SAP、SMBを開拓 医薬品・製造業の専門部隊を東京と大阪の2拠点に配置している日立システムアンドサービスは、「地道な営業活動を続けてきた」(橋本部長)。中堅・中小の医薬品メーカー向けに「SAP Business All-in-One」認定ソリューション「Specific for Pharma」を拡販している。中堅医薬品メーカーは、抜本的にシステムを見直すケースが多いため、全社最適が必要となってくる。「変化に対応し、早期に低コストで実現したい」という要請が多いという。
「Specific for Pharma」の特徴は、プログラムを変更することなく、パラメータ設定だけでパッケージを利用できるという点。バージョンアップの際もソースプログラムをいじらずに済む。橋本部長は、実例を挙げて優位性を強調する。「システムを利用し始めてから、工場が増えた時、検討から工場の立ち上げまで、パートタイム対応のシステムエンジニアが取り組み、3か月間で対応できた」と。
同社では、外資系の先発医薬品メーカーのユーザーが増えている。国内のメーカーに対しては、「国内にとどまっていてはユーザーニーズに対応できない。海外現地法人対応などのニーズは増えてくる」(橋本部長)として、海外でのサポート体制構築に力を入れる。日立製作所グループの各企業や独立系のパートナー企業と連携し、グローバル進出するメーカーのニーズを汲み取る考えだ。
新たなビジネスチャンスとして期待するのは、化粧品GMP(ISO22716)に準拠している化粧品・医療機器・食品メーカーなど。「香料メーカーは業務プロセスが似ている」(橋本部長)ため、応用が利く。Over The Counter(OTC=一般用医薬品)製造と兼業のメーカーもその範疇に入る。
現状について、橋本部長はこう明かす。「引き合いは増えている。ただし、発売当初ほどではない」。SAPといえば、「高い」というイメージが根強く、ユーザー企業が敬遠してしまうケースが少なくない。また、ITを活用した業務改革に眼が届いていない企業もまだまだ多いのが実状。経営者や役員の意識が低いわけではないのだが、社内の足並みが揃わないことが阻害要因になっている。
もともと「Specific for Pharma」は、医薬品業界に限らずに、「Specific for ××」として業界特化のソリューションを展開していく構想で開発、販売してきた経緯がある。次なる展開も検討しているが、一方でメーカーのグローバル展開を視野に入れて、「Specific for Pharma」の英語版を追加する必要性も感じている。既存製品の強化か、業界別製品ラインアップの充実か、「何を優先するのか」が重要となっているという。
近年SAPジャパンは、SMB市場の開拓に力を入れており、「SAP Business All-in-One」認定による特定業種向けソリューションを展開してきた。日立システムアンドサービスは、医薬品業界向けとしての第一号にあたる。SAPの浸透率は、年商100億円以上の大手で88%のシェアを占め、デファクトスタンダードとなっているが、同500~1000億円では50%、同100~500億円では20%と、下位グループは未開拓の領域となっている。下位グループに属する後発医薬品メーカーの事例は、近年徐々に出始めている状況。後発医薬品は、成長が著しく、海外展開を考慮するとSAPが選択肢に入ってきているといえそうだ。SAPジャパンの先崎心智・インダストリー/ソリューション戦略本部製薬業界担当部長は、「パートナー企業もこなれてきている」という感触を得ている。
エンタープライズ市場
グローバル統合に向けて
IFRS対応をトリガーに 「メーカーは特許切れに相当な危機意識を抱いている。国内市場は世界全体の9%にまで落ち、伸び悩んでおり、残りをどう奪い合うかという状況だ」。SAPジャパンの先崎部長はこう説明する。大手を中心に海外の売り上げ比率は高まりつつあり、グローバル市場を今までになく重視。IFRSへの対応をきっかけに、システムのグローバル整備を進める動きが出始めている。
冒頭で触れたように、先進国は市場規模でいうとまだまだ大きいが、成長率が1ケタと停滞している。一方、BRICsなど新興国市場はこれから伸びが期待できる。アクセンチュアの製造・流通本部ヘルス&ライフサイエンスグループ統括パートナー・永田満氏は、業界動向について、日本発の輸出型モデルからグローバルで多様化する生産拠点や販売地域のサプライチェーンマネジメントを必要とする事業モデルに変化しつつあると指摘。マスターなどをグローバルで統一し、各国の販売データのマネジメントをできるようにする潮流となっている。グローバル治験の傾向については、「各国で機能別だったところが、国境や地域を越えて横串で機能軸の管理ができるようになる」とみている。
ベンダーにとっては、いかにグローバル対応していくかがカギになる。SAPやアクセンチュアなどは優位に立ち、国内を中心に事業展開してきた国産ベンダー各社にとっては、海外進出とその整備が急務となっている。
巨人SAPの動向 SAPジャパンにとって、とくに引き合いが強いのは、「IFRS・グローバル経営管理で、そこから派生する形で、グローバルサプライチェーンやグローバル人事がセットで考えられることが多い」(先崎部長)。
R&Dはグローバル化が進んでいる領域で、同社にとって有望分野だ。「研究開発や今後の売り上げや収益性のシミュレーションなどで、グローバル企業の連結会計を支援する『SAP Business Objects Business Planning and Consolidation』(BOPC)を利用するケースが増えてきた」(先崎部長)。国内でみると、大手はビジネスインテリジェンス(BI)の整備を検討しているという。薬事法の改正で医薬品製造の全面委受託が可能になってからは、「SAP Supply Chain management」(SCM)の一部で、グローバルでグループ企業や製造委託先とのサプライチェーンを可視化し、連携させる「SAP Supply Network Collaboration」(SNC)も徐々に国内で実績が出始めてきた。
もともとシステムは各国でバラバラに導入されてきた。業界再編とグローバル化が進むなか、地域統合を経てグローバル統合を図るのは必然といえる。先崎部長は、「グローバルサプライチェーンを機能レベルで立ち上げ、それに合わせて業務の標準化モデルをつくる。ガバナンスを敷いて、システムをグローバルという切り口で別に入れていく段階的なアプローチをとり、数年後にはグローバル統合を目指していくことになる。人事・財務会計などはシェアードサービスの方向に向かっていくのではないか」と分析する。
グローバルガバナンスを支援 アクセンチュアは、IFRS対応を支援する「IFRS経営モデル別ソリューション」を用意している。「松・竹・梅」の三つのソリューションモデルに分類し、ニーズに応じて対応策を提案する。
「梅」は、連結のみIFRSに対応。「最低限IFRSに対応するものだ」(永田氏)。「竹」は、ERPを活用し、本社と主要拠点の業務効率化や決算短縮、IFRS対応を実施。その他拠点は、二重入力や台帳による個別マニュアル管理とする。「会計システムに手を入れ、コードやマスターを統一。連結業務を効率化し、経営管理領域を強化できる」(同)。「松」は、グループを横断し業務やシステムを共通化。転結とグループの両面で、IFRS対応を進める。「SCMや人事、R&Dまで含めたグローバルオペレーションモデルを構築していく」(同)。
永田氏は、「今後はグローバルアプリケーションをつくる必要がある」と指摘する。SAPの上に乗っかる形でグローバルに人材管理し、人事情報を配信するほか、サプライチェーンで各国の在庫・販売情報を一元化してグローバルで受注調整することが求められている、とみているのだ。ITベンダ―に求めれるのは、世界各国で対応できる体制づくりである。各国と本国の間のコンセンサスとコミュニケーション上のリスクが高いが、メガファーマといわれる外資系大手メーカーは、5~10年前から取り組んできた経緯があり、「IT部門の発言力が強い」。一方、日本のメーカーは、グローバルガバナンスを図る際、各国の「一国一城の主」という考え方が背景にあって、「なかなか難しい」。コンセンサスを得るために掛ける時間が長く、意思決定が遅いのだという。
ではどうすれば良いのか。永田氏は、「ITは、横軸の組織強化とグローバル軸でのガバナンス構築が必要」だと指摘する。プロジェクトを進めるには、ローカルの意図とコンセンサスが進められるように、コミュニケーション支援を実施。各国の意見を集約し、現地でコンサルティングをしながら定着を図り、全社最適を目指す。「他ベンダーとのアライアンスも考えている。ジョイントでプロジェクトを起こすことなどだ」(永田氏)。各国のローカルベンダーの協力も取り付けたい考えだ。
シェアードサービス化に注力 「2010年問題は、まだ実感として来ていないというイメージだ」(日立製作所の産業・流通システム事業部産業第一システム本部本部長・中野信氏)。グローバル対応に関心は高まりつつあるが、システムの導入まで進んでいないというとらえ方をしている。
ただ、日立製作所でもグローバル化への対応は急務。海外ベンダーとのアライアンスを推進していく考えだという。注力していきたい分野は、シェアードサービス化。「メーカーが本業に注力できるようにする。基幹システムは大体SAPのため、提供しやすい」そうだ。グローバル対応では、システムを統一し、現地の運用をまとめてコントロールできるようにするわけである。
同社は4月に、関東と関西に分かれていた事業部を「医薬ソリューションセンター」に集約化した。営業とシステムエンジニアを一本化し、シナジーを発揮していく狙いだ。