NTTグループがNGN(次世代ネットワーク網)の商用化サービスを提供開始してから1年以上が経過した。抜本的な変革を目指したネットワーク網であるだけに、個人と法人ともに最適な環境が整備されることになるわけだが、蓋を開けてみれば、さほど大きな盛り上りをみせてはいないようだ。そこで、インテグレータなどの声をもとにNGNの課題をあぶり出すほか、解決策や可能性を見い出すことで、ベンダーのビジネスチャンスにつながるかどうかを検証する。
【課題】
NGNの現状は「課題山積」
事業着手に二の足を踏むベンダー
NGNは、電話回線とIPネットワークを根本的に変革させるという、まさに次世代のネットワークなだけに期待が大きい。だが、現状では「課題山積」と捉えるベンダーも少なくない。技術面やNTTのビジネススタイルなどに不満を抱いているからだ。
課題その1
NTTのビジネススタイルに不満
収益みえず「肩すかし」 SIerの声をまとめると、NGNに対する失望感が漂っている実状が浮き彫りになる。NGNのインフラ構築に関しては大手メーカーなど特定ベンダーだけが潤っていることが不満の要因だ。SIerの多くは、ネットワーク構築後にアプリケーション開発でビジネスの“おこぼれ”が回ってくると期待していたが、「いっこうにその気配がない」との声があがる。サーバーやPCなど機器販売に強いSIerの多くは、現時点で全くといっていいほど関心がない状況だ。
開発系SIerが不満を漏らすのは、API(アプリケーション・インターフェース)が十分に公開されていないという点。アプリケーションベースの独自サービスを開発しづらいために、NGNでビジネス拡大を目論んでいたSIerは肩すかしを食うことになったわけだ。
ある大手SIer幹部は、「APIの公開をNTTに迫ると、NTT側から『ならば、(回線の本数を)どれだけ売ってくれますか』と逆に問われる」と嘆く。一定以上の回線販売が見込めなければ対応できないということだ。NGNはQoSをはじめとして、これまでのIPネットワーク網にはなかった機能が付与される。しかし、「どれだけ売れるかはやってみないと分からない」(SIer幹部)のが実際のところだ。サービスについては、新しいモデルが創造できる可能性を秘めている。にもかかわらず、回線販売をコミットしなければAPIを公開しないというのは本末転倒だ。こんな事態を招いているのは、APIの提供コストに対する回収モデルがNTT側で固まっていないからなのか。それとも、技術的な問題なのか。十分な情報公開がないまま、時間ばかりが過ぎる。“鶏(回線販売)が先か、卵(アプリケーション開発)が先か”の議論のままでは、SIerのNGNビジネスは一向に立ち上がらない。
販売系SIerがNGNに関心がないのは、情報システムの構築ビジネスが主体で、ネットワークを中心に案件を獲得するケースが少ないためだ。NGNが先進技術であることや、ネットワーク中心のシステム提案という点では、調査や分析などを進めていないのが実情のようだ。ある中堅SIerの担当者は、「今は景気後退の影響で直近の売り上げや利益の確保で精一杯。NGNは可能性を秘めているが、NGNに力をかける余裕はない」と打ち明ける。気にはなっているが、足元の数字を確保することが先決ということだ。
まず押さえておこう
NGNとは? NGNは、従来の電話網の信頼性や安定性を確保しながら、IP網の柔軟性や信頼性などを備える情報通信インフラ。NTTグループが世界に先駆けてサービスの提供を開始した。
これまでのネットワーク網と異なる点は、QoS(品質管理)型を採用していること。優先ユーザーにはネットワーク帯域が確保され、膨大なデータ容量を遅滞なく配信できる。また、高いセキュリティ機能も売りだ。さらに、新たなアプリケーションサービスをベンダーなどが開発できるよう、3種類のインタフェースを規定して仕様の公開を進めている。
NTTグループでは、東日本が2009年度(10年3月期)中、西日本が10年度中にインフラを整備する計画。その後は12年度までに、既存IP網からNGNへの移行完了を見込んでいる。サービス拡大に向けて、他のサービスプロバイダのネットワーク網との接続を掲げるほか、業界外とも協業して新サービスの創造に力を注ぐ。NTTグループが描く市場環境をつくるためには、ITやネットワークなどの関連ベンダーと、いかにパートナーシップを深耕できるかにかかってくるとの見方が強い。
課題その2
技術面に不安要素あり
セキュリティの弱点を指摘 ネットワーク系販社では、技術的な弱点を指摘する傾向が強い。体感する品質面やセキュリティ面などで、現在のままでは法人向けにアプローチできないのが実状のようだ。メーカーや販社がユーザー企業に提案できる環境整備が必須といえそうだ。
テリロジーは、海外製品などITの最新テクノロジーのディストリビューションを手がけており、さまざまな製品を組み合わせてユーザー企業に適した製品・サービスを提供することに力を注いでいる。ユーザー企業のニーズに応えるためにNGNも商材の一つとして捉えているが、新見取締役は、「多くのユーザー企業が利用するのを見据えるのであれば、安全や安心を広く担保しなければならない」と説く。その一つが通信品質だ。「日時によって配信スピードが遅く感じる実態では、ユーザー企業が利用しない」(新美竹男取締役)と指摘する。
NGNの特徴であるQoS機能は、あくまで品質を高める数値的な保証に過ぎない。そこで、テリロジーが重視しているのは顧客視点のQoE(体感品質)という考え方。実際、QoEにフォーカスした製品を通信事業者やCATVなどにアプローチするビジネスを展開する。
また、セキュリティ面も、まだまだ課題があるという。というのも、NGNが「オープンなネットワーク」を謳い、MVNO(仮想移動体通信事業者)やCATV、CSP(コンテンツサービスプロバイダ)、ISP(インターネットサービスプロバイダ)などが提供するブロードバンドサービスと連携するのであれば、セキュリティが保たれていなければならないからだ。しかし、現状はNGNの内部だけで強固なセキュリティ機能が確立しているに過ぎない。
新美取締役は「ユーザーはCATV、ISPなどさまざまなブロードバンドサービスを介してNGNに接続する。マルウェアも同じようにそれらを踏み台にして攻撃を仕掛ける。NGNと外部ネットワーク入口のセキュリティを強固にしていく必要がある」と指摘する。
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