拡販に向けた施策、続々と 業績が厳しいベンダーがある一方、数期連続で増収増益を達成している好調なベンダーも存在する。世界同時不況の影響はけっして小さくはないが、これまで打ってきた施策が効果を表してきたといえるだろう。それぞれの流通・販売施策をみてみよう。
メーカーの場合
流通網見直し、成長を加速化
直販に軸足を置く 全国に29の販売拠点を備え、製品販売の大半を直販が占めるミロク情報サービスは、販売パートナーを経由した売り上げが10%にも満たない。パートナー経由の販売は、「結構伸びている」(是枝周樹社長)が、「あくまで直販主体。そうでなければ拠点の意味がなくなる」と説明する。ただ、拠点は全国に散在するだけに、「コストがかさみ、利益を圧迫している」(是枝社長)。同社は、ユーザー企業と接点をもっている強みを武器に、今後は保守サポートを社内で賄っていくことを計画している。地域別では、関西と中部地区で規模の拡大に伴う人員増を図る。2010年度は、その第一段階として、「人材の育成にとくに注力する」(是枝社長)ことを掲げ、社員の教育や研修に本腰を入れる。
住商情報システムが取り扱う「ProActive E2」は直販が8割を占める。一時は間接販売に力を入れ、パートナーを積極的に増やしたこともあった。2年間で10社強増えたが、現在は直販に軸足を戻しつつある。その一方で、「パートナーに加わりたいという意向があれば歓迎する」としている。
パートナーは、500億円以下のユーザー企業をターゲットに拡販を担う。共同でプロモーションを実施したり、成功事例を共有したりしている。加えて、各パートナー向けの支援メニューを作成。アクセンチュアの子会社のソピアなど20社強が揃い、2009年11月に新しく加わった三菱商事グループのアイ・ティ・フロンティアは、三菱商事グループ企業を中心に「E2」を積極的に販売している。
パートナーのすそ野広げる SAPジャパンは、「SAP Business All-in-One」の流通網の強化に乗り出す。具体的には、販売パートナープログラム「PartnerEdge」から1次店として3~5社を選定。新たに「Extend Business Member」(EBM)を新設し、2次店、3次店として地方に地盤を置く地場のSIerを募る。1社の1次店につき、10社程度の2次店を抱えるようにする算段だ。
EBMの開拓には、1次店と同社のパートナー営業担当が共同で取り組む。「PartnerEdge」に参加するには、コンサルタントの人数の基準や年間の販売高などの条件があり、地場のSIerにとってはハードルが高い面がある。EBMの制度では、こうした条件を取り払い、門戸を広く開く。現状では、保守メンテナンスを行うのは1次店という姿勢をとっている。今後は、EBMがサポート活動を展開できるように制度化していく考えだ。「カバレッジを広げていく」(岡村・バイスプレジデント)ために、パートナービジネスを伸ばし、70%にまで間接販売を拡大することをもくろむ。
地場のSIerを介した横展開を進めるSAPジャパンに対し、日本オラクルの方針は少々異なる。「地方よりも海外に目を向ける」(野田・担当ディレクター)として、海外進出を計画する企業に向けたアプローチを重視する。日本オラクルは、全国レベルの販売網をもつ東名阪のパートナーを中心に、拡販に当たっている。ただ、地域別にみると、大阪での営業活動を強化する必要性を感じているという。「大阪で提供できるAccelerateソリューションは全体の3割にとどまっている」(九十九桂子・アライアンス統括アプリケーションアライアンス営業本部担当シニアマネージャー)という実情があるからだ。現状では、首都圏のパートナーが大阪に出張して対応しなければならないので、負担となる。加えて大阪のユーザー企業は、東京からの出張を歓迎しない傾向がある。九十九・シニアマネージャーは、「地場のパートナーときちんと組めるようにしていきたい」と話し、大阪を地盤としてソリューションを提供できる流通網の構築に取り掛かる。パートナーは、CRMなど複数の製品の取り扱い、ERPと併せて提案することで、「パートナーにとっては、選択肢が増えることになる」(九十九・シニアマネージャー)と、メリットを説明する。
NECは、ユーザー企業の売り上げ規模や各業務に応じ、パッケージとSaaSを組み合わせ、「ハイブリッド型」で提供している。パートナーには、「パッケージSIとサービスの両方を取り扱ってもらい、商談のすそ野を広げる」(製造・装置業ソリューション事業本部EXPLANNER部長の中村敏氏)という狙いだ。全国に370以上点在するNEC系の販売店の事業構造の変換を迫っていく。箱売りしか手がけていないパートナーにとっては、抵抗感があるかもしれない。中村部長は、このような見方に対し、「いきなりサービスだけでなく、パッケージも合わせて提供するので、パートナーにとって資金繰りに有利となる」と、メリットを説明する。
パートナーは、独自のアプリケーションと組み合わせて同社のサービス基盤に乗せて提供することができる。同社とNECネクサソリューションズは、動作検証やセキュリティの技術支援でパートナーの販促活動を強力に後押しする。「ハイブリッド型」のイメージとしては、販売管理はパッケージで、会計・給与はSaaSでそれぞれ組み合わせて提供していくことなどが考えられる。
なお、NECネクサソリューションズはインフォベックの「GRANDIT」の販売にも引き続き注力していく。ユーザー企業のニーズによって、切り分ける考え方だ。
販社の場合
グループの相乗効果を発揮
全国のユーザーを発掘 キヤノンITソリューションズは09年、キヤノングループの強みを生かした流通網の再構築に着手。キヤノンシステムアンドサポートとキヤノンマーケティングジャパンの事務機部隊の流通網を加え、「SuperStream」の販売力を強化した。事務機部隊の情報を集約して、引き合い件数を従来の3~4倍に伸ばしたのだ。柏原部長は、「単独のときは、商談に行き着くまでの件数が少なかった」と、相乗効果を実感している。
体制として整ったのは2010年で、09年から特定の部門とやり取りをしてきた。「案件は増え始めている。今年度から検討するという企業が増えた」(柏原部長)というように、IT投資は改善傾向にあるとみており、09年から取り組んできた販売力の強化も後押しする形となりそうだ。課題は、SMBで進むM&Aや海外展開への対応である。
みずほ情報総研は、グループ力を活用するという点で、みずほフィナンシャルグループの一員として、グループ間で「親密な関係を築いている」(井上・上席課長)。グループ企業が抱える全国のユーザー企業を発掘していくことで、地方にすそ野を広げる。従来からグループ企業と取引のある企業との結びつきがあり、ユーザーの企業規模も年商5億円から1兆円まで幅広い。
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