成長疑いなき分野
関連SI・製品は急成長か IT調査会社、急成長を予測 クラウドの普及は、IT調査会社も疑っていない。IDC Japanが2011年6月下旬に発表した国内クラウドサービス市場調査によると、11年の市場規模は、前年比45.6%増の660億円に到達すると予測している。同社は、「中期的にみても、急速に拡大する」とみており、10年~15年の年平均成長率(CAGR)は41.3%という驚異的な数字を示した。これが現実になれば、15年の市場規模は2557億円になる。前年比成長率は、12年をピークに下落するものの、あと3年半後の15年の前年比成長率も約30%と極めて高い。あくまで予測に過ぎないが、IT調査の大手企業が、ここまでの高い中期的な成長率を見込むとなれば、ITベンダーが期待するのも無理はない。
実はIDC Japanは、同様の調査レポートを今年3月にも発表している。東日本大震災の前だ。その時に比べて成長率や市場規模は上方修正されている。2015年の市場規模は3月発表時より600億円も上回っている。ユーザー企業に芽生えた災害対策の意識が、クラウド市場の成長を後押しするというわけだ。
当然、クラウドで利用されるソフトも伸びる。クラウド向けソフトの市場規模はサービスよりもはるかに大きい。クラウドシステムを構築するためのOSやミドルウェアがここに含まれ、15年には4962億円に到達する見込みだ(パブリックとプライベートクラウド向けの合算値)。そうなれば、クラウドシステム向けソフトが、国内のソフト市場全体の9.5%を占める勘定となる。
世界のIT市場をみても、クラウドの成長率は高い。IDC Japanの親会社である米IDCは、10~15年のCAGRを27.6%とみている。「今後の(IT産業)25年間の成長を促進する重要な要因」とまで言い切り、世界のクラウド市場の発展を疑っていない。
クラウドの先進事例も誕生 クラウドを生かしたSIの先進事例も生まれてきた。中堅SIerのシステムコンサルタントは、角川グループでネットサービスを提供するムビチケが始めた映画前売券販売サイト「ムビチケ」のシステムをクラウドを活用して構築した。
「ムビチケ」では、複数の映画配給会社が提供する映画の前売券を、パソコンやスマートフォンなどのデジタル端末で購入できる。同社によれば世界初のサービスという。ムビチケの高木文郎社長は、「実現するために障壁となっていたのが、情報システムだった」と話す。ムビチケのシステムには、アクセス数(システムへの負荷)が読みにくいという特徴がある。ヒット映画が出れば、大規模なコンピュータが必要になる。ただ、それを基準にしてシステムを構築すると、膨大な費用がかかって採算が合わない。コストを抑えながら、柔軟にコンピュータリソースを増やす仕組みが必要だった。そこで、システムコンサルタントは、日本マイクロソフトのクラウド基盤「Windows Azure」を活用したシステムを提案。コンペに勝った。
「配給会社など、多くのパートナー企業のシステムと連携しながら、膨大なデータを処理しなければならない。実現できるシステムを調べたが、海外を含めて皆無だった」と高木社長は、システムコンサルタントの提案に出会う前の状況を語っている。
システムコンサルタントの小谷達人常務取締役は、「われわれにとって、大規模なクラウドシステムを構築できた最初の事例。クラウドを活用しなければ、ムビチケの要求を満たすことはできなかっただろう。今回の成果を機に、クラウド関連の案件をもっと獲得していきたい」と自信を深め、クラウドがもたらす新たなビジネスチャンスを確信している。
クラウドは
中国市場にも打ってつけ
現地の商慣習に合っている!?  |
| 富士の中国法人で総裁を務める富室昌之氏。中国全土でのIT製品販売・SI事業を束ねるトップだ |
富士通の中国法人の総裁を務める富室昌之氏は、「クラウドは中国のユーザー企業にも向いているビジネスだ」とみている。その理由は日本では考えられないものだ。
「中国は代金の回収が非常に難しい。システムを構築し終わっても、いろいろと難癖をつけて代金を支払わないための言いがかりをつけてくる。従量課金制のクラウドであれば、『払わなければサービスを止めますよ』と言えるので、料金を支払ってもらえるように優位に立つことができる」。中国の商慣習のなかで成功するには、従量課金というビジネスモデルが適しているという見解だ。
また、ユーザーの立場から、中国でクラウドが受け入れられる可能性が高いと指摘する意見もある。カシオ計算機(上海)で、情報システム部門と物流管理部門の部長を務める佐藤偵之氏は、「急成長する中国では、業務や社員が一気に増え、すぐに新たなシステムを立ち上げたい場合がある。その逆で、始めたけれどすぐに撤退したいケースもある。そうした場合、システムを利用できるまで期間が短いことと、柔軟性が求められる。その要求レベルは、きっと日本以上に高いだろう。オンプレミス型システムでは間に合わない。すぐに始められ、すぐにやめられるクラウドは、今の中国には適している」と話している。
独特の商慣習をもっている中国は、日本以上にクラウドと相性がいいマーケットなのかもしれない。
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