京都に本拠地を置くAIアルゴリズム開発のRist(リスト)は、優れたAI技術者の継続的な採用を実現することで売り上げ増につなげている。AI技術者の選定基準として国際的なデータ分析の競技会「Kaggle(カグル)」を採用。上位の技術者は勤務時間のうち最大50%をKaggle競技のために割り当てる制度を取り入れている。AIの認識や予測の精度を極限まで高める研究開発力が差別化要素となり、昨年度(2021年3月期)の売上高は前年度比1.8倍に伸びた。今年度も2倍近く伸ばす目標を掲げる。(安藤章司)
物体の認識精度やデータ分析の予測精度を極限まで高めるには、AIアルゴリズムや統計学に精通した人材を揃える必要がある。同社は16年に京都大学発のAIベンチャー企業として創業。ほぼ京都大学に焦点を絞って人材獲得戦略を展開してきた。さらに研究開発型であることを分かりやすく示す基準として、Kaggle競技で上位に入賞できるよう会社を挙げて取り組んでいる。すでにKaggleで上位に入賞した技術者が多数在籍しており、「(Kaggle上位入賞者の)○○さんのもとで働きたい」(長野慶・代表取締役副社長)と、AI技術者を目指す学生が入賞者を名指しして入社を希望するケースも少なくないという。
長野 慶 副社長
Ristは、これまで主に製造業向けにAIを使った生産物の品質検査の自動化、効率化で業績を伸ばしてきた。自動車部品などの規格品の検査では限りなく100%に近い精度を求められ、食品製造では微妙に色かたちが違う食材を正しく判別する能力が重視される。少ない学習量で最大限の精度を出すための独自のアルゴリズムの開発や、自社で検査対象となる物体の高精度な三次元デジタル模型をつくり、これをAIに学ばせるといった学習方法の探究に努めている。
データ分析の分野では11月に、不動産会社の東急リバブルと共同で「マンション価格査定AI」を発表。査定担当者の経験と市場動向を踏まえて価格を算出するプロセスをAIに学ばせ、査定担当者と同等水準の精度で査定価格を割り出せるようにした。実際に業務に組み込んで使うことで年間1万5000時間の削減ができる見通し。
また、新規事業として、産業用ロボット領域への参入も進めている。外観検査のAIを応用することで、形状にバラツキがある物体でも、重量バランスを考えて適切に掴める産業用ロボットの開発に取り組む。例えば弁当工場で具となる海老フライやトンカツを掴んで弁当箱に乗せる用途が想定される。他にも形状のバラツキが大きい産業廃棄物、鉱石、農作物などの選別や仕分けでも需要があると見る。形状が決まっている規格品を産業用ロボットに掴ませることは比較的容易だが、「形状が一定でないものを産業用ロボットに扱わせるには、AIを活用した一層の技術開発が欠かせない」(長野副社長)と、Kaggle競技などで鍛えた先端的なAIを産業用ロボットに応用していく。
課題は先進性を追求するあまり個別のシステム構築(SI)に偏重する傾向があり、在籍する技術者の頭数で売り上げがほぼ決まってしまうことだ。Ristは18年に京セラコミュニケーションシステム(KCCS)グループの傘下に入り、現在の従業員数はインターンの学生を含め60人弱。親会社であるKCCSの得意領域は個別SIで、研究開発型のRistはAIアルゴリズムをKCCSをはじめとするSIerに供給した方が売り上げを伸ばす余地が大きくなる。
ただし、AIの先端技術者をつなぎとめるためには自身のキャリアを伸ばせると実感できる新規性の高いプロジェクトを率先して獲得することが欠かせないのも事実。技術者にとって魅力ある案件をこなしつつ、同時に「国内外でのビジネスパートナーとの連携を進めていく」(長野副社長)ことで成長を促進させる。