マスメディアの広告売上高が年々下がるなか、広告出稿企業は、これまで以上に街頭でのプロモーションに費用を割くようになってきたようだ。この動きのなかで注目を集めているのが、新たなメディア「デジタルサイネージ」だ。ネットワークの進化やディスプレイなどハードウェアの価格下落で、大手メーカーから放送事業者、通信事業者、インターネット動画配信のベンチャー企業までが興味を示すという盛り上がりぶり。この先、市場の活性化が予想されるデジタルサイネージ・ビジネスに関する各社の取り組みを追った。
「いまだけ・ここだけ・あなただけ」の
屋外新メディア
「デジタルサイネージ」とは、ネットワークにつながってリアルタイムに広告や動画コンテンツを配信し、ディスプレイなどの電子的な表示機器で情報を発信する屋外メディア。ネットワークの進歩やディスプレイの価格低下で、今、注目を集めている次世代型インフォメーションシステムだ。「いつでも・どこでも」というインターネットと異なり、「いまだけ・ここだけ・あなただけ」という形態だが、携帯電話などとのクロスメディア戦略に活用することもできる。
デジタルサイネージとは、狭義ではLANやWANなどを使った「ネットワーク配信型」を指すが、広義では再生端末にUSB、DVDなどの外部メディアを挿入する「スタンドアロン型」も含まれる。この市場のプレイヤーは、放送事業者や通信事業者、広告会社、ディスプレイなどのハードウェアメーカーに加え、専用ソフトウェアベンダーやコンテンツ配信ネットワーク・システム開発会社、また配信・運用サービス、コンテンツ制作会社など、さまざま。富士キメラ総研によると、2008年には、広義のデジタルサイネージで649億円の市場になっている。
世界をリードする市場に デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)は、「ネットワーク化」したデジタルサイネージ市場を2015年に1兆円規模に拡大させることを目的に普及・環境整備活動を行う団体。現在152社の会員を抱える。中村伊知哉理事長と石戸奈々子事務局長に、国内のデジタルサイネージ市場の状況と今後の展望を聞いた。
――市場をみると、1社でコンテンツ制作や配信システムを手がけるなど、プレーヤーの切り分けがはっきりしていない気がするが。
石戸事務局長 まだ「一般的」というやり方がない。専業ベンダーもいるが、メーカーのなかにはディスプレイ販売からSI(システム構築)、広告関連事業まで、総合的に提供する会社も出てきている。
――サイネージは、今、どのくらいネットワーク化されているのか。
石戸事務局長 1割といわれている。実際、ネットワーク化されてはじめて強みが発揮できるが、大半はスタンドアロン型だ。
中村理事長 2015年に1兆円市場にしたい。「ネットワーク化」が最大のキーワードで、ネットワーク化したサイネージが急速に進むと見ている。
――新規参入企業からは「ディスプレイメーカー主導型の市場」という声も出ているが、市場は盛り上がるか。
中村理事長 80年代後半のCATVの動向に似ている。CATVは、ディスプレイメーカーと衛星通信会社、ネットワークシステムが手を携えて「産業」になるのに数年かかった。その後にコンテンツが登場し、ハードとソフトがまとまって普及期に入った。デジタルサイネージは今、ハード先行で市場を作っている「過渡期」だと思う。
――「普及期」を迎えるのが、1兆円市場が見込まれる2015年…。
中村理事長 本音を言えば、もう少し早い段階、アナログ放送の停波で地上デジタル放送に完全移行する2011年、12年あたりを普及期にできたらいい。停波でアナログ放送周波数帯域が空き、その活用法としてさまざまな案が出ているなかで、用途の一つとしてサイネージの伝送路の実証実験が行われている。普及期には、日本のサイネージ業界が世界をリードするくらい強くなっていてもらいたい。
――日本に優位性はあるのか?
中村理事長 普及という点では、米国・英国・中国が先行し、日本は後追いだ。個人的な意見だが、それでも日本が先頭に立てると思う。「ディスプレイの質」「高度なデジタルネットワーク」「コンテンツをつくる力」の3要素をもっている国は、日本しかない。コンソーシアムは、外資ベンダーに参加してもらうなど、国際性をもちながら活動をしていきたい。
――今後の動きとしては。
石戸事務局長 ユーザー主導のメリットを享受するために、広告主やデベロッパー、コンテンツ系企業に多く参加してもらいたい。社団法人アドバタイザーズ協会など、業界団体に働きかけをしていきたい。
デジタルサイネージ
コンソーシアム 07年6月に発足。普及促進と課題解決を目的に、放送事業者、ハードウェアメーカー、通信事業者、広告代理店、コンテンツ事業者など、152社(09年6月19日現在)が参加する業界横断的な団体。課題となっている配信システムなどの技術や広告効果指標の標準化、著作権、自主倫理規定の策定などにあたる。会員各社は部会のワーキンググループに参加して問題解決に取り組む。
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