大手ITメーカー
クラウド一色、ハードは二の次
大手ITメーカーは2010年、いっせいに「クラウド・コンピューティング」に注力する。各社はまず、ユーザー企業側に構築する「プライベート・クラウド」ビジネスの早期立ち上げを狙う。「プライベート・クラウド」と併行して、自社データセンター(DC)も増強。独立系ソフトウェアベンダー(ISV)などとのパートナー関係も確立し、アプリケーションを充実することで「パブリック・クラウド」の本格稼働に向けた取り組みを開始する。中堅・中小企業(SMB)の開拓や「パブリック」と「プライベート」、既存のクライアント/サーバー型システムとのハイブリッドなサービスを提供するといった各社独自のクラウド戦略で事業拡大を目指している。
これまでハードウェア指向とみられていたNECは、金融機関など大手企業向けの「プライベート・クラウド」の提供に積極的に取り組む。矢野薫社長は「社内で実証的に導入しているクラウド環境のノウハウを生かし、案件獲得を狙う」と、自社に導入したクラウドによるコスト削減や業務効率化、環境配慮などの実績や取り組みをユーザー企業に「横展開」する考えだ。
「パブリック・クラウド」的な展開としては、自社DC経由でSaaSをSMB向けに提供を本格化することを視野に入れ、現在、ISVパートナーシップを増やすことに懸命だ。また、旧電算センター系を中心として地域で有力な同社系列のDC事業者と共同で「クラウド・サービス」の提供を視野に入れている。これら電算センターに対し、「当社のクラウド・サービスと販社のアプリケーションを組み合わせてサービス提供できる仕組みづくりを支援する」(矢野社長)考えだ。DCをもたないハード販売やインテグレーションが中心のパートナーに対しては、既存SI(システム構築)とNECのクラウド環境を利用したサービスを複合的に提案できるようにすることを検討している。
競合する富士通は、「2010年はクラウドの流れがますます加速するはず」(間塚道義会長兼社長)と判断し、クラウド事業の強化を掲げている。NECと同様に「プライベート」と「パブリック」の両方を提供する「ハイブリッド型」で提供できる体制を整備する。ユーザー企業が基幹システムなどミッションクリティカルなシステムをパブリック環境で動かすとは「考えにくい」(同)と、システムの実状に応じ両クラウドを棲み分けて展開するというのが富士通によるクラウドのビジネスモデルだ。
社長の方針で、クラウドに最も力を入れているのが日本IBM。同社はIAサーバー環境だけでなく、UNIXや汎用機などを含めマルチプラットフォームで「パブリック」と「プライベート」の両方を手がけられる強みをもつ。橋本孝之社長は「仮想化や自動化、標準化の技術力を武器に、徹底的に市場をリードする」と、2010年度(2011年12月期)はクラウドへのドライブを加速する方針だ。09年7月に約10人規模で立ち上げたクラウドの専門組織を拡張。「インダストリー(業種業態)やソリューション別にクラウド・サービスを体系化して展開する」(同)と、同社SIの中核的なサービスとしてクラウドを位置づける。
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は2010年に「プライベート・クラウド」の案件獲得へ本格的に舵を切る。同社は、「概念的だったクラウドが実ビジネスにつながるチャンスが到来した」(小出伸一社長)と、粛々と準備してきたクラウド・サービスを全方位で展開する時期と判断している。
日本HPは2009年中、クラウド・サービスの提供を検討するDC所有のITベンダー向けにブレードサーバーの提供を積極化したほか、クラウド環境に必要な製品のラインアップも拡充。「2010年も引き続き、多くの製品を投入する」(小出社長)と、大量の新製品や新サービスの投入を示唆する。09年にはEDSジャパンとの統合を果たした。「これまで手薄だったサービス事業の基盤が整った」(同)と、メインフレームからオープンシステムへの移行案件を戦略的に提案する姿勢も示している。
業務ソフトウェアベンダー
2月のAzureローンチでクラウド加速
クラウドがIT市場へ本格的に浸透し始めるのが2010年だとすれば、業務ソフトウェア市場では、大きな「パラダイムシフト」が起きることになる。業務ソフトベンダーにとっては、従来のビジネスモデルである「再販モデル」を見直す構造改革が差し迫った課題。しかし、この機先を制したベンダーが時代を制し、10年中に向かえるクラウドの浸透や労働基準法の改正、内部統制の強化、グリーンITの盛り上がりなど、さまざまなビジネスチャンスをつかむことができる。こうした動きを捉えようと、ベンダー各社は策を練っている。
クラウド「再販モデル」の転換に課題 クラウド/SaaSの時流にいち早く乗り、SaaSの事業化を成し遂げたピー・シー・エー(PCA)は、2008年5月にSaaS事業を開始し、「会計」「給与」「公益法人会計」を6月までにリリースした。09年2月には、初期費用が不要な「イニシャル“0”プラン」を発表するなど活発な展開で、SaaS事業単体はわずか1年で黒字化にこぎつけた。2010年には、新たにデータセンターを開設し、2拠点体制を構築。クラウド/SaaS事業をさらに加速させる考えだ。
PCAの水谷学社長は、「この事業は、どんどん伸びていく」と期待を寄せる一方、まだ課題が残っているという。従量月額課金のビジネスモデルに対応できず、事業モデルを転換に踏み切れない販社が少なくないというのがその課題だ。PCAは、この状況に対応するため「プリペイドパック」などを展開している。だが、まとまったロイヤリティーを一度に回収したいという販社側の要望は強く、SaaSの「再販モデル」の転換期に差し掛かっているようだ。
クラウド移行に慎重な業務ソフトベンダーが多いのは、PCAが抱えるこのような問題に代表されるように、イニシャルモデルと別の収益モデルが描けないためだ。ただ、各ベンダーにとってビジネスモデルの転換は待ったなしの状況にある。2010年中には、その点で慌しさを増しそうだ。
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