文部科学省が2021年10月に発表した調査によると、いじめの認知件数は減少しているものの、「パソコンや携帯電話等で、誹謗・中傷や嫌なことをされる」といったネットいじめの認知件数は右肩上がりで増加しており、20年に1万8870件と過去最高を記録している。GIGAスクール構想によって、小・中学校に1人1台端末が整備され、パソコンなどを利用する児童生徒の分母が増えたことから、ネットいじめは今後さらに増えることが予想される。
文部科学省調査「いじめの態様別状況」より、
「パソコンや携帯電話等で、ひぼう・中傷や嫌なことをされる。」
の認知件数(2021年10月発表)
いじめ発生のきっかけは学校が配布した端末
GIGA端末などでのいじめによって小学生の自殺につながったという事件は、チャット機能に悪口が書き込まれていたといわれている。もちろん、従来スマホのLINEなどをきっかけとするネットいじめもあったが、今までと異なるのは、GIGAスクール構想の端末は、原則学校が配布・貸与している端末である点だ。学校が配布した端末がきっかけになっていじめが起きているとすれば、学校の責任となってくるため、学校としての対策が必要である。
文部科学省のいじめ防止対策推進法においても、インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進が明記されている。GIGA端末を利用したネットいじめなどが起きてしまうと、児童生徒の学びを加速するどころか、学びを止めることにもなりかねない。学校の先生がネットいじめの対策についてできることには限界があるため、ネットいじめの対策においても、情報リテラシー教育、情報モラル教育の強化などとともに、機械による制御も重要となる。
産学官連携のネットいじめ対策
ネットいじめの対策には専用のルールづくりが重要だ。デジタルアーツは、情報リテラシー出張授業などを通して、人を傷つける言葉は使わない、使わせないなど、子どもたちが自律的に判断できるように促すルール作りや、ネットいじめ対策も支援している。ネットいじめ対策の一例として、ネット問題の専門家として有名な兵庫県立大学の竹内和雄准教授や兵庫県尼崎市教育委員会、デジタルアーツの連携で実施した取り組みを紹介する。
尼崎市は21年度に児童生徒がスマートフォンなどの使用に関するルールづくりを考える「尼崎市スマホサミット2021」を開催するなど、ネット問題に力を入れている。デジタルアーツのWebセキュリティ製品「i-FILTER@Cloud」の任意ワードで検索や書き込みをブロックし通知できる機能「見守りフィルター」を使い、22年度から見守りフィルターを活用してネットいじめにつながるワードをブロックする取り組みの検討を始めている。
見守りフィルターに登録するワードを教師などの大人が設定するのではなく、児童生徒に考えさせて決めているのが特徴だ。児童生徒がリアルな目線で選んだネットいじめにつながるワードを“NGワード”として、見守りフィルターの検出ワードに加えての運用を検討している。
スマホのルールづくりを考える「尼崎市スマホサミット2021」
ネットいじめ対策で生徒の命が救われた事例
見守りフィルターを活用したいじめ対策で、実際に児童生徒の命を救ったという事例も、ある教育委員会で報告されている。自殺サイトの検索ログから自殺を考えている生徒が見つかり、教育委員会の担当部署から学校に連絡し、学校が該当生徒をフォローすることで、最悪の事態を防ぐことができたという。生徒に話を聞いたところ、友人関係や家庭環境で悩みを抱えていたとのことだ。いじめ被害を受けている児童生徒の早期発見や、いじめ行為の防止、いじめ行為を行っている児童生徒の指導などを同時に行い、子どもを被害者にも加害者にもさせないことが重要だ。
見守りフィルターの効果(ネットいじめ対策に必要なこと)
ネットいじめ対策のためにできること
竹内准教授は「最近のいじめは、ネットいじめから始まって、それが実際のリアルのいじめ・悪質ないじめにつながるため、ネットいじめ対策が重要だ」といじめ対策について述べている。GIGA端末が、ネットいじめのきっかけになり、児童生徒の命を奪うということが今後も続けば、GIGAスクール構想が間違いだったという議論にもなりかねない。GIGAスクール構想の未来のためには、子どもを被害者にも加害者にもさせないネットいじめ対策も必要である。情報リテラシー教育、情報モラル教育に加えて、機械を活用したネットいじめ対策も行いながら、安心・安全な環境を提供していくことが重要だ。
■執筆者プロフィール

内山 智(ウチヤマ サトシ)
デジタルアーツ マーケティング部プロダクトマネージャー ITコーディネータ
大手通信キャリアで営業、企画、マーケティング、各種プロジェクトマネジメントなどを経験し、2019年からデジタルアーツでマーケティング部プロダクトマネージャーとして、「i-FILTER」などのセキュリティソリューションのプロダクトマネジメント、マーケティング、プロモーション、セキュリティ導入・運用支援業務などに従事。