[epilogue]
求められるIT人材の能力
クラウド時代を生き抜くために
クラウドは、チャンスを生むが、一方で変化も求める。国内のIT産業全体が、少なくても3~5年は停滞することが必至とみられるなかで、どのような力をもつITベンダーが勝ち残るのか。踊り場を迎えた業界で生き残るのは、どのようなスキルをもつ人材なのか。
「経営戦略に基づくIT戦略の立案」「ITによる業務改善の推進」「全社的なITガバナンスの強化」──。この3点は、ユーザー企業が自社の情報システム部門に求める役割だ(情報処理推進機構、IT人材白書2011)。これは、何もユーザー企業の情報システム部門だけに求められている能力ではない。「ユーザーの情報システム部門をサポートすることが役割のITベンダーにとっても、当然もっていなければならない力になる」(IPA担当者)。
これに加えて、比率は小さいものの、2年前に比べて2倍以上ポイントが伸びているのが、グローバル化への対応だ。経営戦略に沿ったIT戦略の立案などの高度な力を、ユーザー企業の経営幹部は、ITの技術者集団である情報システム部門に求め始めているのだ。それは、ITベンダーに各製品・サービスやソリューションの魅力を伝えるだけでなく、ユーザー企業の事業発展に沿った提案を用意しろ、と要求しているともいえる。
ユーザー企業が自社の情報システム部門の担当者に求める力としては、IT戦略策定力とそれを提案できる力、そして業務の理解力が上位に入っている。経営戦略と現場の業務状況を把握し、そのうえで戦略を立案・推進できる人材を現場担当者レベルでも欲していることだ。
IT人材白書には、必要なIT人材の確保・育成方法をたずねた回答結果もある。その項目の3位には「確保・育成しない」という回答が入った。これはITベンダーへのアウトソーシングを意味している。この項目は2年前に比べて約2倍に増えている。ユーザー企業は、自社の経営戦略を理解したうえで、ITの側面からそれをサポートしてくれるITベンダーを求めているのは間違いない。
記者の眼
IT以外の知識・スキルを
特集では、クラウドの普及によるインパクトのプラスとマイナスを浮き彫りにして、どのようなIT企業とIT人材が必要になるかを検証した。クラウド時代、そして今後5年のIT産業界で生き残っていくために必要とされるのは、先進的なITを語る人材やITベンダーではない。ユーザー企業の経営や業務を理解し、そのうえで最適なITシステムを提案できる企業・人が求められるのだ。
クラウドという先進的なIT技術を、いかにユーザー企業の経営と業務に貢献させるか。そのための力が、今、求められている。IT業界では使い古されたソリューションという言葉を本当に提供しているITベンダーがいったい何社あるのか。伸びの見込めないマーケットとなった日本のIT産業では、真の「問題解決力」をもつITベンダーが生き残るはずだ。クラウド時代は、本当のソリューションプロバイダを求められる時代ともいえる。