前回は介護業界のIT化の経緯や現状を解説した。今回は、ベンダー側からの介護DXの代表的なサービスや製品を解説する。
介護分野での技術革新やDXには、二つの大きな流れがある。一つめは「ケア(介護サービス)の革新」だ。従来、人手ではできなかったサービスを、新たな技術やITにより実現した。代表例として、(1)排泄予測の「D Free」、(2)認知機能評価・改善の「CogEvo」、などがある。
二つめは業界の最大の課題である人手不足に対応した「働き方改革・生産性向上の革新」だ。単なる業務効率化にとどまらず、介護業務やビジネスモデルの変革につながっている。代表例として、(1)ビジネスチャットの「Chatwork」、(2)AIケアプラン作成、などがある。
D Freeはトリプル・ダブリュー・ジャパンの製品で、排尿を予測する機能を持つ。小さなデバイスを下腹部に装着することで尿の溜まり具合を検知し、排尿時間を予測し家族や介護職員のスマホ等に通知する。失禁前にトイレに誘導でき、ケアの改善や利用者の尊厳も守ることができる。尿失禁があると日常生活動作(ADL)が悪化し要介護度も高くなり、深夜徘徊時等の転倒リスクが3.1倍になると報告されている。尿漏れによる皮膚炎や褥瘡リスクも軽減できる。排泄ケア記録機能(排尿日誌)も持っており、個人単位のデータ分析が可能だ。従来の、尿意のあるなしに関わらず決まった時間にトイレ誘導したり、失禁を前提で大きめのオムツを履かせたり、というケアから大きく変革した。
D Free
CogEvoはトータルブレインケアのクラウドサービスで、タブレット端末などの画面上でゲームのように認知機能の評価と脳トレが行える。強みは、(1)J-MINT(認知症の予防法を探る研究)で採用されるなど、科学的な根拠に基づき効果が実証されている、(2)利用者の90%が「良かった」と答えるなど満足度が高い、(3)高齢者が1人だけでも簡単に使える、(4)クラウドサービスで安価に提供される――ことだ。要介護1と認定される要因の1位は認知症であり、認知機能の維持と認知症の予防が介護全体の抑制につながる。CogEvoは介護施設だけでなく、病院、薬局などでも利用され、40自治体で採用されるなど、導入が広がっている。シャープのテレビ「AQUOS」にも搭載され、一般家庭でも簡単に使える環境が整ってきた。今後の普及が期待される。
CogEvo
ChatworkはChatworkのビジネスチャットツールで、使いやすさ、導入のしやすさ、低価格などが評価され、多くの介護事業者が導入している。こういった情報共有ツールは利便性や業務効率化が目的で導入される場合が多いが、介護分野ではワークスタイルも変革している。例えば居宅介護支援事業所(ケアマネ)の場合、従来は朝に朝礼のため事業所に出勤、その後に利用者宅などを回り、夕方にFAXや連絡事項を確認するため事業所に戻るという業務が、導入後、直行直帰で業務を行う、連絡や情報共有をチャットで完結という流れになる。
もう一つ、介護分野で重要なのがIT化やDXの「入口」としての役割だ。介護職員はIT化への拒否反応を示すケースも多く、経営者やITベンダーの悩みの種になっている。しかし、誰もがLINEを使っており、チャットツールは介護職員にもハードルが低い。IT化やDXへの突破口となる。
また、介護分野でもAIが活用され始めた。多様な技術や製品のリリースが始まっているが、ケアプラン作成や見守りシステムでの画像解析などが先行している。ケアプランは利用者一人ひとりの要介護度や状態・希望に応じて、約20種類の介護サービス、多くの介護事業者、本人や家族と事業者のスケジュール、等を組み合わせて作成しなければならず、しかも毎月プランが変わる。これをAIで大幅に効率化した。AIを利用してケアプランを作成すると介護報酬も優遇されるなど、国も活用を後押ししている。まだまだ断片的な動きではあるが、ベンダー側からのDXが確実に進み始めている。
AIを活用したケアプラン作成
■執筆者プロフィール
仲川 啓(ナカガワ ケイ)
沖コンサルティングソリューションズ シニアマネージングコンサルタント
ITコーディネータ
大阪大学卒業後、OKI(沖電気工業)を経て沖コンサルティングソリューションズに勤務。介護を中心とするヘルスケア分野や自治体向け事業に長く携わり、現在は介護事業者向けコンサルティングや介護ロボットなどのメーカー向けコンサルティングに従事。ITコーディネータのほかに、スマート介護士Expertなどの資格も持つ。