近年、競争が激しさを増している統合基幹業務システム(ERP)業界。システムインテグレータ(SIer)は、企業の国際財務報告基準への対応やグローバル進出に伴うERP導入に商機を見出している。また、新しい視点で事業拡大に乗り出すSIerもみられるようになってきた。
変貌するERP業界
SIerは生き残りをかけて勝負
統合基幹業務システム(ERP)業界が変わろうとしている。競争が激しさを増すなか、ベンダーはグローバル化やクラウドサービスの展開、新技術の採用などを迫られ、変化への対応力を問われているのだ。
グローバル対応は必然 「成熟するといわれて久しいが、なかなか成熟しない」。アビームコンサルティングの中野洋輔・執行役員プリンシパルプロセス&テクノロジー事業部FMCセクターリーダーISセクターリーダーIFRS Initiative 統括責任者は、ERP業界が置かれている現状をこう表現する。ここ10年で、大企業を中心にERPの導入が進んだ。しかし、スクラッチ開発と比べて低価格で済むという安易な考えでERPパッケージを導入した企業が少なくなかったため、経営システムとして十分に活用できていなかったという。ERP研究推進フォーラムによれば、2011年時点で、ERPを導入済みの企業は51%を超えており、大企業はやや頭打ちの状況にあって、すでに導入済みのERPに対して不満を抱えている企業は少なくない。
稼働中のERPに満足していない国内企業は、そのERPの見直しあるいは適用範囲の拡大の作業に入っている。見直しのきっかけはさまざまだが、ユーザー企業のIT投資に対する意欲を消極姿勢と積極姿勢に分けてみるとわかりやすい。
大手SIerであるみずほ情報総研の高部正人・法人ソリューション第3部上席課長が指摘するのは“消極姿勢”組である。「国際財務報告基準(IFRS)対応を受けて、ホストやオフコンのユーザーのリプレース需要が動き出している。従来は、再リースやハード更改などによってアプリケーションをそのまま使おうとして延命措置をとってきたが、それが限界を迎えている」。こんな指摘もある。日本ユニシスの森隆大朗・サービス企画部業務ソリューション企画室ソリューションチーフスペシャリストは、「グローバルERPを導入したものの、十分に活用できておらず、国産の小ぶりなパッケージにダウンサイジングする動きがある」と話す。さらには、ERPに不満を抱いたままハードウェアのサポート切れを迎え、仕方なくERPの刷新に着手する動きもみられる。
一方、“積極姿勢”組は、海外子会社や事業所の設立に伴うシステムのロールアウトやグローバルレベルでのガバナンス強化、競争力の向上に戦略的に取り組む企業を指す。SIerの多くは、こうした企業が抱えるニーズに応えるために海外SIerとの業務提携や拠点の設置、事業部の新設などを急いでいる。大手製造業をはじめとする企業のロールアウト案件を抱えてきた三菱商事の子会社であるアイ・ティ・フロンティアは、海外事業の強化を進めようとしている。
クラウド、仮想化対応を急ぐ 最近は、クラウドサービスの利用を検討する企業が珍しくなくなってきており、リプレースのタイミングでパッケージからクラウド、あるいはハイブリッドクラウドに転換する流れが徐々に進む可能性がある。パブリッククラウドやプライベートクラウド、業界や市町村間の共同クラウド、どの部分をクラウド化するかなどについてはいくつかの選択肢があり、ユーザーの置かれている状況によって、利用シーンは異なってくる。
主要なSIerでクラウド事業に取り組んでいないところはないだろう。日本ユニシスは、「U-Cloud」というブランドのクラウドサービスをもっている。「U-Cloud IaaS(ICTホスティングサービス)」を核に、他社との差異化を図る。
日本ユニシスの森ソリューションスペシャリストは、「これまでは会計や販売など、各モジュールベースでの導入が多かったが、ビジネスインテリジェンスを組み込んだり部分的にクラウド化したりして、ベンダーはこれらを付加価値として提供するようになってきている」と動向を分析し、多種多様なサービスをパッケージングした「疑似SaaS」の必要性を説く。
ITホールディングスグループのTISの渡辺直輝・ITソリューションサービス本部ITソリューションサービス事業部ITソリューションサービス第一部担当部長も同様の立場をとる。既存のSIとクラウドを組み合わてユーザー企業に提供する「サービスインテグレータとしての役割が高まっている」とみる。「例えば会計はパッケージで、資産管理はSaaSでシームレスに連携するといったことだ」。
日本マイクロソフトとタッグを組んだ富士通・富士通マーケティング(FJM)は、ひと味違った施策を打ち出している。「Microsoft Windows Server 2008 R2 Hyper-V(Hyper-V)」の構成済みサーバーに、Hyper-V構成済みアプリーケーションを組み込んで、FJMと販売パートナー経由で提供している。“全部入り”のアプライアンス製品「AZBOX」で、中堅・中小企業(SMB)市場の開拓を狙っている。グループウェアやERPをアプリとして用意する。
ERP業界を取り巻く市場環境は決して良好ではない。プレーヤーが多いソリューションでは、価格競争が激化している。「ユーザーにIT投資意欲は出てきたものの、見る目が厳しくなった」(みずほ情報総研の高部課長)。従来と同じやり方では淘汰されてしまう。だからこそ、中長期的な視点に立って生き残りに向けた施策を立案することが求められている。インメモリデータベースやソーシャルネットワークなどの最新動向にもアンテナを張っておく必要がある。
次ページからは、海外進出やクラウド、新技術への対応、導入ノウハウの活用などでサービスメニューの拡充に乗り出すSIer各社の取り組みをレポートする。
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