
4年前、30代半ばでの新たな厳しいチャレンジに松本智美は泣きながら立ち向かっていた。20代前半、新卒で飛び込んだのは小売業の世界。結婚を機に退職した後は簿記の知識を身につけ、経理事務に従事してきたというキャリアだった。それが、奏風システムズでは入社直後にいきなりシステム開発の前線に放り込まれる。設立間もない奏風システムズが手がけていた、大型で納期も厳しい案件。前職時代から顔なじみでやさしかったはずの同僚もピリピリしていた。「いま思い返しても一番つらかった時期。でも、私は負けずぎらいだし、もう少し時間さえあればもっとやれたと思っていた」とあっけらかんと話す姿は、しなやかさ故の芯の強さを感じさせる。
奏風システムズへの入社時、当初は経理事務などの総務系業務でのパート勤務を打診されたが、フルタイムで働くことを希望したところ、システム開発との“二足の草鞋”を提案される。そして、いきなりの修羅場。「20年開発をやってきた人といきなり同じ扱いは厳しいと訴えて、しっかり勉強する時間をもらい、初心者の自分がベテランの同僚と同じように戦力になるためにはどうするか考えた」。自らが担当する総務系業務のためのシステムを自分でつくったり、同僚が足を踏み入れていなかったウェブアプリの世界に活路を見出し、知識とノウハウを蓄積した。生粋の開発者ではないからなのか、業務にシステムをどう役立てるかをまず最初に考える姿勢が自然と身についていた松本には、やがて顧客からの指名の仕事も入るようになった。いまや経営陣からも「予想を超えて成長し、大きな戦力になった」と評価される。今春、同社は事務専任のパート社員を採用した。松本は二足の草鞋を脱ぎ、会社の看板を背負う開発のエースを目指して新たな一歩を踏み出す。(敬称略)
プロフィール
松本智美
(まつもと さとみ)
北陸大学外国語学部を卒業後、新潟県上越市を中心に展開するスーパーマーケットに入社。2005年、結婚を機に退社し、簿記のスクールに。その後、派遣社員として調剤薬局などで経理事務に従事。12年から情報システム開発会社で派遣社員として総務経理事務を担当。翌13年、この会社からマジックソフトウェア製品を使った開発を担当していたメンバーが独立し、奏風システムズを設立。その事務手続きなどの手伝いをしたのが縁で、14年4月に同社に入社。1年目は契約社員だったが、2年目以降は正社員として勤務。