと徐々に回復へと向かい、4Qでは本格回復している」ことを前提としているが、海外に関しては新型コロナの影響がさらに大きいことから、下期の反転は期待できず回復は来年度以降になるとみている。
NEC
通期予算は変更なし新規案件獲得に手応え
一方、NECの第1四半期決算は、売上高が前年同期比10.1%減の5877億円、営業損益は103億円の赤字で前年同期から137億円減益、営業利益から突発的な要因を除いた調整後営業利益は58億円の赤字で同134億円の減益となった。前年度に流通、金融向けの大型案件があったことやビジネスPCの特需があったことの反動減と、新型コロナによる市況悪化が主な要因となった。一方で、民需については「いまだに不透明感が強く楽観視はできないものの、6月単月の受注は前年比で97%と回復してきている」(森田隆之副社長兼CFO)ことも明らかにした。
同社は5月の19年度通期決算発表時、新型コロナの20年度通期決算への影響について「売上規模で5~6%、金額にすると1500億~1800億円程度、営業損益で500億円程度のマイナスの影響がある」(新野隆社長)との見解を示していた。同時に公開した20年度通期業績予想は、売上高が前年度比2.1%減の3兆300億円、営業利益は17.6%増の1500億円、調整後利益は13.2%増の1650億円だったが、これは新型コロナの影響を加味していない計画。それでも新野社長は、「マクロ環境の変化に一定の耐性を持っている予算」だとして、費用削減の努力やニューノーマルにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)需要の取り込みにより、ある程度リカバリーできるとの見方を示していた。7月31日の第1四半期決算発表会でも、森田副社長兼CFOは「市況悪化の影響は5月時点の想定の範囲内で推移しており、通期業績予想は変更しない」とコメントした。
第1四半期の業績は厳しい内容に見えるものの、「1Qで70億~80億円弱の効率化を行い、年間で最大300億円規模の費用削減が可能だと考えている」(森田副社長)とも。さらに、強みを持つ画像解析や生体認証を推進力として、感染症対策支援、新しい働き方を実現するソリューションなどの提案によりニューノーマル需要を掘り起こし、200億~250億円程度の利益の上積みを目指す。こうした施策によって、計画通りの利益確保は十分に可能という手応えを感じているようだ。
日立
コロナのマイナス影響は大きいがIT分野が収益の「防壁」に
日立製作所が7月30日に発表した20年度第1四半期の決算内容にも新型コロナの影響は色濃く出たが、IT分野は堅調に推移し、河村芳彦・執行役専務CFOは「ITの収益が会社全体の収益のバックストップ(防壁)になっている」と述べた。
全社の売上高は前年同期比21.6%減の1兆5942億円、調整後営業利益は同53.1%減の583億円となった。新型コロナにより、売上高で2998億円、調整後営業利益で657億円のマイナス影響が出た。
IT事業セグメントの売上高は同7%減の4301億円、営業利益は同19億円減の382億円だった。営業利益率は8.9%で、主要5事業セグメントの中で最も高かった。通期では引き続き営業利益率10%の堅持を目指すとしている。
河村専務はIT事業セグメントについて「好調だったのは公共セクターのIT事業。コロナの問題の中、リモートワークやタッチレス、テレビ会議などで大変大きな需要が現れ、非常に大きく伸びている」とし、「これから教育や医療など、必ずしもIT投資が十分でなかったところに継続的な投資が出てくる。ここを非常に大きく見ている」との見通しを示した。
日立が注力するLumada事業については、全体の売上高は同10%減の2190億円だったものの、AIやIoTを活用した新規ビジネス創出のコンサルサービスなどを含むLumadaコア事業の売上高は同50億円増の1320億円となった。河村専務は「ほぼ計画通り伸びている」と総括し、「これからさらにLumada事業に投資を集中させる」と語った。
野村総合研究所
海外受注高が8割減 国内の伸びで落ち込みをカバー
大手SIerに目を向けると、野村総合研究所(NRI)の20年度第1四半期業績は、国内が堅調に推移するも、海外事業の主力部分を占めるオセアニア地域が新型コロナウイルスの影響で振るわず、増収減益となった。オセアニア地域の売上高は前年同期比で14.1%減の76億円と落ち込んだが、これを主に国内ビジネスでカバーすることで、NRIグループ全体の売上高は同1.3%増の1311億円、営業利益は同10.7%減の181億円で着地した。
国内の受注高を見ると、金融ITソリューション事業セグメントが前年同期比14.0%増の465億円、産業ITソリューションが3.8%増の239億円と増収だったのに対し、コンサルティング事業セグメントが前年同期比4.6%減の124億円と振るわなかった。NRIは新規案件の獲得に際して、コンサルティングから入りSIにつなげていく傾向があるが、第1四半期は緊急事態宣言の混乱でコンサルティングの新規案件の受注が減少。ただし、宣言解除後の「6月以降のコンサルティング案件は増加傾向にある」(深美泰男専務)としている。
一方、オセアニアや北米、アジアなど海外での受注高を見ると、前年同期比80.7%減の15億円と大幅な減少となった。主力のオーストラリアでは南部の州で新型コロナの感染者が増え、7月から再び移動制限がかかるなど厳しい状況にある。持ち直し始めている国内で、海外の減少分をどれだけカバーできるかが今期業績のポイントとなりそうだ。
SCSK
M&A効果で増収増益 6月以降は既存ビジネスも復調
SCSKの20年度第1四半期決算は、Minoriソリューションズが新しく連結対象となったこともあり、増収増益となった。連結売上高は前年同期比3.3%増の943億円、営業利益は同22.2%増の102億円。売上高の増加額は30億円だが、うちMinoriソリューションズの連結効果の約37億円を差し引くと微減となる。受注高はMinoriソリューションズの連結効果の約25億円があったものの、前年同期比4.4%減の837億円となった。
SCSKの岡恭彦上席執行役員は、「主力のシステム開発は、緊急事態宣言が解除された6月以降、商談が前へ進み始めている」として、第2四半期以降の市場環境への期待感を示した。今年度通期の業績予想は変更せず、国際会計基準の売上高で3800億円、営業利益で410億円(昨年度は日本基準で売上高3870億円、営業利益423億円)のままとする。
直近の商談を見ると、働く場所を選ばないリモートワークなどがコロナ禍の影響で常態化する傾向にあり、関連するIT投資意欲が高まっている。とりわけ「オンラインでの顧客接点の強化に力を入れるユーザー企業が目立つ」(岡上席執行役員)とし、こうした需要を積極的に取り込んでいくことで受注増につなげていく。
3月決算企業の今年度(2020年3月期)第1四半期の業績が出揃いつつある。新型コロナウイルス感染症の猛威が直撃した今年4月から6月、各社のビジネスはどのように推移したのか。市場環境の悪化により向かい風を受けたのは共通だが、それを乗り越えるための方針や通期業績の着地点が鮮明になってきた。
(日高彰、本多和幸、齋藤秀平、安藤章司)
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外部リンク
富士通=https://www.fujitsu.com/jp/
NEC=http://jpn.nec.com/
日立製作所=http://www.hitachi.co.jp/
野村総合研究所=https://www.nri.com/jp/
SCSK=https://www.scsk.jp/