評価
「個人と組織の活性化へ」
日立ソフトが重視したのが、個人と組織の両方の活性化だ。会社組織は縦のつながりは強くても、横の連携は弱くなりがち。個人と個人のつながりを広めることで、縦割りを是正。会社組織全体の活性化につなげた。(図2参照)
組織活性化策では、全社的な事業戦略を各職場の方針に置き換え、具体的に行動できるよう徹底。社員会やテーマごとのワーキンググループ(WG)、ダイバシティ活動を積極的に開催した。一方、個人向けではキャリアパス提示と能力開発サポート、公募制度やワークライフバランス施策など、「考え得ることのすべて」(日立ソフトの教育センタの井藤敏之・センタ長)を実行に移した。
ダイバシティの一環として開催した女性リーダーシップ研修でのエピソードがある。
研修カリキュラムをこなし、最後の打ち上げで、参加した女性社員一人ひとりに感想を述べてもらった。独身者や既婚者、子育て中など参加者の背景はさまざまで、既婚者のなかには夫との家事分担や育児、保育園の送迎などで苦労する人も少なくない。こうした事情を知った一人が、「共働きで苦労が多かったけれど、皆さんの話を聞いて会社を辞めるのを思いとどまりました」と、涙を浮かべながら宣言した。予期せぬ発言だったが、これがきっかけとなって、職場の結束感が一気に強まったというのだ。
実はこの研修、女性幹部を育成するためのリーダーシップのあり方を学ぶという目的とは別に、女性という共通項による“横のつながり”をつくる隠れた目的があった。個人レベルで横の連携を強化する「狙い通りの効果」(井藤センタ長)に手応えを感じている。
07年度から始めた事業公募制度では、08年9月までの累計応募件数は648件、参加人数1065人、賞金獲得人数は171人に達するなど活況を呈している。事業公募を運営する事務局は「どんな些細なアイデアでも、必ずコメントを返し、やる気を継続させる努力を怠らなかった」ことが、応募件数を落とさず、活動を定着化させる大きな要因として働いた。応募案件のなかにはチームで応募するケースもあり、個人と個人の結びつきを強める効果も期待できる。08年10月には、遺伝子健康コンサルティングの分野で初の事業化にこぎ着けるなどビジネス的にもプラスに動き始めている。
個人や組織が活性化し、モチベーションが高まれば、会社全体の競争力も高まる。人材投資への余力も増え、社員満足度が向上する好循環の創出は、退職率の低下にも結びつく。日立ソフトでは今年度(09年3月期)、30歳未満の若手社員の退職率をピーク時の半分近い5%に抑えられる見込みだ(図3参照)。
伝承
「美しいからこそ、原点に立ち返る」
人材育成の四つの基本サイクルのうち、仕上げの部分が“伝承”である。情報処理推進機構(IPA)の「ITスキル標準」を活用して、技術の伝承を円滑化する取り組みが増えている。
ITスキル標準は、情報サービス産業で求められる人材像のスキルセットを体系化したもので、多くのSIerが採用している。プロジェクトマネジャーやITアーキテクトなどの職種・専門分野別に最大7段階のレベルに分かれており、レベルの達成度合いを給料や賞与に反映するのが一般的。これを応用し、最高位に近いレベル6に到達すると自動的に“寺子屋”の講師に任命する仕組みを東芝ソリューション(TSOL)では採用した。レベル6の熟練技術者が年2回の講座を受け持つことで「技術の伝承」(TSOLの五反田信幸・人事総務部人材採用開発担当グループ長)に力を入れている。
成果発揮能力(コンピテンシーグレード)とITスキル標準を組み合わせた二軸評価システムを採用している三菱総研DCSの吉田哲生副社長は、「熟練者が後輩を育成する仕組みを強化したい」と、ITスキル標準を評価だけでなく、技術の伝承にも応用することを視野に入れる。
同社では、約150人の研究開発部門のSI技術部が中心になって人材育成や技術の移転を行う独自の体制を築いてきた。事業ラインで個別に新技術を習得していては、事業部間で重複したり、現業に追われて技術を十分に深められないことも考えられる。こうした課題を解決するため、先端技術の研究をSI技術部に集約。事業ラインへの技術支援を通じた人材育成や技術移転の効率化に努めている。
直近では、メガバンクグループのeラーニングシステムを統合し、基盤に仮想化技術を導入するプロジェクトで、SI技術部が先行して習得したサーバー仮想化技術が大いに役立った。また、ITスキル標準の勉強会の講師も担っており、今年はレベル4の高度技術者が従来の168人から200人を超えるまで増える見込み。R&D部門が研究と事業ラインの技術支援、人材育成を兼ねるモデルは新日鉄ソリューションズでも採用しており、技術の蓄積と伝承の仕組みとして有用性が増す。
不況に直面し、かつての日立ソフトのように、今後リストラを余儀なくされるSIerも出てくる可能性がある。日立ソフトは04年度の営業損失95億円から、昨年度(08年3月期)は最高益の130億円を達成。今期(09年3月期)連結営業利益は逆風下でも前年度比5.8%増の152億円を見込むまでV字回復している。厳しい状況だからこそ、原点に立ち返り、不況明けの成長に結びつけることが求められる。
e-ラーニングソフトの動き
システム・テクノロジー・アイ
ビジネス好調
人材育成の需要拡大
人材育成需要の高まりを受けてeラーニングソフトベンダーのビジネスが好調だ。IT業界向けを得意とする学習管理システム(LMS)ベンダーで「iStudy」シリーズを開発・販売するシステム・テクノロジー・アイは、「eラーニングが好調に推移する」(松岡秀紀社長)と話す。来年度に向けて開発・販売面で積極的な投資をする計画だ。昨年7月には、社内にシステム置くサーバーベースのLMS(iStudy Enterprise Server)」に加え、オンデマンド型でeラーニングを受講・管理などができるSaaS型の「iStudy OnDemand SaaS Edition」の提供を開始。同社のサーバーベースLMSは、比較的規模の大きなSIerに導入実績がある。SaaS型にしたことで全国の中小SIerにも活用できるLMSになった。「まずは当社システムを安価でSIerに導入してもらい、そのSIerから民需向けにLMSを販売するパートナーになってもらう」(松岡社長)という構想を描く。
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