中小企業向け業務ソフトウェア市場が変革期を迎えている。広大な未開拓市場にある商機をものにすべく、メーカー各社は矢継ぎ早に新施策を発表。競争が激化することは必至な状況だ。クラウドを巡る動きもにわかに活発化してきた。現在起きている大きなうねりとは――。
これから向かう先、三社三様
弥生
マイクロソフトと強力タッグ 弥生は、従業員20名以下の小規模法人・個人事業主の市場規模を、全420万社中の87%にあたる366万社とみている。同社はマイクロソフトと手を結ぶことにより、3年間で366万社の10%にあたる36万社のIT利用を促進する構えだ。「1社でできることには限界がある」。弥生の岡本浩一郎社長は、マイクロソフトとの協業の背景に中小企業の開拓を単独で行うことの難しさがあることを認める。
両社は、「Windows Azure」を基盤とする「弥生SaaS(仮称)」の開発で協力し、2010年中にベータ版をリリースし、一部の会計事務所とその顧客先に試験提供する構えだ。正式サービスの開始は2011年中を予定している。
SaaS提供については、多数のメーカーが続々と開始を表明しており、混戦必至の状況だ。「弥生SaaS(仮称)」の具体的なサービスモデルは不明だが、「全国に3600程度を数える会計事務所を経由しての販売は、大きな販路の一つとなる」(岡本社長)という。 弥生は、理美容や不動産、飲食など特定の業界向けビジネスを手がける企業との提携も模索している。例えば、サロンビジネスに強いビューティーガレージと共同で、理美容所の開業支援や啓発活動などを09年から手がけてきた。並行して、業界向けテンプレートを拡充しており、エンドユーザーが抱える業界別のニーズを捉えていこうとする弥生の戦略がうかがえる。
BSLシステム研究所
超低価格版の投入で攻勢 業務ソフト「かるがるできる」シリーズを市場に投入しているBSLシステム研究所の販売戦略は、シンプルだ。製品価格が低価格であることをユーザーにアピールし続けている。同社の製品の主要ユーザーは、会計事務所と顧問契約を結べないような中小企業なので、価格訴求の戦略をとっているのだ。
今年に入ってから3990円(税込)という超低価格帯製品の投入に踏み切った。この価格を実現するためのコスト削減の一環として、製品カタログを廃止した。パッケージをカタログ代わりとしたのだ。こうした措置により、回転率が従来よりも上がっているという。業務ソフトは、1万円未満を低価格帯とすれば、5000円未満は超低価格帯。「かるがるできる」シリーズは、8800円で提供していた時期があったが、「それでも高いと感じているユーザーが少なくなかった」(岡本真吏乃・経営企画室室長)ことが、超低価格版投入の背景にある。
好調な販売実績とは裏腹に、店頭市場は縮小傾向が続き、その分をネット市場の伸びが補っている。店頭販売を主力とする同社にとっては、無視できない状況だろう。これまでチャネル開拓に積極的な姿勢を示してこなかっただけに、今後大きな舵切りを迫られる可能性がある。
ソリマチ
青色申告ソフトでトップシェア目指す トップベンダーである弥生の背中を追うソリマチは、青色申告ソフトで弥生からシェアトップを奪うという強気の目標を掲げている。
反町秀樹社長は、「(09年度に)本数・金額ベースで売り上げが伸びたのは当社くらいではないか」と追撃に自信をみせる。とくに一部家電量販店で伸びが大きく、店頭販売が好調だ。
同社が独自に集計しているデータによれば、「『7シリーズ』の頃には1位ベンダーの半分くらいのシェアしかなかったものの、現在までにシェアは確実に向上している」という。目立って好調だったのが、09年12月から10年3月にかけて。120%台の成長率を維持し、金額・本数ベースで対前年比プラスを記録した。
ただ、ネットワーク製品を富士通のサーバー「PRIMERGY」とセットで販売するキャンペーンの実施や解説本の配布など、同社が展開してきた販促活動には他社と比べて大きな相異点はみられない。ある代理店の営業責任者は、「個人事業主のなかでも、古くからソリマチが主力としてきた農業の分野がまだまだ未開拓。得意分野によりいっそう力を入れるべきだ」と忠告する。強みを生かした施策の投下が求められるところだ。
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