5年ほど前の活況ぶりから一転、影を潜めていたオープンソースソフトウェア(OSS)が再び注目されつつある。不況によるIT投資額減少の影響を受け、SIerはシステム構築に必要なパーツを可能な限り安価に調達したいと考える。その流れが、OSSを再び表舞台へと押し上げているのだ。ベンダーやディストリビュータ、SIer、そしてOSS関連団体、それぞれのOSSに対する取り組みを探った。
コスト削減で再燃
低価格要求に応える術に
不況で再び関心分野へ
ユーザー調査でも明らかに 「コスト削減が目的なのか、ユーザー企業のオープンソースソフト(OSS)の利用状況は活用検討中も含めて過半数と高い」──。 野村総合研究所(NRI)が今年3月上旬に実施した調査の結果をもとに、「情報システムの方向性」として導き出した結論である。ユーザー企業はITコストを削減するため、ライセンス費用の負担が少ないOSSを再び重視し始めていることを表している(図1参照)。
今から5年ほど前、OSSは国内IT産業界で一気に火がついた。ライセンスコストがかからないことと、ソースコードが開示されていることから、ユーザー企業はOSSに関心を示し、調査・研究を始めた。そのニーズに引っ張られ、SIerはシステムインテグレーションにOSSを活用し始めた。OSやデータベースなど主要なOSSをまとめた呼称「LAMP(ランプ)=Linux、Apatch、MySQL、PHP」が、IT業界のOSSに詳しくない層にも浸透し始めたのもこの頃だった。
OSSはその後、着実に浸透し、今では当たり前の存在になった。いってみれば、特別に意識されることがなくなったのだ。だが、今回の不況が再びOSSを表舞台へと引き上げている。ユーザー企業は景気後退の影響で、ITに対する投資を絞っている。ユーザー企業が主要メンバーになってIT利活用の最適な方法を調査・研究する社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は、2009年度のIT予算を08年度比でほぼ横ばい(図2参照)と予想しているが、不況の影響を考えれば「09年度のIT予算は前年割れが必至」との見解も示している。そうなると、同じ仕様・機能のシステムでも、ユーザー企業は景気後退前よりも安価に開発して欲しいとSIerに依頼する。SIerがその要望に応えながら利益を捻出するためには、外注費を削るか、システムを構成するパーツであるサーバーやソフトを安価に調達する必要がある。そこで、保守費用を含め商用ソフトに比べて安価に調達できるOSSが脚光を浴びる──という構図である。
OSS関連団体も変革期
活動領域広げ再スタート 関連団体の動きも慌ただしい。
富士ソフトが中心となって99年に設立した特定非営利活動法人(NPO)の「Linuxコンソーシアム」。10年目の節目となる今年、LinuxだけでなくOSS全体のビジネスを推進する団体「OSSコンソーシアム」に衣替えし、再スタートを切った。OSS市場活性化に向けた問題点の解決や、会員同士の効率的な情報共有を促進するのが狙いである。7月29日に第1回総会を開き、まずは法人会員40社の獲得を目指すという。渡辺剛喜・発起人代表は、「既存会員のやる気をひしひしと感じている」と再出発に意気軒昂だ。「ITコスト削減の流れが業界を覆うなか、ユーザー企業のシステム開発発注額は小さくなっている。開発者は低コスト化・効率化を図るため、OSSを使用する傾向がみられる」と、渡辺氏はOSSが注目されている背景を説明する。
OSSコンソーシアムが立ち上がった同じ7月の2日には、別のOSS関連団体も発足した。「オープンガバメントクラウド・コンソーシアム(OGC)」がそれだ。政府や自治体がOSSを活用したクラウドシステムを構築するための支援を手掛ける団体で、サン・マイクロシステムズやミラクル・リナックスなどのOSS関連ベンダーのほか、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)やインテックなどのSIerも参加し、合計19社で運営している。
Linuxコンソーシアムのように前身団体がある点では同じで、04年に設立されたオープンスタンダード・コンソーシアム(OSC)が母体になっている。OSCでは、官公庁や地方自治体に対してOSSの価値を訴求し、システムに活用してもらうための普及・促進活動を手掛けていた。OSCに参加しOGCにも加盟したミラクル・リナックスの児玉崇社長は、「地方でOSSの普及・啓蒙活動を1社で手掛けるのは、手間やコストを考えればほぼ不可能。団体として手間やコストを分散負担し、販促活動を展開できたことは成果だった」と、一定の成果を肌で感じている。
Linuxだけでなく、OSS全体まで領域を拡大したOSSコンソーシアムと、政府・自治体に対するOSSの単なる活用促進からクラウドシステムでのOSS活用に視点を広げたOGC。二つのOSS関連団体が同時期に、事業領域を拡大したことは、「OSSの再燃」を裏づけている。 次ページからは、OSSでビジネス拡大を目指す主要なITベンダーの動きをみていく。
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