日本の情報サービス業は、グローバル化の成功なしに、持続可能な発展は見込めない。トップSIerは、今まさに中国・ASEANへの拠点づくりや、競争力を高めるための再編に取り組んでいる。5年後、SIerのあるべき姿を探った。(取材・文/安藤章司)
成長基盤をこの手に
国内外で改革を成し遂げる
情報サービス産業は、向こう5年で「再編」と「グローバルでの成長」の基礎づくりを同時に推し進めることになる見込みだ。国内の成熟市場に対応するための再編や、中国・ASEANを中心とするアジア新興国でのシェア拡大を成し遂げることで、日本の情報サービス産業は持続可能な成長基盤を手にすることができるからである。
ユーザーの投資に変化  |
野村総合研究所(NRI) 嶋本正社長 |
国内情報サービス市場は、2008年9月のリーマン・ショック以来、マイナス成長の基調が続いている。調査会社のガートナーの調べでは、2012年以降、ユーザー企業の支出ベースでは今後数年、全体として2%程度の伸びを予測している。しかし、国内SIerの売上高ベースでは厳しい状況が続くという声が根強い。
2011年3月11日、リーマン・ショックから3年目に入り、これから本格的な回復期に入ると期待が高まっていた矢先に起きた東日本大震災は、情報サービス業に大きな打撃を与えると懸念された。だが、発生から半年間、大手SIer層を中心に「リーマン・ショックのように受注が激減し、案件がストップするようなことはなかった」(大手SIer幹部)との観測が定着している。国内サプライチェーンは大きく乱れたが、東名阪のIT最大需要地への直接の被害が少なかったのが幸いした。「それでも業績や利益率が高まらないというのなら、原因はほかにある」と、野村総合研究所(NRI)の嶋本正社長は指摘する。
市場と売り上げの乖離 情報サービス産業協会(JISA)国際委員会・グローバルビジネス部会が今年5月に行った緊急提言では、ユーザー企業のIT投資が“どこで”行われるのかによって、ユーザー支出ベースの市場規模と、国内SIerの売上高に乖離がでてくると分析している。つまり、ユーザー企業が海外でIT投資を行い、なおかつこの投資を日本のSIerが受注できなければ、ユーザー企業のIT投資の総量が仮に増えたとしても、日本のSIerの取り分はむしろ減る危険性があるというのだ。
あるユーザー企業の2008年の海外でのIT投資比率は、全体の10%に過ぎなかったが、2011年は33%に上昇した。投資総額に大きな変化はないので、国内投資比率はかつての90%から67%に低下したことになる。これは、JISAが某ユーザー事例をもとに推計したもので、最も影響を受けやすい商材が“受託ソフト開発”だとみている。SAPやOracle EBSをはじめとする国際的な業務アプリケーションパッケージソフトをベースにしたシステム構築(SI)は堅調に推移する見込みだが、受託ソフト開発は「近い将来に半減するという予測さえも、一笑に付すことはできない」と、JISAの西島昭佳・グローバルビジネス部会長=NTTデータ製造ビジネス事業本部副事業本部長は警鐘を鳴らす。
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JISA 西島昭佳部会長 |
上図の「事例にみる国内外のIT投資比率の変化」は、JISAがユーザー支出ベースで、受託ソフト開発メインの「ITサービス」と、SAPなどグローバル標準パッケージソフトメインの「ソフトウェアプロダクト」を、国内外で分けて構成比を示したモデルだ。ざっくりとしたイメージだが、向こう10年以内に国内の受託ソフト開発が半減する可能性を示唆している。大きく伸びるのは海外でのSI案件であり、日本のSIerがこの部分を取り損ねると、ユーザー支出ベースの情報サービス市場規模が増えても、自社の売り上げは下がることになる。
受託メインでは伸びず SIerがやるべきことの一つ目は、グローバル標準とされるパッケージソフトをベースとしたSI体制をつくること。そして二つ目には、ユーザー企業の海外でのIT投資を着実に受注へ結びつけること。逆にいえば、受託ソフト開発をメインとして国内での受注だけにこだわると、ビジネスが伸びる可能性は限りなく低くなるといわざるを得ない。このため大手SIerは、日系ユーザー企業が多く進出する中国・ASEAN地区に現地法人を相次いで設立しており、今後は現地法人のビジネスをどれだけ伸ばすかで、将来の成長が大きく左右される。
次ページからは、有力SIerの個々の取り組みをレポートする。
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