クラウドコンピューティングの急速な普及やスマートフォンの法人利用の急増が、ネットワーク機器市場に新たな刺激を与えようとしている。クラウドのサービスプロバイダやデータセンター事業者に加え、ネットワークインフラへの投資を拡大しているモバイル通信キャリアなど、これまでに存在しなかったハイエンド市場が誕生し、拡大しつつある。ネットワーク機器ベンダーやネットワークインテグレータ(NIer)は、ハイエンド市場をいち早く開拓すべく、攻略戦略を推進している。
ハイエンド、いよいよ誕生
ベンダーは最上位機種を相次いで投入  |
フォーティネットジャパン 新免泰幸社長 |
米国やヨーロッパと比べて多少遅れながらも、今年に入って、日本でもネットワーク機器の本格的なハイエンド市場が生まれてきた──。
ハイエンド市場の誕生を受けて、ネットワーク機器のベンダーは事業戦略の見直しを行っている。今年3月、大手企業やモバイル通信キャリアに向けてUTM(統合脅威管理)の最上位機種を発売したフォーティネットジャパンの新免泰幸社長は、「これまで、このようなハイエンドモデルを受け入れるマーケットが日本にはなかった。しかし、最近はネットワーク市場の構造が大きく変化しているので、日本での発売に踏み切った」としている。UTMの最上位機種を商材として、ハイエンド市場での事業展開を本格化していく。
DCが重要ターゲットに ネットワーク機器のハイエンド市場は、大手企業、クラウドサービスプロバイダ(CSP)/データセンター(DC)事業者、モバイル通信キャリアの三つが主要ユーザーとなっている。なかでも、全国各地で急速に増えているDCでの需要の高まりが、ハイエンド市場のカンフル剤になっているといえそうだ。調査会社のIDC Japanは、2010年の国内DCネットワークインフラストラクチャ市場の規模を426億5500万円とみており、2009~14年の年間平均成長率は5.2%で、2014年には530億円に達すると予測。DCは、IT業界で横ばいで推移している分野が多いなかで、ベンダー/販社にとって重要性を増しているマーケットというわけだ。
パートナー戦略がカギ DCで需要が高い製品としては、IDC Japanがイーサネットスイッチ、レイヤー4─7スイッチやWANアプリケーションデリバリー(=ロードバランサー)などを挙げている。イーサネットソリューションを強みとしているブロケード コミュニケーションズ システムズは、昨年末に、イーサネット・ファブリックを実現するDC向けスイッチを投入するなど、DCを狙った事業展開に拍車をかけている。同社はDCを中心としたハイエンド市場を開拓することによって、「2013年をめどに売り上げを約3倍に拡大する」(青葉雅和社長)ことを目標に掲げている。
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ブロケードコミュニケーションズシステムズ 青葉雅和社長 |
青葉社長がハイエンド市場開拓のカギとみるのは、販売パートナーとの関係をこれまで以上に強くすることだ。今年の2月にイーサネット・ファブリック・アーキテクチャの設計や実装、メンテナンスのスキルをもつパートナー企業と、データセンター・ネットワーク分野に強いパートナー企業を認定するプログラムを開始し、新規パートナーの獲得に取り組んでいる。
基盤系の活発化 ネットワーク機器のハイエンド市場の今後の拡大に大きく貢献しそうなのが、クラウドコンピューティング、とくにプライベートクラウドの普及だ。「(企業が仮想化やプライベートクラウドへ移行して)基盤系が動いている」──。ハイエンド市場の開拓に力を入れている販社の三井情報は、クラウドサービスプロバイダや大手企業で、システムの標準化を目指したIT基盤構築のニーズが高まっているとみている。
次ページからは、ネットワーク機器ベンダーとNIerのハイエンド市場攻略戦略を追う。
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