販売系SIerの取り組み
サーバー軸に「統合化」を提案
“格納庫”のストレージに着眼
「統合ソリューション」を切り口として、多くのSIerがシステム案件の獲得に力を入れているのがサーバーベースの提案である。しかし、最近はデータの“格納庫”であるストレージ「統合化」に着眼するITベンダーも徐々に出始めている。データの大容量化とストレージの低価格化が進んだことで、次々とストレージを買い足してきたユーザー企業も多いはず。しかし、実際の利用容量が少ないケースがあるため、ベンダー側から機器購入や運用などのコスト削減に向けて「統合化」の提案を進めるという図式が生まれている。また、バックアップをテーマに「統合化」の突破口を切り開く動きもある。
販売ボリュームは小さいものの
最適化で可能性を見出す サーバーに比べてストレージは販売ボリュームがまだ小さい。そのため、際立った動きをみせていないものの、ハードウェアでサーバーを主力製品に据えるSIerのなかには、「第2の統合ソリューション」としてストレージ機器を軸にシステム提案を展開する動きが出てきている。
日立製作所系SIerの日立システムアンドサービスは今年2月、ファイルサーバーやストレージを仮想化技術によって統合化したり、データ管理の効率化を支援する「ストレージ統合ソリューション」をメニュー化した。F5ネットワークスジャパンのファイルストレージ仮想化製品「F5 ARXシリーズ」と、「NAS」の日立製ストレージ機器などを組み合わせて統合。ストレージの有効活用を切り口として、既存のファイルサーバーやストレージの最適化を促す提案を行っている。
NASとSANの両方の利点を生かしたようなストレージシステムで、ユーザー企業は社内に点在するストレージを一つのディスクとして使えるようになり、アクセスや検索も容易かつスピーディーに行えるという。加えて、性能や信頼性、コストを考慮して最適化したストレージに自動的に格納する機能を搭載しており、管理の簡便性も追求している。
売上高は今後3年間で約10億円と設定。金額は決して大きくないものの、販売人員の配置やシステムメニューの策定など売れる体制を整えたことが大きい。すでに案件獲得に動き始めている。
仮想化関連ビジネスに定評のある伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)では、日立システムと同様に、ストレージをサーバー「統合化」提案の際の材料としている。すでにストレージ統合製品・サービスを揃えている。EMCジャパンや日立製品を活用した統合ソリューションをラインアップしており、ストレージをベースとした「統合化」「仮想化」を視野に入れている。
サーバーを主力事業とするSIerのほとんどは、ストレージ機器の販売は片手間で行っているのが実状。専門組織を設けたり製品・サービスを揃えることなどの手は打っていない。CTCは、今後伸びるといわれているストレージの「統合化」に着目し、他社に先行してビジネスを立ち上げることによって、確固たるポジジションを確立することを狙っている。
まずはバックアップで開拓
SMBに最適な環境を提供 バックアップのニーズがSMBの間で高まるなか、ソリューション化して新規顧客を開拓、次のステップとして「統合化」を視野に入れているベンダーが現れている。
大塚商会は、SMB向けバックアップ関連の製品・サービス「TWIN NAS」を昨年末から提供し始めた。今年は300セットを販売目標としており、「達成は確実」(中本明彦・マーケティング本部サーバ・シンクライアントプロモーショングループ課長)と自信をみせている。
「TWIN NAS」は、障害発生時にサーバーを切り替えることによって大容量データを復旧できるできるように、ハードウェアやソフトウェア、サービスなどをパッケージ化したものだ。アイ・オー・データ機器との協業で製品化。120万円という値頃感のある価格設定で需要を掴んでいる。中本課長は、「大企業だけでなく、SMBでもデータ量の増大が顕著になってきている」と指摘する。データが増えれば、障害時にはデータ復旧に時間がかかり、長時間にわたって業務が止まってしまう危険性がある。さらに、SMBにはコストやIT要員などの問題からデータバックアップシステムを独自で構築することが難しい状況にある。そこで、システム構築とサポートを含めたビジネスにチャンスがあると判断したわけだ。
「統合化」については、価格面をはじめとしてSMBに適した製品・サービスを模索するが、現状は難しい局面にある。というのも、「SAN」「NAS」などの「統合化」環境がSMBにとって最適とは言い切れない面があるからだ。そのため、「ディザスタリカバリ(DR、事業継続)など、さまざまなニーズを引き出すことで、『統合化』を含めてSMBにとって最適なストレージを提供していきたい」考え。一つの方法として「TWIN NAS」の新製品を計画しているようだ。
バックアップニーズを「TWIN NAS」でキャッチアップしてストレージ製品のユーザー企業としてSMBを確保、次のステップとして視野に入れているのが「統合化」をはじめ最適環境の提供ということだ。
ネットワーク系販社の取り組み
処理速度とセキュア環境に着目
新規格「FCoE」にも期待
ストレージ「統合化」ビジネスを手がけるうえで、ネットワーク系販社がで着目しているのはデータ処理速度とセキュア環境だ。ネットワークインフラを把握しながら最適な環境を構築していくわけだ。データセンター(DC)をはじめ、「システム統合」の波が押し寄せているなか、その一環としてストレージの「統合化」を提案する。また、特徴的なのは、「LAN(ローカル・エリア・ネットワーク)」環境と「SAN」環境を統合するといわれる新規格「FCoE(ファイバー・チャネル・イーサネット)」に注目している点である。
ストレージの「統合化」で業界屈指の技術集団として名高いのはネットマークスだ。同社は、DC向けビジネスに力を注いでおり、さまざまな角度から「統合化」がもたらすメリットを見出そうとしている。「統合化でコスト削減や運用の最適化を図ったとしても、実際に使うユーザー企業の社員が便利だと意識しなければ意味がない」(伴佳宏・商品企画部ビジネス企画室長)。そうした考えから、ユーザー企業が蓄積したデータをあたかもパソコンなどクライアント端末にインストールされているアプリケーションのように使える製品・サービスを近く提供開始する計画だ。
また、同社では「グリーンデータマネジメントソリューション」という次世代DC向けソリューション分野で、このほどEMCジャパンと共同検証を開始した。データセンターの省電力や省スペース化、運用効率化を目的に、イーサネットを介してサーバーやストレージ、ネットワークの統合を進めている。新規格の「FCoE」を採用していることがポイントだ。大槻晃助・技術本部DCビジネス推進室長は、「第一検証が近く終了する」としている。国内で先駆的に取り組んでいるベンダーとして、現段階からユーザー企業にFCoE関連の提案を進めていく方針だ。
【調査会社の見解】
IDC Japan
「コスト削減」がキーワード
囲い込みからの解放にもつながる
IDC Japanでは、世界同時不況の影響で国内ストレージシステム市場の伸びが鈍化する可能性が高いとの予測を出しているものの、「ストレージ統合化は需要が一段と高まるのではないか」(鈴木康介・ストレージシステムズリサーチマネージャー)とみている。 理由は、コスト削減の観点から統合化でストレージの有効活用が進むためで、「従来は、ベンダーからのユーザー企業への提案は、情報システム担当者が満足するソリューションが理想とされてきたが、今後は企業全体のコスト削減の一環として提案することが望ましい」と、経営側に立ったアプローチの必要性を説く。有望な市場については、「ERPを導入している企業であれば、業種は問わないだろう」と分析する。
接続方式については、FC(ファイバーチャネル)スイッチ活用の「SAN」がメインにはなるものの、「コスト面を考え、今後は『IP-SAN』に注目が集まる可能性が高い」としている。
これまで「統合化」が進まなかったのは、「FC-SAN」をはじめとして、「価格が高い」とユーザー企業が意識していたため。しかし、今後は導入費用と運用コストを合わせて既存システムよりも安価になることを訴えていけば、眠っている需要を掘り起こせるということだ。