最終回となる今回は「ペルソナ」「カスタマージャーニー」「UI/UX」「アジャイル開発」というキーワードで、どのようにサービスやITプラットフォームを開発していったかを見ていきたい。
スポーツ領域のコミュニケーション支援事業などを手掛けるPLAYMAKERにおける顧客は「選手」と「クラブ」で、さらに具体的にみていくと、選手の中にもプロ選手、プロ志向の大学生・高校生、アマチュアで選手を続けたい選手など、セグメントが細分化できる。クラブ側も、Jリーグのクラブや大学のクラブなどに細分化でき、クラブにおける監督やスタッフなど、具体的な顧客像まで描くことができる。いわゆるペルソナである。そして、ペルソナにより必要としている情報やサービスの内容が微妙に異なることが、ヒアリングや営業活動などの中からみえてきた。そのため、ペルソナごとにカスタマージャーニーを作成し、顧客ニーズを明確化していく作業を行った。
PLAYMAKERにおけるカスタマージャーニーの例
ペルソナごとにカスタマージャーニーを整理したことで、ニーズの違いが明確になり、その結果、PLAYMAKERのサービスもペルソナごとに分けることとなった。詳細にペルソナ像とカスタマージャーニーを描けたことは、創設者の三橋亮太氏や同社のスタッフがサッカー業界に精通していたことが大きい。
次に、カスタマージャーニーをもとに、サービスサイトのUI/UXをデザインしていった。モックアップツールを使いながら、ユーザー視点で三橋氏とスタッフから意見をもらいながら作成した。
モックアップツールによる画面イメージ
モックアップでUIが確定した後にシステムの開発に着手したが、ここでもウォーターフォール型の開発ではなくアジャイル開発で進めることで、要件の追加変更に柔軟に対応しながら進めることができた。
新規事業においてはシステムに対する要件が定まらないことが多い。システム開発を行う際は要件定義として開発チームが要件をヒアリングするが、世の中にない新しいビジネスを創出する場合は誰も要件を持っていないのである。特に、毎日ITを使って仕事をするわけではない人たちにITに対する要件をヒアリングしても、ヒアリングされた当人も何を答えて良いのか分からないという状態になるだろう。そのため、要件をヒアリングする考え方ではなく、ペルソナやカスタマージャーニーなどのマーケティングの手法も用いながら顧客ニーズを確認し、システム要件を一緒に創っていくという姿勢が必要である。そのためにUIのモックアップなどを活用しながらアジャイルに開発を進めることが求められるのである。
PLAYMAKERの事例を通じて新規事業におけるビジネスモデルやITプラットフォームの構築について解説してきたが、これはスポーツ分野に限ったことではない。スポーツという特殊な分野でも他業界で行っている新規事業創出の手法は応用できるのである。
■執筆者プロフィール

荒井雄介(アライ ユウスケ)
シソーラス 取締役COO ITコーディネータ
大学卒業後、NTTデータ、アクセンチュア、TISを経て現職。システム監査技術者、プロジェクトマネージャ、システムアーキテクトなどのIT系資格も保有。MBAホルダーのITプロフェッショナルとして活動中。長野県ITコーディネータ協議会の理事も務める。政治学修士(同志社大学)、経営学修士(グロービス経営大学院)。