point3
売れ筋の製品ジャンルは?
変更・構成管理、自動化が人気
先に説明したが、運用管理ツールといってもそのカバー領域は広く、多種多様なツールがあり、そして売れ筋と死に筋がある。そのなかで今後伸びる製品は何か。
IDC Japanでは、運用管理ソフトのなかでもシステムのリソースを効率的に管理するための「ジョブスケジューリング」や「イベントオートメーション」ツールの伸びが鈍化傾向にあるとみている。その一方で、成長を予測しているのがシステムやネットワークの「変更・構成管理」および「問題管理」「パフォーマンス管理」ソフトだ。また、仮想化技術の浸透で、物理環境と仮想環境の双方をマネジメントする構成管理、リソース管理の需要が高まると予測している。
一方、ITRでは「複雑化、大規模化するシステムを仮想化・自動化製品を用いて集約・統合することで運用効率を高めようとする動きがある」(金谷敏尊・シニア・アナリスト)とし、システム運用の自動化やインシデント管理などに強い需要を感じている。その一方で、運用管理ツール市場のけん引役を担ってきたジョブ管理やストレージ管理、バックアップ/リカバリ製品は、市場規模は大きいものの、導入が一巡した感があると指摘する。
point4
投資引き出す提案文句は?
「コスト削減」よりも原点回帰
ユーザーの投資意欲をかき立てる工夫は、この時期には運用管理ツールでも必要だ。では、どんな提案文句がユーザーに響くのか。
昨秋以降、運用管理ツールベンダーの多くは提案ポイントを切り替えた。それ以前はセキュリティ対策や、内部統制に必要なツールとして運用管理ツールをPRし、販売してきた。しかし、不況後は、「コスト削減」を前面に押し出した。運用管理の効率化による人員最適化や無駄な資産の検知・排除、消費電力の削減に結び付けられる点を強調。不況を意識した提案方法に切り替えたわけだ。ただ、その戦略はあまり効果がないという声が意外にも多い。
大塚商会は、昨年後半から景気低迷の影響で企業システムのリソース管理、いわゆる「IT資産の棚卸し」をしてシステム全体のコスト削減を実現できることを提案の軸に据えるが、この“謳い文句”が通用しなくなっているという。むしろ、「原点回帰で『ログ管理』するシステムの商談の方が、ユーザーに響きやすい」(西川靖彦・セキュリティプロモーション課長)。
一方、MOTEXでも同様の見解をもつ。同社のネットワーク監視ツール「LanScope Cat」は、ログ収集・管理機能に強みを持ち、セキュリティ対策や日本版SOX法対応、そしてコスト削減などさまざま切り口で提案しているが、セキュリティ対策をPRの中心に据えているという。「ログの活用方法がセキュリティ以外にも向けられていると感じているのは確か。ただ、運用管理・監視ツールに対するニーズは基本的にセキュリティ対策がメイン(広報担当者)。
コスト削減よりも、ツールを導入した際の本来のメリットを訴えるほうが、購入に結び付きやすいようだ。
ITベンダーも運用管理は重要
DC運用が競争力決めるポイントに
SIerなどのITベンダーにとって情報システムをどう運用管理するかは、差し迫った課題である。クラウド/SaaSへの需要が高まるなか、まず突き当たるのがコストの壁だからだ。自社でクラウド/SaaSを始めるイニシャルコストもさることながら、運用管理のコスト次第ではサービスが立ち行かなくなる可能性さえある。運用管理を効率化し、価格競争力のあるランニングコストレベルに下げられるかどうかが勝敗を決めると言っても過言ではない。一方で、運用管理の問題を解決すれば、利益増加の恩恵に浴することになる。
ユーザー企業にとってクラウド/SaaSの魅力はなんといってもコストの低さ。仮想化技術によって、ハードとアプリケーションを分離し、従来のハウジングをベースとしたアウトソーシングでは実現できなかった“モビリティ(持ち運び性)”を実現している。契約上も月や年単位で区切られているため、ユーザーが割高感を感じれば、短期間で他のITベンダーが運用するクラウドへ移し替えることが可能である。
ITベンダーは、ユーザーに逃げられないよう、あの手この手で運用コストの削減に努める必要がある。この仕組みづくりに成功すれば、今後拡大が見込めるクラウド/SaaS市場でシェアを伸ばせるのだ。
クラウド/SaaSビジネスに強い意欲をみせるSI業界最大手のNTTデータは、グループ会社のNTTコミュニケーションズ、NTT持ち株会社と共同でSaaS基盤を開発。ID認証やポータル、料金回収代行、マルチペイメント決済などの基盤機能群を備える。
これにより運用の標準化によるコスト削減ができ、また将来的に両者のクラウド/SaaSの連携による規模のメリットも見込める。同じく業界に先駆けてクラウドビジネス参入を表明した大手SIerの日立情報システムズは、全国に十数か所のデータセンター(DC)を展開。従来はDCごとに運用管理を行っていたが、これをソフト技術によって仮想的に統合した。主要DCの統合的な運用を推進したことで2009年3月期までの3年間累計でDCにかかるコストをおよそ30億円の削減に成功。同時に売り上げも伸ばして収益力を高めた。
GoogleやAmazonなどクラウドで先行するベンダー、徹底したコスト削減と規模のメリットで日本のITベンダーの追随を阻む。だが、たとえ規模で勝てなくとも、高効率の運用管理手法を確立させれば、国内における、とりわけ可用性が求められる基幹業務システム分野における競争優位性を高めることは十分可能だ。