近い将来、「クラウドコンピューティング時代」が到来する。その前に企業システム側ではシステム統合などで適正化を図る作業を施し、「柔軟なシステム」に変更する動きが活発化。そこで浮上しているのが「仮想化ソフトウェア」だ。不況下にあっても急進するプロダクト。昨年までが「普及の年」で今年からは「費用に見合う効果を得る年」になる。仮想化市場の成長率は年率40%台におよぶ勢い。一方、仮想化環境を作るにも「物理サーバー」に高パフォーマンスが求められ、一時的にサーバー需要も高まる。そんな実状をリポートする。
流通 仮想化メーカー 川上
ヴイエムウェア
TCO削減策で42%増を達成
次のクラウドも訴求へ 景気後退に直面するユーザー企業からは、SIerなどに対し「TCO(総保有コスト)」削減策を講じてほしいという要望が強く寄せられている。こうした要望を受けて即座に対応できる一つの手段である「仮想化」ソフトウェアが“売れに売れる”状況だ。
仮想化ソフト最大手で国内でも先駆的存在のヴイエムウェアは「TCO削減効果」を強力にアピール。昨年度(08年12月期)はグローバルでの売上高で42%増を達成。国内での売上高は非公開だが、今年度も前年度と同様の高い成長率を目指す。
さらに同社は現在、次世代を見越し、仮想化技術を活用したクラウドコンピューティング化を戦略的に訴求。2008年12月にはデータセンター事業を展開する大手SIerなどと協業して「クラウドサービスプロバイダ協議会」を設立、技術資料を共有するなどの取り組みを始めている。
ヴイエムウェアは従来から大規模サーバーに強みをもつ。自らの仮想化ソフトを「データセンターのOS」と位置づけ、この“OS”上にサービスプロバイダのさまざまなサービスを乗せる動きを活発化させている。この“強み”を伸ばすことで、マイクロソフトなどライバルとの差を広げる考えだ。(下図参照)
一方、SI(システム構築)を手がけるITベンダーが扱う以外でも、個々の企業が仮想化ソフトを導入するケースがある。ヴイエムウェアはこうした需要にも応えるべく仮想化でコスト削減効果を得やすいよう技術提供を惜しまない考えを示している。
サーバーの負荷状況で異なるが、ヴイエムウェアによれば、グローバルで物理サーバー1台に対して稼働する仮想サーバーの台数は平均13台。これに対し、国内は数台にとどまっている。こうした稼働率の低い状態を早期に脱し、平均10台へ押し上げて「コスト抑制」を明確にできれば仮想化市場はさらに伸ばせる。「十分な投資対効果を得るのに何年もかかるようでは、いまの経済情勢下で受け入れられない」(三木泰雄社長)と、有力SIパートナーとの協業によって「仮想化率」を高め、ユーザー企業からの支持を集める展開を構想している。
流通 仮想化メーカー 川上
シトリックスとマイクロソフト連合
シトリックス
PCから大規模DCなど視野へ
マイクロソフト
サーバー製品に同梱、SMB攻め シトリックス・システムズ・ジャパンはアプリケーションやデスクトップの仮想化で根強い人気がある。ヒット商品の画面転送型シンクライアントソフトウェア「MetaFrame(メタフレーム、現XenApp)」時代から営々と築いた約250社のビジネスパートナーと組み、クライアント全般やサーバー領域での仮想化ビジネスの拡大に動いている。
不況に直面してTCO削減が急務であることに加え、情報漏えい防止などコンプライアンスや内部統制の強化の必要性も高い領域だ。シトリックスではクライアントパソコン(PC)の情報をサーバー側で管理するシンクライアント型ビジネスの成長を狙う。長年培ってきたクライアント周りの技術・ノウハウが生きる領域である。さらに、サーバーやアプリケーションの仮想化で運用コストが低減できる。ユーザー企業にとっては情報漏えいを起こしやすいクライアントPCのリスクを軽減しつつコストを削減できることになる。
一方で、ヴイエムウェアと同様にデータセンター事業を得意にするSIerと協力関係を築くことで業種業態に応じたサービスビジネスの開拓を開始した。例えば、大規模医療機関で実施した検査結果やレントゲン画像などのデータを全国の中小診療所からオンラインでセキュアに参照できるサービスなどといった具合。新たなビジネスモデルの創出に懸命だ。
シトリックスは有力パートナーと「より細かくビジネスを詰めていく」(山中理惠・マーケティング本部長)ことでシェア拡大を目指す。
ヴイエムウェアに比べ後発のマイクロソフトは、得意の中堅・中小企業(SMB)の仮想化需要を引き出そうとしている。ヴイエムウェアやシトリックスが繰り広げる激しい競争は、仮想マシンの管理システムなど高度な技術を数多く生み出した。とはいえ、運営・運用体制が整備された大企業の情報システムやデータセンター向けには適しているものの、中小企業で高度なシステムを自前運用するのは困難だ。そこで、SMBでも「気軽に仮想化を始められる製品特性」(マイクロソフトの藤本浩司・コアインフラストラクチャ製品部マネージャ)を生かし、追い上げを図る。最新の「Windows Server2008」には、標準で仮想化ソフトを同梱。サーバーに関する知識に乏しい情報システム担当者が気軽に仮想化技術を体験できるのが売りだ。
流通 人材育成/流通卸 川中
技術者育成とネットワールド
3社製品のマルチ利用時代へ
技術者の数と質競う 仮想化ソフトウェアが「売れる」には、SIer内でどの仮想化技術の専門家をいかに多く育成するかが決め手となる。仮想化ソフトは不況下に「売れる」数少ない有力商材だ。だが、SIerが仮想化ソフト大手3社すべての技術者を同水準で育成するとなると、かなりの出費を強いられる。
マイクロソフトは自社仮想化ソフトの認定技術者を2500人、営業職のアドバイザーを8000人にする目標を掲げた。他方シトリックスは約250社。ヴイエムウェアは約400社のパートナー向けに認定技術者育成の支援を強化した。ヴイエムウェアの三木泰雄社長は「社数より中身を重視する」と、有力パートナーとの関係をより深める方針。
商談の最前線では、仮想化プラットフォームのマルチベンダー化が進むことが予想される。仮想化ソフト大手3社すべての製品の「1次代理店」であるネットワールドは、「2009年はマルチベンダー化が進む年」(森田晶一専務)と、3社製品を組み合わせたシステム提案こそが競争力を高めると説く。ユーザー企業からみれば、3社の優位点を適材適所で活用したいのが本音。08年が「仮想化普及の年」だとすれば、今年は「マルチ環境で早期に投資対効果を出す」ことがSIerに求められる。
[次のページ]