国内のIT投資が急激に鈍化し、システム提案に手詰まり感が漂う。この悪条件下で唯一、ユーザー企業の意識に“響く”言葉が「コスト削減」の提案だ。IT利用率が低く、「労働生産性」が先進国のなかの下位に甘んじる日本。これを改善する国家的な動きに水を差したのが「リーマン・ショック」だった。だが、IT利用率向上の大号令の手綱を緩めるわけにいかない。着実にIT利活用を促すためには「コスト削減」提案からさらに一歩切り込まなくてはならない。次の景気回復とともに企業が「急発進」できる手立てを考え、「ITで日本を元気にする」術を伝授する時期に差し掛かっている。
IT利用率向上の手綱緩めず 調査会社IDC Japanが4月14日に発表した予測によると、2009年の国内IT市場規模は、前年比マイナス3.8%の12兆1770億円になるという。経済危機で国内の景気が後退したことを反映し、同社が昨年末に予測したマイナス1.7%を下方修正した。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)のIT予算動向調査は、さらにIT業界全体に衝撃をもたらした。大企業でIT予算を「減少」させるとしたところは4割弱に達し、国内IT産業全体の大幅な縮小は免れない状況だ。
ただ、「厳しい」ことだけに目を向けていては、労働生産性がOECD加盟先進国中の下位に甘んじている現在のポジションから脱することはできない。製造業は上位に位置するものの、サービス・流通業など、まだ低い業種がある。全体の労働生産性を引き上げて世界に伍していくには、ITが必須だからだ。
とはいえ、闇雲にIT導入を提案をしても、ユーザー企業に響くはずがない。現状は、「コスト削減」の提案を切り口に、さまざまな付加提案を行うほかない。中・長期的なコスト削減の実現→本業に徹する社内システムの実現→景気回復後の「急発進」──の道筋を描く提案がメーカーやSIerなどに求められているのだ。
54% off
ネット事業で新たに“囲い込み”
プリンタ
ダブル・トリプルパンチを払拭
国内プリンタメーカーは、ダブル・トリプルパンチに見舞われている。機器販売が年々縮小傾向にあるうえに、ユーザー企業側のカラープリンタ抑制の動きが追い討ちをかけて、トナーや用紙などサプライ品も急減。さらに、この状況下で「リーマン・ショック」が襲いかかった。プリンタ機器やサプライ品の“モノ売り”で収益をあげるビジネスモデルを、根本から見直す必要に迫られている。
現下の景気後退を予測していたわけではないが、リコーはプリンタ機器販売以外で収益を伸ばす策として2005年5月、中小企業向けにブロードバンド環境構築・運用支援パッケージ「NETBegin BBパック」という事業を立ち上げた。IT管理者不在の中小企業で面倒なネットワーク通信周りの導入・運用を、保守子会社のリコーテクノシステムズなどと連携して診断、改善、オン・オフサイト預かりを行うサービスだ。これが好評で、今年度(2010年3月期)は前年度比120%の伸びが期待できるとしている。
BBパック導入にあわせて「コスト削減が直接目に見える」策として、中小企業の通信環境を「ひかり電話」に切り替えて通信料金を削減する提案などを積極的に展開している。
大阪市に所在する、社員数8人の某社では、インターネットしか利用していない光回線に音声を統合した。さらにアナログ回線3本とISDNを廃止するなどで、通信料金を月に1万8900円削減することができた。この額は従前比54%減に相当する。BBパック自体は初期料金8万4000円および月額料金1万5600円を要するので、実質的には数千円の減額にすぎないが、中・長期的なコスト削減になる。これに加えて、「全国保守網を生かしたオンサイト保守やトラブル解決、あるいは機器などのアウトソーシングを請け負い、『見えないコスト』を削減する」(宮脇崇裕・NS事業統括グループリーダー)と、時代に合った提案でプリンタ市場縮小分を補おうとしている。
プリンタ稼働で必要となるネットワーク周りとはいえ、本業との関係が薄い領域だが、「ネットワーク環境を最適化して顧客を“囲い込む”ことで、次の提案に結びつけられる」(宮脇リーダー)と狙いを語る。データ保護機能搭載のNASによるファイル共有や情報共有用にフォルダ自体の作成支援、多拠点間のVPN接続などをアドオン提案していき、プリンタ機器周りのドキュメント管理など“本業”に導く考えだ。現在BBパックユーザーは国内に累計3万社。全国統括会社やパートナーと共同で販促活動を積極展開している。
同社と競合する富士ゼロックスも、ネットワーク周りの戦略を強化している。ネットを介してセキュリティ対策を低コストでアウトソーシングするサービス「beat」の中小企業向け販売を加速させている。「コスト削減策を打ち出しやすい製品なので、販売が容易」(工藤雪夫・beat事業推進室マーケティンググループ長)と、グループ販社の2次店などと組んで拡販を急ぐ。
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