富士通ビジネスシステム(FJB)の古川章社長は、中国向け事業と中小企業向けビジネスを拡大する方針を明らかにした。2010年10月1日から社名を「株式会社富士通マーケティング(略称はFJM)」に変更し、公には「中堅企業向け事業に特化する」計画を示していたが、中小企業向けビジネスにも注力し、中堅企業向けビジネスでは国内だけでなく中国も視野に入れていることがわかった。新生FJMは、報道発表で大々的に謳った強化点だけではなく、別の領域でもビジネス拡大を狙っている。
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| 古川章社長は地方でのビジネスに精通しており、中堅企業向けビジネスにも強い。「パートナーの気持ちは分かっている」と語った |
FJBは、2010年10月1日からFJMとして中堅企業向けシステムインテグレーション(SI)やITサービス、商品販売に特化したITベンダーとして再スタートを切る。1年5か月ほど前、富士通とともにこの内容を共同発表した。
FJBは「中堅企業向けSI会社」を謳ってきたものの、実際は大企業向けビジネスのボリュームが大きく、中堅企業向け事業を拡大できずにいた。その状況をみて、富士通は中堅企業向けERPパッケージ「GLOVIA smart」の企画・開発部隊や、富士通のパートナーを支援する機能をFJBに移管。FJBを「真の中堅企業向けSIer」に生まれ変わらせ、FJMを中心とした布陣で、グループ全体の中堅企業向けビジネスを底上げしようと目論んでいるわけだ。10月1日の新会社発足に向けて、新組織の最終調整を進めている最中で、古川社長は、「大きく分けて、『直販』『パートナー支援』『商品企画・開発』で組織を区分する」としている。
しかし、中堅企業特化を謳いながらも、古川社長は中小企業向けビジネスも捨てない考えをもっている。「今、コードネームで開発を進めている段階の製品がある。これは従業員が、数人から数十人の中小企業に適したものだ」と話しており、近い将来に投入する計画を明らかにした。
その一方で、中堅企業向けビジネスでは、国内市場を中心に考えながらも、中長期的な観点では中国向けビジネスを伸ばそうとしている。日本企業が中国市場に進出するための支援サービスと、すでに中国に進出した日本企業のシステム開発・運用サービスを提供するつもりだ。
「FJBの顧客数は約4万社が存在するが、このうち中国に進出している企業は1400社」(古川社長)という。そのうえで、「製造業を中心に中堅クラスのユーザー企業でも、中国に製造・営業拠点を構えるケースが非常に増えてきた」と説明する。
市場環境は追い風で、富士通本体が構える中国現地法人は「大手企業で手いっぱい」(古川社長)な状況であることから、FJMにもビジネスチャンスがあるとみている。すでに子会社のFJBエージェントが、中国でビジネス展開したい日本企業向けに、中国のネットショッピングモール「銀聯在線商城日本館」への出展を支援するサービスを2010年8月に開始している。北京大学の関連企業である北京北大青鳥有限責任公司とは、人材紹介ビジネスで戦略提携を実現。今後、現地法人設立の可能性についても、古川社長は含みをもたせている。
中堅企業に特化したSIerに生まれ変わるFJB。それだけではなく、中小企業と中国マーケットという分野でも、虎視眈々とビジネスチャンスを探っている。
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中堅攻略のカギはパートナーとの連携
2009年5月21日に富士通と富士通ビジネスシステム(FJB)が発表した資料を再読すると、「平成21年(2009年)10月1日、FJBは、富士通グループの中堅市場向けテクノロジーソリューションを担う中核会社として生まれ変わります」と明記されている。注目すべきは、その日付だ。富士通マーケティング(FJM)の発足日は平成22年(2010年)10月1日。当初の計画よりも、ちょうど1年の遅れである。
遅れた最大の理由は、「富士通のパートナー企業との連携体制が思うように進まなかった」(前社長の鈴木國明会長、09年12月の発言)ことに尽きる。従来、富士通のパートナーは、富士通と協業して富士通製品を調達し、ソリューションビジネスを手がけていた。FJBもその1社だった。ただ、FJMの誕生により、富士通のパートナーは、富士通ではなく、FJMと協業体制を敷くことになる。つまり、富士通のパートナー企業にとってみれば、これまで「横並び」だったFJBが、FJMになったら「上」に配置されたわけだ。
古川章社長は、「パートナー企業からは、『これまでライバルだったのに、いきなり協業体制が築けるのか』という批判的意見があるのは確か。ただ、それについては地道に話し合いを続け、現段階ではある程度の合意が取れている。まだ不十分な部分もあるが、解決への近道はない。どのようにしたらパートナーにとって有利になるのかをそのつど考えていくしかないと思っている」と説明する。
新生FJMは直販も手がける。その一方で、パートナーがITソリューションビジネスを手がけやすいように、商品を提供し、販売支援も行う。そうなると、パートナー企業とのターゲット市場の棲み分けが重要になる。ひと言で「棲み分け」といっても、全国にさまざまなパートナーがいるなかで、地場地場に合わせて、それを実現するのは容易なことではない。この点をどう分かりやすく手がけられるかが、成否の焦点になるのは間違いない。(木村剛士)