適材適所の利用で“つなぐ”
事例:オロ→インタラクティブブレインズ
製品:SaaS型ERP「ZAC Enterprise」 従業員約30人のインタラクティブブレインズは、モバイルコンテンツの開発・配信やシステム事業を手がけており、いくつものプロジェクトを同時並行で展開している。そんな同社は、業務フローに多くの課題を抱えていた。IPO(株式公開)を目指して、公開に必須となる内部統制とプロジェクト収支管理ができるシステムを探すこととなった。
1999年に創業したオロは、OBCやOSKなどの製品との連携を謳うことで、ベンチャー企業としての弱点を補完。適材適所で、TCOを削減できるSaaS型ERP「ZAC Enterprise」を提案し、インタラクティブブレインズに納入した。2010年7月に入社したインタラクティブブレインズの塩崎將朗・管理本部長が社内業務フローの整備とあわせて、「ZAC」の導入を主導した。
従来の原価計算では、作業割合と勤務時間の整合性を手作業で確認していた。加えて勤怠管理では、出勤簿や時間外勤務管理表、遅刻・早退届、休暇表をExcelで個別に作成していたため、確認作業と給与計算に多くの手間と時間がかかっていた。発注書や請求書、検収書なども同様にExcelなどを駆使しており、業務部門の負担を余儀なくされていた。
それだけではなく、営業のステータス管理と損益管理の仕組みが整備されていないので、業績予想を立てることも難しかった。
会計システムと給与システムは、それぞれスタンドアロン版の「弥生会計」と「給与奉行」を導入しており、承認、ログ管理などの内部統制機能を欠いていた。「ワークフローについては『ガルーン』でそれらしいことは行っていたが、内部統制に耐えられるものではなかった」(オロの吉田奨・社長室マーケティング担当)。
当初インタラクティブブレインズは、NTTデータグループのエックスネットやオービック、ミロク情報サービスなどのパッケージを検討していたが、ダイレクトメールを通じて知った「ZAC」に魅力を感じたという。販売管理や購買管理、勤怠管理、経費管理、文書管理などの「ZAC」一式に、会計システムの「勘定奉行 VERP」へのリプレースを加えて、計800万円程度で導入できる“お得感”が他社に比べ大きかった。短期間で導入できる点も選定理由となった。
「ZAC」の料金体系は、ライセンス使用権の買取プランと月額料金プランの二つに分かれており、インタラクティブブレインズは前者を選択した。「長期間利用するなら買い取りのほうがメリットが大きい」(塩崎本部長)。オロの吉田マーケティング担当は「3年間利用すると買い取りのほうが安くなる仕組みにしている。ただし、現在は月額での支払いも増えており、買い取りプランのユーザー企業が損をしないかたちで、改定していく可能性がある」と説明する。
システム導入にあたり、ゴールのイメージを明確に定めた。請求書、発注書、検収書の発行手続きで0.4人月程度、原価計算、給与計算、勤怠管理で0.4人月程度、経費管理、支払処理で0.2人月程度、5営業日以内での月次決算の確定、損益見込の精度向上などである。
システムの導入開始は2010年8月。同年11月から稼働している。導入期間は2か月強で、翌年1月にはゴールに到達した。
SaaS利用のポイント
「ZAC」で入力した各種データは、システム内で仕訳データに変換し、「勘定奉行」にデータ連携。独自の「仕訳プログラム」の開発して、対応している。このほか、「給与奉行」など外部とのデータ連携もできるようになっている。インタラクティブブレインズのように、パッケージとの共存が一つの解となっている。
かゆいところに手が届く提案を行う
事例:クロスヴィジョンインターナショナル→KVH
製品:SaaS型勤怠管理システム「AttendancePro」  |
KVH 高橋賀子 人事総務本部給与・福利厚生 グループマネージャー |
データセンター事業を手がけるKVHは、紙ベースで勤務情報を管理していた。そんな同社は、担当者の負担の軽減や業務の効率化、ぺーパーレス化などを目指して、勤怠管理システムの導入を模索することとなった。顧客の80%強を外資系企業が占めるクロスヴィジョンインターナショナル(CVi)は、かゆいところに手が届き、TCOを削減できるシステムを提案して、受注を勝ち取った。
なお、人事管理システムについてはマイクロソフトのデータベースソフト「Access」で作り込んで利用している状況だ。「全従業員がかかわる勤怠管理システムとは異なり、人事管理システムは人事部の従業員だけが手を触れる」(KVHの高橋賀子・人事総務本部給与・福利厚生グループマネージャー)という事情があるからだ。まずは、全社的な理解を得やすくて、SaaS化が比較的容易な勤怠管理からクラウド利用に踏み切った。
KVHはグループ企業を含めて、東京と神奈川、大阪のほか、香港、上海、シンガポールに拠点を抱え、従業員は500人近くにのぼる。外国籍の社員が3割ほど在籍しており、システム導入の検討にあたっては英語対応がネックになっていた。
10社以上の製品を比較検討して、CViのSaaS型勤怠管理システム「AttendancePro」を選んだ。決め手の一つとなったのが、英語対応の柔軟性だった。「一部画面が英語表記になる製品はあったが、CViの『AttendancePro』はログイン画面の段階で、英語と日本語のいずれかを選択できる」(高橋マネージャー)。
このほかに、高橋マネージャーは「ウェブでスクロールする必要があるサービスが多いけれど、CViの勤怠管理システムはメイン機能を一画面で確認できることを便利だと感じた」と説明する。
オンプレミス型に比べて、金銭面で魅力を感じたことも大きかったという。初期費用は50万円ほどで、追加開発を合わせると300万円ほどになった。利用料は一人月額500円となっている。
追加開発した機能の一つに、「IT企業から頻繁に要望される」(CViの稲生滋・営業本部課長)という工数管理機能がある。「AttendancePro」で入力した詳細な作業時間の内訳を、工数管理システムで定義した各プロジェクト(作業内容)に入力。オンラインでの作業時間を把握したり明細情報をエクスポートしたりすることによって、作業時間の多角的な分析が容易にできるものとなっている。エクスポート機能を活用することで、ユーザー企業が利用するプロジェクトマネジメントシステムにデータを連携することも可能だ。現在、この工数管理機能は「AttendancePro」のオプションとして用意している。
キックオフミーティングは2009年7月。同年11月に通常勤務の従業員がパイロットユーザーとして利用を開始した。
SaaS利用のポイント
SaaSシステムの導入を進める際に留意しなければならないのが、現場の理解だ。社内には、既存の業務運用に慣れた反対勢力が存在するケースは少なくない。同社がとった行動は「まずは、スモールスタート」(KVHの高橋グループマネージャー)。できることから、比較的容易な領域からSaaSへの移行を進めている。
管理コストの低減を訴求する
事例:日東テクノブレーン→小売業
製品:SaaS型給与システム「PCA給与9V.2R7 for SaaS」 システム構築やデータエントリー、人材派遣などの事業を展開し、PCA製品の販売店でもある日東テクノブレーン(NTB)は、健康関連器具やスポーツ用品などを販売する小売業に向けて、PCAのSaaS型給与システム「PCA給与9V.2R7 for SaaS」と、エル・エス・アイジャパンの就業管理システム「たんぽぽ」を納入した。
これまで、NTBのデータソリューション部は、ユーザー企業から郵送されてきた個人勤務表のデータ入力を請け負っていた。給与計算業務は、すべてユーザー企業がこなし、システムの管理費などが負担になっていた。
「PCA給与」と「たんぽぽ」の導入で、NTBはデータ入力から給与明細書の配送にまで請負業務を拡大した。業務フローは、(1)データソリューション部が「たんぽぽ」にデータを取り込み、(2)「PCA給与」に連携。給与明細書を出力、(3)ユーザー企業の本部・店舗に配送する──という流れとなっている。
NTBの守屋いづみ・BPOソリューション部BPO営業課リーダーは、「納入先に対して、当初はWeb給与支給票サービスの『PayBrowser』も提案したが、高齢の方が利用することもあって、ブラウザ上での確認に難色を示されたので、紙の給与明細書を配送するというかたちに落ち着いた」という。
SaaS利用のポイント
自社の競争力に直接結びつかない定型業務をSaaS環境に移行し、人件費や管理コストを低減している。ユーザー企業の本部では、NTBと社会保険労務士事務所の「PCA給与」と連携できるようになっている。今後NTBは、PCAの製品リリースにあわせて、人事管理システムの提案も視野に入れている。