SMBに受ける
製品・サービスとは 企業数は膨大なものの、単価が安いSMB。大企業とは異なるSMB特有の事情を考慮して、効率的な提案活動を行っていかなければならない。この先、SMBに受けられる製品・サービス、ソリューションとは何か。とくにSMBのニーズが高まりそうな分野を探った。
ハードウェア
ネットワーク機器
トラフィック量の増大に対応  |
ヤマハ 平野尚志担当部長 |
5年先をみると、SMBで需要が強まる可能性が高いハードウェアは、ルータやスイッチ、ロードバランサ(負荷分散装置)といったネットワーク機器だ。パソコンやサーバー以上にビジネスチャンスが眠っている。
例えば、ルータ。IDC Japanは、2011年の国内出荷台数を約350万台とみており、15年にはそれより100万台積み増した約450万台に到達すると予測している。ルータ以外にも、SMB市場でのスイッチやロードバランサの伸びを期待するレポートがある。
需要拡大を予測する背景には、モバイルネットワークのトラフィック量増大がある。SMBではここ数年、社内ネットワークに接続するノートPCの利用率が高くなっている。今後は、スマートフォンやタブレット端末といった新型端末が今以上に普及し、低価格化が進むはずだ。そうなれば、SMBにとっても導入しやすくなる。業務効率化のためにモバイル端末を活用することは、SMBにとっても必要不可欠になることは間違いない。
SMBで社内ネットワークにつながるデバイスがさらに多くなり、それに合わせてネットワークの増強が必要になる。大半のSMBは、不況が続くここ数年はIT投資を抑え、社内ネットワークの強化に本格的に取り組んでこなかった。だが、モバイル端末の社内利用が増えていけば、ネットワーク機器を最新のものに置き換える必要が出てくる。それは、ITベンダーにとってネットワーク機器の買い増し・買い替えが見込めるということにつながる。
SMB向けのルータ開発・販売が得意なヤマハは、「来年から、SMBでネットワーク機器の置き換え需要が活発になる」(平野尚志・サウンドネットワーク事業部技術開発部企画・知財グループ担当課長)と確信している。
ハードウェア
ストレージ
データ量の増大と災害対策のために ハードウェアでもう一つ需要が高まりそうな製品が、ストレージだ。ファイルのデータ数の増加や、ファイルのデータ容量自体が増えるのはSMBも大企業と同じ。ストレージに対する需要が、SMBでも強まる可能性は十分にある。
IDC Japanが従業員数1000人未満のSMBに行った調査では、東日本大震災の影響でストレージを購入する機運が高まっていることがわかった。ストレージを購入する理由としては、災害対策を挙げる企業が増え、データ量の増大に対応するためだけでなく、SMBでもBCP(事業継続計画)やDR(災害対策)の観点から、ストレージの購入を推進する傾向が出ている。
その需要を見込み、ITベンダーも動き出している。ストレージ最大手のEMCジャパンは、2011年2月、「EMC VNXファミリ」という新製品を発表した。「高機能で高額、大手企業向けのEMC製品」というイメージを払拭して、SMBをメインターゲットに置いた戦略製品だ。使いやすさと低価格が売りで、エントリーモデルは100万円を切る。パートナー制度も刷新し、ディストリビュータやSMBのユーザーを多く抱えるITベンダーも取り扱いやすいように体制を整えた。
日立製作所も同じ動きをみせている。9月9日、日立はファイルストレージ「Hitachi Virtual File Platform 50(VFP 50)」を発売した。NAS製品で、最も低価格の機種では、EMCジャパンと同様に100万円を切る。日立は従来、ストレージ分野ではSANと呼ばれる大企業向け製品を得意にして、このエリアを積極的に攻めていた。NASは日立も認める手薄だった分野。それを緻密な市場調査で有望と判断し、一気に攻め込む。目標のシェアは現在の約8倍とかなり強気で、力が入っている証拠だ。
EMCジャパン、日立というストレージの雄がSMBに本腰を入れ始めたことは、ユーザーのニーズを肌で感じている証。需要が高まることを裏づけている。
ソフトウェア
タレントマネジメント
大企業のニーズがSMBに派生  |
ガートナー ジャパン 本好宏次ディレクター |
大企業に受け入れられ、今後その需要がSMBにも広がる可能性があるのが、タレントマネジメントと呼ぶソリューションだ。タレントマネジメントシステムは、ワークフォース・プランニングや人材獲得、従業員パフォーマンス管理(EPM)、キャリア開発、後継者管理、学習・報酬管理などを包含するアプリケーションの統合スイートである。
国内の企業にとっては、内需の縮小をカバーするためのグローバル展開の強化が喫緊の課題となっている。競争激化や終身雇用制度の崩壊に対応することも迫られている。そのため、企業は書類や文書管理ソフト、地域ごとの個別システムなどを利用してきた人事プロセスをさらに自動化するタレントマネジメントの仕組みに関心を寄せ始めている。
ベンダーは、サクセスファクターズジャパンをはじめ、2010年に日本市場に参入したシルクロードテクノロジーやサムトータル・シテムズ、サバ・ソフトウェアなど、外資系アプリケーションベンダーが勢力を拡大している。
一方、電通国際情報サービスや東芝ソリューションといった国内ベンダーも、タレントマネジメントに注目し、負けじと製品強化に取り組み始めている。
企業の導入事例も増えてきた。NECとDC事業者のKVHは、サクセスファクターズジャパンが提供するタレントマネジメントソリューション「Business Execution Software」を導入。このほか、ローソンやみずほ銀行などにも提供実績がある。
現在は、大手企業の導入事例が目立つが、ベンダー各社はSMBをも対象として販売活動を展開している。プライスウォーターハウスクーパース(PWC)は、現状、従業員140人の中小企業もユーザーに抱えている。「SMBが大企業の動向をみて追随する動きがある」(ガートナー ジャパンの本好宏次・リサーチ部門エンタープライズ・アプリケーションリサーチディレクター)という見方があるように、今後、タレントマネジメントシステムがSMBにとって有力な選択肢となる可能性は十分にある。
これは、国内SIerなどにとっては朗報だ。例えばサムトータル・システムズは、旧オフコンディーラーのほか、地方のベンダーなどに“売れる新商材”として訴求していく方針を掲げており、新たな商機と捉えて期待を寄せている。
サービス
運用代行
管理者不在をサポート サービス分野でSMBにとくに受け入れられる可能性が高いのが、運用サービスだ。
SMBは大企業よりも情報システムの運用担当者が不足している傾向がある。だが、仮想化技術を取り入れるなどして、複雑化した情報システムを運用するには、従来以上に高いスキルが必要になる。IT管理者が乏しいにもかかわらず、システムの運用負荷が大きいとなれば、スタッフを雇わずに、ITベンダーに任せようとする機運がユーザー企業のなかで強まる。今後はこうした傾向がより一層高くなるだろう。
保守・運用サービスを提供する東芝ITサービスは、SMBをターゲットに置いた仮想システムの運用サービス「V’s-care」を09年に発売した。自社の専用施設から、リモートで顧客の仮想サーバーを24時間365日体制で管理・監視し、万が一、障害が発生した場合は、自社の全国サービス網からオンサイトで問題を解決する。このサービスを企画した井手弘・仮想化推進プロジェクト部長は、「サービス開始から予想以上の問い合わせがあった。狙い通りSMBユーザーからの引き合いが多い」と好感触を得ている。
こうした運用サービスをSMBに売り込もうとする動きは少なくない。東芝ITサービスのような保守サービス会社が、とくに力を入れている。低迷が続くハードの保守サービスに代わるビジネスとして、遠隔地から情報システムを監視し、トラブル発生時にはそれを解決する運用サービスに力を入れている。複雑な情報システムの面倒を見切れなくなったユーザー企業の少人数の情報システム担当者が、それを受け入れているわけだ。
システムの複雑化は今後も進むはず。運用という生産性の低い仕事から解放され、社内の情報システム担当者は、新規IT投資の企画立案・推進に集中するという動きが、SMBでも活発になるはずだ。SMBに適した価格とメニューでサービスを体系化すれば、十分に可能性がある分野だ。
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