全国初となるクラウド方式の養殖管理システム。西潟憲策は、そのシステム開発に携わっている。東京海洋大学との協業で進めているプロジェクトは、前例がなく、要件を固めにくいことから、アジャイル開発方式を研究している西潟に白羽の矢が立った。
以前は、自身の専門分野を生かして、生物工学や地球シミュレータなどの科学技術計算を手がけていた。ところが、近年はアジャイル開発にのめり込んでいた。アジャイル開発が「ソフト開発の生産革新」につながるとの強い信念をもったからだ。
「誰も手がけたことのない新分野は、試行錯誤の連続。アジャイル開発との相性は抜群」。前例のないクラウド方式の養殖管理システムは、アジャイル開発への思いを加速させた。ところが、アジャイル開発を推進するにあたって、思わぬ壁にぶつかる。それは、伝統的なシステム開発の“プロセス”であった。
ウォーターフォール型の開発では、完成したのち、プロジェクトの開発チームは解散して、保守・運用のフェーズに移行する。ところが、アジャイル開発では完成という概念が希薄で、開発と保守・運用が同時進行するので、一人の技術者がプロジェクトに長くかかわる傾向にある。以前なら、エース級の技術者は、華々しいプロジェクトを渡り歩いていた。そのサイクルからすると、アジャイル開発は効率が悪いようにみえてしまう。西潟は、アジャイル開発が「ソフト開発の生産革新」につながるとの信念を粘り強く訴え続けた。やがて社内の空気は変わり、あわびなど魚介類の養殖管理システムにおけるアジャイル開発は軌道に乗った。
社会のニーズは多様なことから、試行錯誤が続くはず。そこでは、アジャイル開発の思想が生かされることになる。(文中敬称略)
プロフィール
西潟 憲策
西潟 憲策(にしかた けんさく)
1978年、東京都生まれ。02年、東京理科大学基礎工学部生物工学科卒業。04年、奈良先端科学技術大学院大学修士課程を修了。同年、NECソフト(現NECソリューションイノベータ)入社。10年、同大学院大学博士課程を修了。博士(工学)。バイオ解析や地球シミュレータなどに従事。現在はアジャイル開発支援を担当している。