文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」などにより子どもたちのIT環境は急速に整備されたが、SNSでの誹謗中傷やネットいじめなどが問題となっている。ネットいじめがきっかけとなって現実でもいじめが発生し、最悪のケースでは自殺に追い込まれてしまうこともある。GIGA端末をどう安全に運用していくべきか、教育現場や専門家の間で議論が活発化している。この連載では、セキュリティメーカーのプロダクトマネージャーとして勤務する企業内ITコーディネータの視点から、デジタル社会の光と影、特に影の部分の事例と対策について解説する。
学校で発生しているトラブル
GIGAスクール構想で全国の小・中学校に1人1台端末と高速ネットワークが整備されたことで、学校ではICTを活用した授業が推進されている。携帯電話やスマートフォンも多くの子どもたちに普及しており、未来を生きていく上での情報活用能力の向上などが期待されている。デジタルの活用は生活を豊かにし、子どもたちの自由で主体的な学びを発展させてくれるという光の側面がある一方、インターネットでの犯罪やネットいじめ、SNSによる誹謗中傷などの被害が広がっており、影の側面も大きくなっている。
不適切なコンテンツ、出会い系、誹謗中傷、ネットいじめ、情報漏えい、依存など、インターネットトラブルはGIGA端末においても発生する。LINEみらい財団が2021年8月に公表した調査によると、GIGAスクール構想下においてネットトラブルが小学校で18.5%、中学校で39.3%発生していたという。トラブルの内容は、(1)長時間利用による健康上の問題、(2)コミュニケーショントラブル、(3)不適切なサイト(有害情報)の閲覧など。このような家庭で起きたトラブルの対応を学校に求めるケースが相次いでいる。
インターネット利用のルール作りでの対策
このような状況下、大人は子どもたちが失敗しても取り返しがつく環境を整備し、見守る必要がある。子どもたちとのコミュニケーションやインターネット利用のルール作りなどが必要だ。インターネット上に個人情報が掲載されるとどうなるか、何がネットいじめになるのかなど、実際に発生しているトラブルについてもしっかりと学ばせなければならない。ネットいじめがGIGA端末でも起きていることから、チャット機能の使用を禁止している教育委員会もある。ただ、児童生徒は端末を使いながら光と影を学んでいく必要があり、その上で機械による制御も重要となる。
デジタル庁の重点計画や文部科学省の各種ガイドラインによると、情報リテラシー教育、情報モラル教育などは、今後さらに強化される。ただ、ルールを作るだけでは対応できない状況がある。ネットいじめに限らず、意図しないサイバー攻撃や、情報漏えいなどが一例といえる。また、ルールを決めても守りきれない部分もある。そのために活用すべきはフィルタリングだ。
フィルタリングの幅広い機能によるシステム面での対策
警察庁が22年3月に公表した調査では21年、SNSに起因する事犯で被害を受けた児童生徒は1812人で、被害者のフィルタリング利用状況をみると、「利用なし」が87.7%、「利用あり」が12.3%となっている。多くはスマートフォン利用時の被害で、フィルタリング対策をしていて被害に遭った子どもよりも対策していなかった子どもの方が7倍以上も多く被害に遭っていたという。
SNSに起因する事犯の被害児童によるフィルタリング利用状況
(出典:警察庁「令和3年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」)
GIGA端末でもインターネットの接続先の制御をしっかり行っていないと、同様のことは起こる。解決策にフィルタリングソフトがあり、一例としてWebセキュリティクラウドサービス「i-FILTER@Cloud」GIGAスクール版はGIGAスクール構想における1人1台端末を教育の現場で安全に円滑な学習ができるように改良している。
フィルタリングでできること
GIGAスクール構想の未来のために必要なこと
GIGA端末におけるフィルタリングの状況
(2022年3月、デジタルアーツ調べ)
デジタルアーツの調査によると、全国1788の教育委員会の約7割はフィルタリング対策を行っていたが、約3割の教育委員会は「フィルタリング対策をしていない」もしくは「無償のフィルタリングで対処している」ことが分かった。これはネットワーク整備や端末整備とは異なり、セキュリティ対策には国の予算がつかなかったためと考えられる。
まだトラブルが起きていない学校や教育委員会においても、1度大きなトラブルが起きてしまうと全てが台無しになる可能性もある。インターネット教育やフィルタリングなどの安心・安全の対策については、いつ始めても手遅れということはない。子どもたちを見守りながら、GIGAスクール構想の未来のために安心・安全な環境を提供していくことが重要だ。
■執筆者プロフィール

内山 智(ウチヤマ サトシ)
デジタルアーツ マーケティング部プロダクトマネージャー ITコーディネータ
大手通信キャリアで営業、企画、マーケティング、各種プロジェクトマネジメントなどを経験し、2019年からデジタルアーツでマーケティング部プロダクトマネージャーとして、「i-FILTER」などのセキュリティソリューションのプロダクトマネジメント、マーケティング、プロモーション、セキュリティ導入・運用支援業務などに従事。