テーマ 1 ERP
ともに親会社製ERPを主軸に
NECネクサのERP事業は、中堅戦略で大きく変わった。それ以前は、インフォべックが開発・販売するERP「GRANDIT」をメインに扱っており、その販売本数は国内トップクラスだ。それが、今回の戦略で転換された。NECがもつERP「EXPLANNER」を主軸に扱う方針を打ち出し、それを全社的に広める動きをみせた。
森川社長は、「『GRANDIT』を扱わないわけではない。ただ、親会社のERP(EXPLANNER)を今後はメインに販売していく」との方針を示している。そのうえで、「正直にいえば、これまで『EXPLANNER』は『GRANDIT』に比べて、機能や品質面で劣っていた部分があった。しかし、09年からNECと連携を取り、機能向上と品質向上のために従来以上に投資することを約束してもらっている。現在はそん色ないERPに仕上がっていると自負している」と、状況を語る。
NECネクサは、今年度上期(10年4~9月)で、「EXPLANNER」の受注件数を前半期(09年10月~10年3月)に比べて約2倍に増やしている。基幹系システムのユーザーを現状の2倍にあたる1200社に増やそうとしており、その主役製品として「EXPLANNER」に照準を合わせている。
FJMも、親会社である富士通がもつERP「GLOVIA/GLOVIA smart」をメインに扱う戦略を据えている。FJMには、「WebAS」という独自開発のERPがあるが、今後は「GLOVIA/GLOVIA smart」を中心に扱うことになる。ただ、NECネクサと違うのは、製品の開発部隊を富士通から取り込んだことだ。富士通の「GLOVIA/GLOVIA smart」の製品企画・開発人員138人をFJMに移管し、製販一体体制を敷いた。FJMの古川社長は、「メーカーとしての顔をもったことは非常に大きな強み。ユーザー企業から聞いた要望や不満を迅速に製品に反映できる」と説明している。
市場シェアでみるとユーザーが多いのは「GLOVIA/GLOVIA smart」だが、これまでNECの「EXPLANNER」は拡販にそれほど力が入れられていなかった部分もある。今後、NECネクサがどこまで迫れるかが注目点だ。
テーマ 2 SaaSビジネス
NECネクサ先行、パートナーがカギ
SaaSビジネスでは、NECネクサが先行している。10年2月に、NECと共同でSaaS型サービスを9月末までに50種類用意する計画を発表した。その言葉通り、50種類のSaaSサービスを揃えている。「EXPLANNER」をサービス化したメニューも用意しており、森川社長は「順次メニューを増やす」計画を明らかにしている。
NECネクサは販売体制として、直販で販売するケースと、NECとNECネクサが組織するパートナー企業を経由した販売を考えている。NECネクサは東名阪地域に位置する年商100億~500億円の中堅企業を担当し、パートナーには年商100億円未満の中小企業を任せることを目論んでいる。パートナーにこの50種類のSaaSを販売してもらえるように、10年4月1日付で、「パートナービジネス営業事業本部」を80人体制で組織したほか、NECとともにSaaS専用の支援制度パートナー支援プログラム「NEC SaaSパートナープログラム」もつくった。ユーザー企業の獲得目標として、NECが獲得する件数も含め、12年度(13年3月期)までに約3万5000社としている。「SaaSビジネスで大切なのはプロスペクト(見込み案件)の増加だ。とにかくプロスペクトを増やして、将来につなげたい」というのが森川社長の考えで、長期的な視点で成果に結びつけるつもりだ。
一方、後発のFJMは、新生FJMが誕生する直前の10年9月29日に「GLOVIA smart」の新版「GLOVIA smart きらら」を発表した。第一弾として会計サービスを用意し、10月から販売を始めた。今後も順次メニューを増やす予定で、場合によっては富士通パートナーのソフトもSaaS化してメニューに追加する。FJMもパートナーとの連携による拡販に力を入れており、「MAST(mid-Market Strategy Team)」という支援制度を用意した。SaaSに限った制度ではないが、これを軸にパートナーにメリットを与えて協業を加速する考えだ。「GLOVIA smart きらら」の販売目標は、13年度(14年3月期)までに1万社と定めている。
テーマ 3 海外市場
FJMが先行、上海に現地法人設立
FJMは、10年11月1日、子会社の富士通マーケティング・エージェント(旧・FJBエージェント)が上海市に現地法人を設立した。FJBエージェントはもともとIT人材の育成・派遣サービスを事業の中心に置いていたが、その傍らで中国市場向けビジネスも展開してきた。中国への進出を計画する日本企業向けに、現地での法人設立などの各種手続き代行や、会計・税務業務を請け負う事業のほか、ユーザー企業が展開しようとしているビジネスの中国での状況調査などを手がけている。SIerとしては異色のサービスを用意していたわけだ。それが古川章社長が就任したことで、さらに業容を拡大させようと動いている。
古川社長によれば、FJMは全国に4万社のユーザー企業を抱えているが、そのうち1400社がすでに中国に進出している。それも中堅規模のユーザー企業が中心だという。「富士通の中国法人は大手企業向けビジネスで手いっぱいだ。われわれの出番はある」と断言し、中国市場に強い意気込みを示している。今後は、従来の業務代行サービスだけでなく、SIやシステムの運用ビジネスを開始する予定で、長期的な成長分野に位置づけている。
一方、NECネクサは「正直にいって海外の取り組みは遅れていた」(森川社長)と認める。「これまでは、ユーザー企業から海外拠点のシステム構築や運用を任せたいとの要請を受けても、各事業部門に任せていた部分があった。それを改めて、全社的に海外でのニーズも取り込む方針を定め、能動的に提案することにした」と森川社長は説明している。
ただ、NECネクサはFJMのように現地法人を設立することは「まったく考えていない」(森川社長)。「NECやNECの中国現地法人との連携・協業によって推進する」戦略をとっているのが、FJMとは異なる点だ。
テーマ 4 社長の個性・方針
ともに構造改革に強い使命感
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NECネクサ 森川年一社長 |
NECネクサソリューションズの森川社長は1949年9月生まれで、FJMの古川社長は50年1月生まれ。年齢は1歳の差があるが、学年でいえば同級生にあたる。ともに親会社から籍を移した移籍組という点も共通している。NECネクサの森川社長は、営業畑を長く歩み、流通・サービス業や小売業向けビジネスが長い。第一印象は熱血漢。古川社長も営業畑出身で、直近では地域ビジネスを担当して、仙台や静岡など地方勤務経験も多く、地方の事情に詳しい。肩ひじ張らない気さくな雰囲気をもつ人物だ。
森川社長の方針で特筆すべきは、全国の中堅・中小企業向け事業に対する意識である。NECネクサは東名阪の中堅企業にターゲットを絞り、それ以外の地域にいる中堅・中小企業のビジネスはNECに任せる方針であるものの、森川社長は関わりをもっている。「中堅事業戦略室」という部署をつくるようにNECに依頼して、NECの役員を2名加え、NEC内に組織化している。NECが設置する全国の支社・支店も自ら回っており、NECネクサのビジネス領域を超えた活動にも積極的だ。「グループとしての成長」に強い情熱をもっている。
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FJM 古川章社長 |
一方、古川社長はパートナーとの連携を強く意識している。FJMの誕生が遅れた最大の要因は、パートナーとの連携体制が確立できていなかったことにある。これまで富士通と連携していたパートナーは、FJMの誕生でFJMとの連携をとるように求められることになった。これではパートナーの反発を受けるのは当然で、古川社長はその説得に奔走している。「地方での経験、パートナーとの連携はFJMに入る前から培ってきた私の強み。地味かもしれないが、着実に進める」という考えをもつ。時間をかけて着実に進めるこの方針こそが、古川社長の個性である。
Epilogue
NECネクサとFJMは、ともに中堅企業向けSIerを謳っていながらも、大手企業ばかりを相手にしてきたのが実際のところだ。それに気づいていながらも、両社はともに改善できずにいた。今回、親会社が主導し、大幅な構造改革に動いた。これまで、このような大幅なテコ入れ施策は断行されなかっただけに、両社がどのような結果を出すのかが大きなポイントとなる。単純に売上高や利益だけでなく、中堅・中小企業のユーザーをどの程度獲得するかが注目点である。