SIerの動向
新サービス投入で商機をつかむ IT機器の電力削減は、喫緊の課題である。経済産業省の推計では、IT機器が消費する電力量は2025年に06年の水準の5倍に膨らむとされ、電力消費が大きいデータセンター(DC)を抱える大手ユーザーやITベンダーは、電力消費に頭を悩ませている。
ここにビジネスチャンスを見出したのが、日立製作所グループで設備系のシステム構築や保守サービスを得意とするSIerの日立電子サービス(日立電サ)だ。
日立電サは、2010年4月をめどにIT機器が密集するDC設備の電力削減対策サービスを大幅に拡充する計画。これまでDCの電力削減は原則として案件ベースでの対応だったが、DCの電力削減ニーズが高まっており、「体系立ったメニューに仕立てることで省エネビジネスを拡大させる」(井村勉・環境・設備ソリューション開発部第1グループチーフエンジニア)と意気込む。
サービス名は「設備運用管理ソリューション」(仮称)で、DCの空調や変圧器、サーバー、配電盤、UPS(無停電電源装置)、LED照明などを対象とする。
一般的には、DC全体の消費電力のうち、IT機器の消費割合は半分以下に過ぎない。残りは空調や変圧器などの設備の消費が占める。新サービスではIT機器だけでなく、設備の電力消費も効率化することで、DC全体の消費を抑える。
日立電サは、日立製作所が主導する2012年までにDCの電力を07年比で半減させるプロジェクト「CoolCenter50(クールセンター50)」に参加した。今年7月にオープンした日立製作所の横浜第3センターで、新サービスに向けた電力削減の検証を着々と進めている段階である。

日立電子サービスのDCの電力消費を削減するための監視システム。無線式の温度センサーやサーモグラフィ、環境監視装置などを駆使し、DCの電力消費を抑えるサービスに力を入れる
検証で浮き彫りになった課題の一つが、DC設備のなかでも電力消費がひときわ大きい空調の運用手法だ。
日立電サの自社DCでこの9月に検証したところ、空調の設定温度を20℃から22℃に上げることで、空調設備の電力消費を約12%削減することができた。
同社では、最新の気流シミュレーターソフトを使ってDC内の廃熱効率を計算し、かつ無線式の温度センサーを多数設置して熱だまりの有無を監視。また、サーモグラフィで実際の温度を測定するなどして、IT機器の影響を最小限に抑えて空調の電力を削減する技術検証を行っている。

日立電子サービスは、シミュレーターソフトでデータセンター内の排熱効率を高めるサービスを手がける
グループ連携や自社内での検証によってノウハウを蓄積することで、顧客企業向けのサービスメニューの体系化を急ぐ。こうした取り組みによって、DC設備の消費電力削減サービスなどグリーンIT系のサービスビジネスを「向こう2~3年は年率1.5倍~2倍の勢いで伸ばす」(同)考えだ。
販売系SIerは商材の魅力に期待 一方、サーバーやPCの販売を得意とする販売系SIerには、グリーンITへの追い風はまだ吹いておらず、商機はこれからとみている。

日立電子サービス 井村勉チーフエンジニア
08年2月に経済産業省が「グリーンIT推進協議会」を発足させた。それ以降、“環境対策”を口説き文句に低消費電力のIAサーバーやPC拡販の動きが販売系SIer間で活発化したが、「昨秋からの不況のせいで、『環境対策』では新ハードの買い替えを促進できなくなった。とくに中堅・中小企業(SMB)にはまったく通用しない」(大手SIer)ことが背景にある。
そのため、「環境配慮」から「消費電力低減によるコスト削減」に内容を変えて提案するが、サーバーの買い替え・買い増しの促進はまだ厳しい状況にあるという。
ただ、「景気低迷で今はIT投資を絞っている分、不況が終わった後には当然ハードの買い替えが一気に加速する。その時に促進材料になるのは環境対策と考えている。今後の販促材料として『環境対策』『グリーンIT』は大きな武器になる」(同)とみている。
政府は温室効果ガスを2020年までに90年比で25%削減する目標数値を上方修正した。これを受けてIT機器の運用者は、企業の規模を問わず、今後本格的な電力削減に乗り出す必要に迫られる。販売系SIerはそのタイミングを虎視眈々と狙っている。
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