数少ない有望市場
ブルーオーシャンの開拓目指せ Google、Amazonから火がついたクラウドだが、大規模基幹システムのクラウド化は、まだどのベンダーも経験がない。それだけに、この領域で先行すれば高い付加価値を得られ、かつライバルが少ない未開拓市場“ブルーオーシャン”を手に入れることが可能になる。大規模システムだけでなく、中堅・中小企業向けの販路開拓やクラウドSI・サービス体系の整備、連携するアプリケーション、開発・運用に必要なプラットフォームづくりなど、取り組むべき課題は山積している。 厳しいビジネス環境が続くなかでも、先行投資に耐えて技術を高めれば、シェアを伸ばせる、数少ない有望市場だと断言できる。
大手SIerの動向
ビジネス形態が多様化
百花繚乱の時代に突入
コンピュータメーカーや大手SIer、ソフト開発ベンダーが相次いでクラウドビジネスに本格参入している。クラウドのビジネス形態も一気に多様化が進み、今はまさに“百花繚乱”の時代に突入した。GoogleやAmazonなど米国勢が先行するクラウドだけに、国内勢は海外勢とは違う生き方を見つけなければならない。自分の立ち位置をどこに置くかで、今後のビジネスが大きく変わってくるのは間違いなさそうだ。
VDCや検証設備に先行投資 クラウドコンピューティングを最初に実践したのはGoogleやAmazonである。脅威に感じた米Microsoftは、年内にもクラウドサービスのAzureを北米でスタートさせる。クラウド=雲の上の戦いは、米国ベンダー主導で進んでおり、残念ながら国内のベンダーでGoogle、Amazon規模の空中戦を展開できるプレーヤーは今のところいない。制空権は完全に海外ベンダーに押さえられたかにみえる。だが、国内大手ITベンダーは、100億円単位で仮想化対応のデータセンター(VDC)に投資。海外勢が持たない強力な陸上部隊と連携させることで、独自のクラウドビジネスの構築に取り組む。狙いはユーザー企業の基幹系業務システムのクラウド方式によるアウトソーシング受注だ。
GoogleやAmazon、Salesforceがいくら規模が大きいからとはいえ、ユーザー企業の基幹業務システムを動かすまで強力かといえば、そうではない。数百億円を投じて大規模なDC建設を進めるTISは、「大手金融機関の基幹業務システムに耐えうるクラウドシステム」(前西規夫副社長)の構築を目指す。同社は今年5月に大阪の心斎橋DCを大幅拡張したのに続き、2011年4月には東京都心に御殿山DCを竣工させる予定。TISが属するITホールディングス(ITHD)グループ全体でみれば御殿山DCを含めて全国19か所、延べ床面積11万m2と、SIerとしては国内最大規模のDC保有量を誇る。
新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は、今年7月にユーザーと共同でクラウドの評価・検証を行う検証センターを開設。同社のクラウドサービスの「absonne(アブソンヌ)」の拡販につなげる構えだ。センターの規模はマルチコアCPUのコア数で806個と、「国内SIerの検証センターとしては最大規模」(北沢聖・システム研究開発センター システム基盤技術研究部長上席研究員)と、大規模システムの検証も可能と胸を張る。ユーザーの基幹業務システムのクラウド化を見越したもので、同分野の研究開発費として年間数千万円を投じる気合いの入れようだ。
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