濱野家は江戸時代から21代続く経営者家系。当然、父親も商売人で、英才教育を受けて育つ。「家族で食事に行くと、会計や原価がいくらか、店舗の運営が適正かといった問いをよく投げかけられた」。子どもながら経営の素養を身につけてきた。しかし、バブル崩壊のあおりを受け父親の事業は傾く。15歳の頃だ。経営状況は生活に直結し、一時は「家庭崩壊に近い」ほど困窮。父を手伝い知恵を絞ったが、会社は倒産を免れなかった。これをきっかけに「経営に困っている人を助けることをライフワークにする」と決めた。
最初に志したのは弁護士。父を支えていたパートナーの姿に憧れた。進学先はあえて獨協大学を選ぶ。学費不要な特待生の資格を得たことが決め手だ。実家を離れ、猛勉強と生活費を稼ぐためのアルバイトに汗を流す日々。しかし、3年次を過ぎると限界を感じた。大学院に通うにはさらに勉強時間もお金も必要。だが、仕事を増やせば時間が、勉強を増やせばお金が足りない。
「ここで学べば、将来は一流の経営者になれる」。アルバイト先の社長に誘われ、弁護士の道を捨てた。その後、数年の修業を経てデロイト トーマツ グループに移籍。最年少シニアマネージャーとして要職を歴任し、頭角を現す。支援先のホットリンクに参画すると、17年には経営者に姿を変えた。
現在の事業は、中国のソーシャル・ビッグデータを活用した日本企業のマーケティング支援。「この国に一番詳しい人になれば、必ず日本企業は助けを求めてくれる」と確信している。だから、社長ながらも月の半分近くを中国で過ごす。1日あたりの商談件数は平均で5件。「1分たりとも無駄にしない」。事業は軌道に乗り、すでに数百社を成功に導いた。奇しくも、経営支援と経営者の立場を両立した濱野。今日も課題を抱える企業のもとへ足を運ぶ。(敬称略)
プロフィール
濱野智成
(はまの とものり)
1985年生まれ。大学卒業後、外資外食業でマネジメント業務に従事。その後、豪州でのコンサルティング実務を経て、デロイト トーマツ グループに入社。東京支社長や事業開発本部長を務めた。2015年11月、ホットリンクに参画。執行役員 経営推進本部長兼CHRO(最高人事責任者)、米国子会社Effyisの取締役を歴任。17年1月、同社COOおよび子会社トレンドEXPRESSの代表取締役社長に就任した。趣味は読書。