名だたる大手ユーザー企業の幹部に向けた講演の依頼を受けることも多い石黒不二代・ネットイヤーグループ社長兼CEO。講堂にすし詰めになった幹部らを見渡して「男性諸君ばかりだな」と心のなかで思う。そこで、「モノからコトへ、顧客体験の重視へと市場が変わっている。子どももいれば大人もいて、男女の違い、出身国や地域の違い。多様な顧客が満足するサービスは、行き過ぎたホモジニアス(均質性)のなかからは生まれにくい」ことに触れるよう心がけている。

石黒自身、情報サービス業界で数少ない女性社長だが、だからといって「女性を特別視したことは一度もない」と話す。それでも、女性従業員の比率は創業当初の2割から、今は4割ほどに増えた。「世の中、男女半々の人数なんだからあたりまえでしょ」と、まるで気にもかけない様子だ。ただ、数あるネット系コンサル会社との競争のなかから、頭一つ抜けて上場企業になるまで急成長できたのは、「女性の存在が男性と同様に大きい」と振り返る。
老若男女いるなか、似たような世代の男性ばかりで意思決定していては新しい旋風を起こしにくい。「バリバリの社会インフラを手がけているB2B企業でも、そのインフラを最終的に使うのは女性もいれば、お年寄りもいる」。つくり手側に「いるべき人がいない」と石黒は違和感を覚える。
この違和感こそが、石黒を次のビジネスへと掻き立てる。「だったら、もっと多様な業種・業態に深く入り込み、足りないところを補い、モノからコトへ、新しい顧客体験を創り出せばいいじゃない」。コンサルタントの血が騒ぐ。(文中敬称略)
プロフィール
石黒 不二代
石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)
愛知県生まれ。名古屋大学経済学部経営学科卒業。ブラザー工業で米国のOEM顧客向けのコンピュータ周辺機器に関するマーケティングなどを6年間担当する。94年、米スタンフォード大学ビジネススクール経営学修士(MBA)取得。同年、米コンサルティング会社のアルファメトリックの社長に就任。99年、ネットイヤーグループのMBO(マネジメント・バイアウト)に参画。2000年から現職。