近年、AIコールセンター(AIコール)が急速に拡大し、人手不足が深刻な外食業界で導入が進んでいる。しかし、導入にあたっての課題も多く、人的なリソースによるコールセンターも根強い需要がある。店舗の電話業務を解説しつつ、そこから見えるAIコールとコールセンターのあるべき姿とDX化アプローチについて提示したい。なお、AIコールを否定するわけでない。
飲食店は売り上げが全て
どんなにおいしい料理を提供しようとも素晴らしい接客しようとも売り上げにつながらなくては意味がない。飲食店は人手不足の中で店舗を運営しているため、接客中で電話が鳴っていても取れないなどが頻繁に発生する。予約電話が取れないと金と時間をかけた集客が無駄になり、結果として売り上げも伸びない。
電話で予約を成立させるため、料理や個室を魅力的に説明し、時間や人数、席の調整を綿密に行う。例えば、「他の予約を移動させて、大人数の予約を取る」「6人用の部屋に7人を案内する」「開始を30分遅らせて予約を取る」「忘年会シーズンでは席のみ2人を断る」など、配席ディレクションをすることで、売り上げの最大化を図る。もちろん、そこには料理の準備や後片付け、スタッフのシフトなどの考慮も必要だ。
「予約」という業務は単純そうに見えて、実に奥が深い。
コールセンター・AIコールでできること
コールセンターでは、配席ディレクションによって予約成立が約50%というデータがある。残りの半分は、何かしらの理由によって予約が成立しなかったほか、既存予約の変更、その他の問い合せとなる。一方、AIコールはどんな時間帯でも対応できるが、処理できる業務には限りがある。また「明日」や「あさって」などの言葉の認識や判定が正しくされず、結果的にエラーが重なり店舗にエスカレーションされてしまうこともある。
コールセンターの熟練スタッフが予約を成立させるためにやっていることを言語化することで、AIコールに望まれる事項が浮き彫りになる。
「当日予約」対応は売り上げのアップには欠かせない。予約管理台帳に登録されていないウォークインの来店客がいるため、システム上では予約できるのかが分からず、店舗への確認が必要となる。「未来予約」は幹事の細かい要望(誕生日サプライズや小さな子ども用の対応など)をヒアリングし、幹事無料などの特典で交渉するなど、コミュニケーションを通して取り逃さないことが重要だ。「席指定」は席効率を追記しつつ、どんな個室なのか、景色が良いのかなど、説明も問われる。「コース予約」では当日の店舗オペレーションを減らすために「席のみ」ではなく「コース予約」を促し、プラス500円でプレミアム飲み放題になるなどの客単価アップの提案も大切となる。「その他ご要望」では道案内や忘れ物の対応、アレルギーの事前確認など、臨機応変に対応しなくてはいけない。
そして何よりも重要なのが、これらの電話をたらい回しせずに対応することだ。対応が良くないと思われた時点で他店に予約が流れてしまう。
もちろんAIコールは、現段階でも利用するメリットは大きい。24時間365日安定稼働できるスタッフはAIコールだけである。店舗やコールセンターでは、23時以降に稼働できるスタッフを抱えることは労力とコストがかかってしまう。また、人間によるコールセンターはどうしても対応内容にムラが出たり、急な欠勤でシフトが足りなくなってしまったり、人的なミスもゼロにはならない。一方、AIコールは同一水準で多くの電話を処理できる。
「コールセンター feat. AIコール」へ
電話を店舗、AIコール、コールセンターのいずれかで対応するべきか、という考えは捨てるべきだ。「人」でしかできないこと、「AI」でしかできないこと、それらを考慮した上で、どのように組み合わせて「売り上げ」を増やすのかが重要だ。当日予約は「店舗」で対応し、店舗が取れない時間帯や一定時間取れなかった電話を「コールセンター」に転送し、早朝や深夜は「AIコール」で処理するなど、組み合わせは無限だ。
AIコールは間違いなく進化をしていく。コールセンターとAIコールは対立構造となるものではなく、「コールセンター feat. AIコール」となっていく時代になっていくはずだ。その視点で「予約」を捉えることでDX化アプローチがおのずと見えてくる。
■執筆者プロフィール

左川裕規(サガワ ヒロキ)
イデア・レコード 取締役
早稲田大学卒業後、広告会社へ入社。マーケティングプランナーとして従事。家電メーカーや大手通信会社、商業施設などのプロモーション戦略や、Webサイト構築を担当。その後、NRIネットコム(現)に入社。WebテクノロジーとUXの設計構築コンサルタントとして、大手証券会社のWeb戦略、国内流通産業大手のインターネットマーケティング戦略、ネット損保のWebプロモーション戦略に参画。2016年、イデア・レコードに入社。