大きな需要が眠るといわれる中堅・中小企業(SMB)市場。大企業に比べてITへの投資額は少ないが、企業数が膨大で、しかもIT化が遅れている。それゆえに、売り手が提案できる案件が多く、範囲も広いとみられる。このSMBマーケットに向けて、メーカー系列SIerの雄が強化施策を打ち出した。その企業とは、NECネクサソリューションズと富士通マーケティング(旧・富士通ビジネスシステム)。ほぼ同時期に同じ戦略を打ち出した両社は、いま──。
酷似する事業、同じ戦略 コンピュータ業界でライバル関係であり続けるNECと富士通。その競い合いは2社だけでなく、グループ企業でも存在する。その代表例であり、いま最も熱いのがシステムインテグレーション(SI)を手がけるNECネクサソリューションズ(NECネクサ)と、富士通マーケティング(FJM)だ。両社はともに親会社の100%出資子会社で、グループのSIビジネスをけん引する存在。親会社が開発・販売するサーバーとPCの販売台数もそれぞれトップで、事業内容は酷似する。
この2社はいま、需要が回復してきた中堅・中小企業(SMB)に事業領域を特化した戦略をとっている。その戦略を示した時期がほぼ同じであったことから、両社のライバル関係はさらに色濃くなった。
1年半ほど前の2009年5月21日、富士通は富士通ビジネスシステム(FJB、10年10月1日付で富士通マーケティング=FJMに社名変更)とともに、中堅企業向け組織をFJMに集約することを発表した。東京証券取引所第1部に上場していたFJBを完全子会社化する計画も、この時に公表している。
それから約1か月半後の7月6日、NECはNECネクサとともに、「NECグループの国内営業力の強化について」と題したリリースを発表。東京・大阪・名古屋地域の中堅企業向け事業の営業機能(組織)をNECネクサに集約する計画を明らかにした。つまり、両社は同時期に同じ戦略を打ち出したことになる。
発表時期はほぼ同じでも、現在に至るまでの道のりは異なる。NECネクサはNECやグループ企業との調整を進め、発表時に示したスケジュール通り、2009年10月1日に新組織でビジネスをスタートした。片やFJBは、遅れをとった。FJBが中堅企業に特化したSI会社に生まれ変わる時期は、発表当時は09年10月1日で、NECネクサと同じだった。しかし実際は、富士通製品を多く取り扱うITベンダー(富士通パートナー)からの反発にあったことで大幅に遅れ、FJBがFJMとして再スタートを切ったのは10年10月1日、ちょうど1年遅れたことになる。
構造改革を進め、中期目標も明示 先行したNECネクサに、計画よりも1年ずれ込んで誕生したFJM。では、両社はどのような構造改革を進めてきたのか。それぞれをみていこう。
NECネクサの戦略は非常にシンプルだ。簡単にいえば、東名阪地域にある中堅企業だけをターゲットに定め、それ以外はすべてNECとNECのパートナーに任せるというもの。NECとグループ企業に点在している東名阪地域の中堅企業向け営業部隊を取り込み、逆にそれ以外はNECなど、ほかのグループ企業に移管した。支社・支店も整理し、構造改革前に北海道、東北、岡山、中国、四国、熊本の6地域に設置していた支店は閉鎖し、今では名古屋と大阪に支社を置くだけに絞った。NECネクサの森川年一社長は、「大手のユーザー企業を抱えれば、どうしても大手にリソースを費やしてしまう。だからこそ、大手企業のユーザーとは決別して、今の体制を敷いた」と、選択と集中に至った理由を語っている。ターゲットとなる東名阪の中堅企業を7000社と試算して、このゾーンに徹底して攻め込む姿勢を鮮明にしたのだ。
NECネクサがすでに基幹システム分野で顧客として抱えているのは約600社、PCやサーバーなどNEC製品を販売した実績があるユーザー企業は約1600社で、ターゲット企業の約23%を占めることになる。森川社長は、4~5年後の長期目標として「基幹システムで1200社、NEC製品を活用するユーザー企業の比率を35%まで高める」としている。売上高目標は2000億円とした。
一方、FJMも中堅企業を攻める方針はNECネクサと変わらないが、少し複雑だ。大手企業を捨てることは計画していない。FJMはNECネクサと同様に、「中堅企業向けSIer」をこれまでも謳ってはいたが、実際は違っていて、大手企業の比率が大きかった。昨年度(09年度)の売上高のうち、FJMの中堅企業向け事業の売上高は、全体(1380億円)の4分1強となる310億円しかなかった。FJMの古川章社長は、「中堅企業だけに絞った組織体制をつくれば、外からみれば分かりやすくてシンプルかもしれない。しかし、大手企業の案件をこなしていなければ、中堅企業に先進的なITソリューションを提案することができない」と語り、大手企業向けビジネスを残す方針を示している。FJMが掲げた売上高目標は、15年度に中堅企業向けビジネスで2000億円、それ以外の大手企業や公共機関向け事業で1000億円の、合計3000億円だ。
では、この目標数値に向けた両社は、どのような具体策を手がけるのか。次ページから、いくつかの主要テーマに的を絞って両社の戦略を分析する。
[次のページ]