IT戦略の“道筋”をつける
ユーザー企業の多様なニーズに対応 NECの宇野東平・コンサルティング事業部(ITマネジメントグループ)グループマネージャーは「ユーザー企業の現場には抵抗勢力が存在する場合がある。『安くならない』『やることが増える』といった声が挙がって、どこまで外部に出せばよいのかという不安を抱えている」と、課題を指摘する。
こうした状況のなかで同社は、企業の情報システムへのクラウドサービスの適用について分析・提言するコンサルティングサービス「クラウド化クイックアセスメント」「クラウド化企画サービス」を、2010年7月から提供している。
「クラウド化クイックアセスメント」は、クラウドに適用可能な領域やメリット、推進計画案を最短1か月で提示するというもの。クラウドに関心はあるが、検討の方向性や対象が定まっていない中堅規模以上の企業に向けて訴求している。対象システムの領域は、基幹システムやコラボレーションなど、とくに限定していない。費用は約50万円から。
住宅・建材メーカーのほか、「自治体や業界再編に伴う金融機関からの引き合いが多い」(NECの宇野グループマネージャー)という。
一方、「クラウド化企画サービス」はもう一歩踏み込んだ内容で、事業・業務パターンの分類や既存の基幹システムの分析を実施し、クラウドのゴール設定やアプローチ方針、メリット、推進計画などを約2か月間で策定するもの。クラウド化の検討の方向性と検討対象が基幹業務にある程度定まっている企業向けだ。費用は1000万円からとなっている。
対象は大手・準大手企業で、「これ以上バージョンアップに伴う費用を支出したくないというユーザー企業が中心」(宇野グループマネージャー)で、業種別では製造業が目立つ。
日本IBMは、クラウドに興味をもつ企業向けに、まず入り口としてクラウド適合度簡易分析セッションを無償提供している。ユーザー企業の情報システムごとに業務面、ITインフラ面から簡単な分析を実施し、クラウドの適合度を判定する2週間から1か月程度の簡易セッションとなっている。中堅・中小企業(SMB)向けの展開に関しては、「一部のパートナーにノウハウを展開中」(日本IBMの三崎文敬・クラウド・コンピューティング事業クラウド事業企画部長事業企画担当)だという。いまだに、クラウドが普及しているとはいいがたいSMB市場の開拓を推し進める。
より踏み込んだ内容では、ユーザー企業のニーズに合わせたコンサルティングメニューを用意している。
クラウドサービス市場への参入による新ビジネスモデルの創出
クラウドビジネスを推進
グループ力を結集し、SaaS提供に着手
キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、キヤノングループの各種ソリューションをクラウドサービスとして提供するために、IT共通基盤を整備している。キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、2010年、グループのクラウドビジネスを推進するクラウドビジネスセンターをキヤノンITS内に新設しており、IT共通基盤の整備はこうした取り組みの一環である。
IT共通基盤は2011年1月に稼働を開始し、中小オフィス向けIT支援サービス「HOME」を基盤上で提供している。キヤノンITSの和田昌佳・取締役執行役員クラウドビジネスセンターセンター長は「プリンティングやイメージングなど、キヤノンが強みをもつ領域を中心にITサービスに打って出る。このほか、キヤノンあるいはキヤノンMJの社内ITの仕組みやキヤノンITSのソフト開発環境をクラウド提供していく」と説明する。2013年には、SaaSベンダーに向けたPaaSとしても提供していく方針である。
和田取締役がIT共通基盤の大きな特徴として挙げるのは、「一つはプロビジョニング。もう一つはグローバルなシングルサインオンと他のクラウドとのサービス連携」である。後者については「まだ完成していないが、今年の夏までには実現にこぎ着ける。キヤノンITSとキヤノン、セールスフォース・ドットコムのクラウドをあたかも一つのクラウドのようにみせるようにする」と意気込む。
IT共通基盤は、サーバー、ストレージ、ネットワークなど、全階層の仮想化技術を採用している。クラウド環境に仮想化されたITリソースを供給する階層に、ブレードサーバー「IBM BladeCenter」とストレージを仮想化する「IBM System Storage SAN Volume Controller」を導入した。
また、LANやサーバーとストレージを接続するSANなどの異なるネットワークを同じ物理ネットワーク上に統合できるFibre Channel over Ethernet(FCoE)技術を活用し、安価で高速なネットワーク環境を構築。これには、シスコシステムズのスイッチングシステム「Cisco Nexus7000/5000/4000シリーズ」を採用している。
ミドルウェアには、プロビジョニングを可能にする「IBM Tivoli Provisioning Manager」を採用。サービスバスの「WebSphere Enterprise Service Bus」やビジネスプロセス自動化エンジンの「WebSphere Process Server」でSOA基盤を構築した。
ウェブアプリケーションサーバーに「WebSphere Application Server」「WebSphere Portal Server」を採用。シングルサインオンを可能にするフェデレーション機能に「Tivoli Federated Identity Manager」を選択した。
グループ各社間が従来から提供しているASPについては次のように説明する。「将来的には統合していく。現時点ではハードウェアの残リースがあり、単に移行しても安価にならない。今後はキヤノンMJグループとして、安く速く簡単にサービスを立ち上げられるようにしていくことに注力する」(和田取締役)。アプリの運用管理については、PaaSの場合は「他社開発のアプリも運用する必要があり、ハードルが高い」(同)とみる。
和田取締役はクラウドサービスによって、中小企業の開拓や海外での再販、パートナービジネスの伸長などの商機が生まれるとみている。
とはいっても、「クラウドを真剣に売るベンダーがどれだけいるのか」と和田取締役が懸念を表明するように、拡販の仕組みづくりがこれからの課題である。
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