計画停電でDC稼働に暗雲 福島第一原子力発電所が甚大な被害を受けたことで、首都圏の電力不足が深刻な問題となった。電力不足を補うための首都圏の計画停電は、ITサービスの根幹を支えるデータセンター(DC)を直撃する。情報サービス産業協会(JISA)は、3月17日付でDCの自家発電機用燃料の優先供給を経済産業大臣宛てに要望。異例の対策を打った。
JISAでは、会員企業でDC事業を手がける主要34社を対象に、地震の影響についての調査を実施している。3月16日までに19社の回答があった。中身を見ると、「金融や医療、流通業などの重要システムが稼働しており、万一のシステム停止は経済や災害復興に多大な影響を及ぼす」ことや、自家発電機などのバックアップ電源によって「3日~1週間程度の稼働は可能だが、4月末まで計画停電が実施される場合、その燃料を確保できていない」といった声が上がった。DCのサービス継続の社会的な重要度や、燃料確保の切迫した状況を訴えるものだ。
大手SIerのなかには、「累計24時間は無給油で自家発電できるだけの燃料備蓄がある」というが、仮に計画停電によって毎日3時間ずつ発電機を動かすと、単純計算で8日で底を突くことになる。TISや伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、発電機稼働後は燃料供給会社との契約にもとづいて燃料の供給を受けられるとしているものの、裏を返せば、計画停電下にあるDCサービスの安定稼働は、発電機用の燃料をいかにスムーズに調達できるかという点にかかっているといえる。

震災情報サイト「sinsai.info」(http://www.sinsai.info/)。震災後、NTTデータの従業員が代表理事を務める「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン」が中心となって、震災に関わる情報に地理情報を付加して立ち上げた サポートサービスの足にも影響 情報システムの要となるサーバーやネットワーク機器は、ユーザーの事業所にも多数ある。こうした客先設置型のシステムを保守するサポートの足も大きく乱れた。JBCC-HDグループでは、とりわけ北関東以北の地区で、自動車のガソリンの入手が困難を極め、一部地域で電車やバスなどの公共交通機関を利用した。震災で仙台支店をやむなく一時休業した大塚商会では、エンジニアや営業、物流関連との連絡がとりにくくなるケースがみられた。
首都圏の計画停電時には、こうした客先設置型のシステムの維持が課題となる。
DC内にあるサーバーは、バックアップ電源による継続稼働が可能だが、客先設置型のサーバーは停電前に電源を落とし、障害発生を未然に防ぐ必要がある。だが実際には、情報システム専任者を十分に確保できない中小企業を多く抱えるSIerのなかには、コールセンターがつながりにくくなったり、交通機関の乱れによってSIerの保守担当者の到着が遅れたりするケースが相次いだ。
IT企業の被災地支援、続々 クラウド開放で情報支援 次第に明らかになってきた震源地地域の悲惨な状況から、多くのIT企業は自社の設備や拠点、従業員の状況の把握を急ぎながら、それと同時に支援策を打ち出し始めた。
まず、IT企業は復旧に役立ててもらうために自ら保有するITリソースを、一部無償で開放する動きが相次いだ。自前でのシステム運用が困難だったり、震災に関する情報発信のためのIT基盤が必要、あるいは計画停電で影響を受けているなどの被災企業や自治体に向けたものだ。
日本IBMは3月13日、海外にある米IBMのクラウドセンターを利用して、地方公共団体や非営利団体等を対象に、必要なサーバー資源を3か月間無償で提供する復興支援サービスを開始した。日本マイクロソフトも同様に、クラウドプラットフォーム「Windows Azure Platform」を90日間無償利用できるプランを3月14日に始めている。SIerでは、TISが企業向けPaaS・IaaSの「TIS Enterprise Ondemand Service」の6か月間の無償提供を3月17日に決めた。「何かできることはないかと考え、このサービスを活用してもらうことにした」(同社社員)。また、日本ユニシスは、自治体向けクラウドサービスを無償で利用できる「特別プログラム」を3月18日にスタートしている。自治体業務の復旧を支援したいという思いからだ。
このほか、インターネットイニシアティブ(IIJ)がクラウドサービス基盤「IIJ GIO」の期間限定での無償提供、コンテンツ配信ネットワークサービスなどを手がけるアカマイ・テクノロジーズは、福島県庁の情報発信の支援や、動画投稿サイト「ニコニコ動画」へのNHK総合番組のライブ配信をネットワークの側面で協力している。
クラウド基盤の提供だけでなく、自社ソフト・サービスを無償提供する動きも多くみられた。ネットジャパンは、情報システムに障害が発生するケースが多いとみて、データをバックアップ・リカバリするために必要ソフトを無償提供。また、ブイキューブは交通機関が通常通りに機能していない状況を受け、自社のウェブ会議システムを無償で提供することを決めている。
情報提供を活発化 また、阪神淡路大震災の時に比べて大きな効果を発揮したインターネットで、情報提供を活発化する動きもみられた。ウェザーニューズは、災害情報を掲載する「東日本大震災特設サイト」を開設。火災や建物破損状況などの情報を、PCやスマートフォン、Twitterを通してユーザーが送信・閲覧できるサービスで、被災地で何が起こっているかを解説している。一方、IIJは被災地区の自治体サイトのアクセスが集中し閲覧困難な状況を受け、正規のウェブサイトと同じコンテンツを掲載するミラーサイトを開設。被災者を助けた。
図4は、IT企業が打ち出した25件の支援策を一覧にしたものだ。しかし、ここに掲載した内容はほんの一部で、複数のIT企業が支援策を打ち出しており、数え上げればきりがない。各IT企業たちは、自社の製品・サービスを用意しながら被災地を救う取り組みを同時に進めている。
被災地に向けて応援部員派遣 製品・サービスの提供だけでなく、被災地に向けて復旧要員を送り込んだケースもある。NECフィールディングや日立電子サービスといった全国に拠点・人員を抱える保守サービス会社だ。この2社は被災地域で働く保守サービススタッフを助けようと、東京を中心に全国各地から応援部員を招集して、現地に派遣している。日立電子サービスは地震が発生した直後に対策本部を設置。約80人を送り込んだ。NECフィールディングは3月14日の段階で約30人を派遣している。NECフィールディングは盛岡市にある4事業所が壊滅的な被害を受けていることもあって、自社スタッフのサポート、そして顧客向けサービスの維持を急いだ。多くの拠点と人員を抱えるのが保守サービス会社の特徴。それだけに、全国のどこで災害が起きても影響を受けやすい。大震災の被害を全社を挙げてカバーしようとしたのだ。
過去最大の規模で多くの犠牲者を出した今回の巨大地震。行方不明者の数もまだ多く、到底「復興が始まった」とはいえる状況ではない。ただ、1日も早い復興のためにIT企業も動き出している。情報の重要性を改めて痛感させることになった今回の震災。IT企業が果たすべき役割は大きい。

日立電子サービスは、地震発生直後に東京本社に対策本部を立ち上げて、約80人のスタッフを全国各地から集め、バスで現地へ派遣した
このたびの東日本大震災で被災された方々に、心からお見舞いを申し上げますとともに、亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。BCNでは、全国のIT企業が推進する支援策情報をこれからも発信します(
http://biz.bcnranking.jp/in/tohokuEarthquake.html)。支援策を用意しているIT企業と、支援を求める被災者とをつなげるため、引き続き震災関連の情報を提供してまいります。(週刊BCN編集部)