2011年7月1日、パソコン事業で異色の連合体が誕生した。レノボ(ヤン・ユアンチンCEO)とNEC(遠藤信博社長)による共同出資の新会社、Lenovo NEC Hondings B.V.がそれだ。中国と日本、それぞれの市場でNo.1の両社が組んだ衝撃。そのインパクトはどれほどのものなのか──。
異色のPC事業体が生まれた背景とは
新会社設立の狙いと両社の思惑 過去に例のない協業の形 2011年1月27日19時、東京・千代田区の帝国ホテルで開かれた緊急記者会見場には、関係者を含めればおよそ200人は集まっていただろう。レノボのヤン・ユアンチンCEOと、NECの遠藤信博社長の両トップが揃ったその会見に、IT業界の注目が集まった。パソコン事業で合弁会社を設立し、日本市場でともに成長すると宣言したのだから。

1月27日に開いた記者会見で握手するレノボのヤン・ユアンチンCEO(左)とNECの遠藤信博社長

新会社設立後に行った記者会見では、新会社の会長を務めるロードリック・ラピン氏と社長の高須英世氏が登壇して握手を交わした
共同展開を行うにあたり、両社が選んだ体制(図1)は過去に例のないものである。Lenovo NEC Holdings B.V.は、レノボが51%、NECが49%で共同出資した持ち株会社で、実ビジネスはその傘下に配置する事業会社が手がける。事業会社は、レノボ側が日本法人の「レノボ・ジャパン」で、NEC側はこの新体制に移行するために設立したパソコン専業会社の「NECパーソナルコンピュータ」である。NECパーソナルコンピュータは、NECの100%出資子会社であるNECパーソナルプロダクツのパソコン事業部門が分離・独立して設立された。Lenovo NEC Holdings B.V.の経営陣は、レノボとNECそれぞれから輩出し、会長はレノボ・ジャパン社長のロードリック・ラピン氏が兼務し、社長はNECパーソナルコンピュータ社長の高須英世氏が務める。
NECは、国内のパソコン市場でトップシェアを堅持するNo.1メーカー(図2)だ。そのNECが、一社単独での事業展開を捨てて、49%という出資比率を飲み、子会社が連結対象から外れるにもかかわらず、レノボとの協業に踏み切った背景には何があるのか。そして、レノボにはどんな思惑があるのか。
シェアとコスト削減が狙い レノボの狙いは明確で、パソコンの世界シェアトップを取ることだ。
レノボの世界シェアは2010年の実績で9.8%の第4位に位置する(米IDC調べ)。上位にいるトップの米ヒューレット・パッカード(HP)、2位の米デル、そして台湾のエイサーグループを抜いてトップに立つのがレノボの野望。NECは、海外事業から撤退しており、世界市場での存在感はかなり薄い。だが、半数以上の株式を握る新持ち株会社はレノボの子会社であり、NECのシェアを取り込むことができる。つまり、0.9ポイント(NECの世界シェア)の上乗せが可能になるわけだ。1月27日の会見で、レノボのユアンチンCEOは、「(今回の協業で)レノボは世界第2位(中国)と第3位(日本)のパソコン市場でNo.1になった」と、力強く語っている。
一方のNEC。「製品力・価格競争力の強化と、海外での販売拡大」とNECの遠藤社長は協業の狙いを語っているが、最も大きいのは、このなかでも価格競争力だろう。いうまでもなく、部品の共同調達によるコスト削減を意図しているはずだ。
パソコンは価格が下がったうえに差異化要素が見出しにくく、市場規模は変わらない。このマーケットで利益を出すのは、コストをどれだけ抑えるかにかかっている。とくに、部品を安価に調達できるかどうかが、コストを大きく左右する。部品を安く購入するためには、大量発注が欠かせない。大量発注するためには、売る力と広いマーケットにリーチしていることが不可欠だ。
NECは、日本ではトップメーカーとはいえ、世界市場で戦うレノボとの販売台数の差は歴然だ。米IDCの資料をみると、NECの出荷台数は、レノボのわずか9分の1程度(2010年実績)に過ぎない。この数値は、部品調達力の差ともいえる。お互いに使う共通部品を、新持ち株会社を通じてレノボと共同調達することができれば、NECのメリットは計り知れないほど大きくなる。
新会社設立という選択肢  |
レノボ ミルコ・ファン・ドゥイル シニア・バイスプレジデント |
では、なぜ今回のような体制をとったのか。
レノボは、各現地法人を束ねる統括部門を、新興国と成熟国で分けている。同じパソコンでも、伸びる地域と飽和した地域では販売戦略を変える必要があるからで、レノボ独特の仕組みだ。同社で成熟市場を担当するミルコ・ファン・ドゥイル・シニア・バイスプレジデントは、「成熟市場の国では、その国で強いパートナーと協業することが重要」と話す。そしてこう続けた。
「今回の体制は理想形だった。日本のメーカーでNo.1になることを目的とする場合、もしレノボが100%完全に買収する方式をとれば、法人・個人を問わず、ユーザーは『NECのパソコンはもう日本製ではなくなった』と思って、離れていくだろう。NECのブランド力はとても強いので、それを維持したかった。また、パソコン事業の専門会社を設立することで、パソコン事業に集中できる環境を築くことができるのもメリットだ。まさにわれわれが望んだスタイルだ」
NECとの協業を発表した直後、レノボはドイツ市場でも動いている。家電・パソコンメーカーの独メディオンの買収計画を明らかにした。ドイツでは買収という選択肢を採用したわけだ。成熟国でNo.1になるためには、その国で強いメーカーと、その国に合った形でタッグを組む。今回のNECとの新事業会社設立は、レノボが日本で勝つために選択した“日本向けの協業の理想形”だったのだろう。
では、「理想形」という今回の新体制は、本当に効果を発揮するのか。さまざまな角度から検証しよう。
[次のページ]