「CMSなんてウェブ制作会社が使うツール。SIには関係ない」──。そう思っているSIerが多いかもしれない。しかし、けっして無関係とはいえない。むしろビジネスチャンスが眠っているとみたほうがいい。ウェブサイトは、ユーザー企業にとって必要不可欠な情報開示・販促ツール。それが業務システムとつながる時代が来る。そこにビジネスの芽が生まれる。(取材・文/木村剛士)
市場規模は3倍弱に CMSは「Contents Management System」の略称で、コンテンツを管理するためのソフトや情報システム全般を指す。ただ、最近は、ウェブサイトを効率的に更新・運用するためのツールを指す言葉として使われることが多い。
ウェブサイトを管理・更新する場合、コンテンツの定義とレイアウトなどを設定するには、「HTML」や「CSS」といった特別なウェブの知識が必要になる。そのため、ユーザー企業はそれらの知識やスキルをもつ担当者を雇ったり、ウェブサイト制作会社に依頼して、コンテンツを更新したりする。
CMSは、このかたちを変える。ウェブの知識やスキルがなくても、ドラッグ&ドロップなどのわかりやすい操作で、コンテンツを新しく掲載したり、更新したりできる。コストを削減でき、コンテンツの更新頻度とスピードが増す。ウェブサイトは、いうまでもなく企業にとって最強の情報発信ツールで、それを重視する企業は増えている。投じる資金も増加し、CMSに関心を抱くユーザー企業も増えるわけだ。
調査会社の富士キメラ総研が発表したレポート「2010 パッケージソリューション・マーケティング便覧」によると、国内のCMSパッケージソフト市場は、09年度で19億円。他のパッケージソフトに比べて規模はかなり小さい。だが、14年度には09年度比2.7倍の52億円に増加するとみており、伸び率は非常に高い。このレポートで、同社がCMSとともに注目市場に設定した「仮想化ソフト」「EIP(エンタープライズ・インフォメーション・ポータル)」「BI(ビジネス・インテリジェンス)」のなかでも、CMSの成長率はトップだ。
富士キメラ総研は、今後のCMS市場について「ウェブコンテンツが増大することで、CMSの導入を検討する企業は増える。ウェブサイトを構築する場合、その約90%は手組み開発(一からシステムをつくる手法)。だが、CMSを使えば、構築と運用の両方にかかる手間と費用を削減でき、この点に着目しているユーザー企業が増えている」と成長を疑っていない。

OSSのCMSは十数種類あり、ウェブサイトから簡単に入手できる
基幹システムと連携 CMSは、国内製もあれば国外製もある。オープンソースソフト(OSS)もあれば、有償のものもある。大規模システムに適しているものだったり、低価格で小さなシステムに適合するものだったりと、特徴もさまざま。有償ソフトのメーカーは、CMS専門会社があれば、大手のソフト会社もあり、多様だ。
これらのツールを活用したウェブサイト開発が伸びる可能性が高いが、SIerにとって、CMSは縁遠い存在と感じる人が多いかもしれない。基幹システムの構築と業務アプリケーションの開発を得意にしているSIerにとって、ウェブサイトの開発は、求められる技術が違う。また、アイ・エム・ジェイ(IMJ)やキノトロープといったウェブサイト制作を専門に扱う企業も存在する。そうした事情もあって、これまでウェブサイト開発を扱ってきていないSIerが少なくない。
だが、今後はSIerにとっても「関係ない」とは言いきれない。それは、ウェブコンテンツやウェブサイトの重要性が従来以上に高まり、「基幹系システムとつながるニーズが強まる」(ECサイトの構築に強いソフトクリエイトの林宗治社長)という可能性があるからだ。
例えば、エンドユーザーのアクセスが特定の製品に集中していることがわかって、販売数の増加を見込んで追加発注するようなケースを考えてみよう。このような場合にCMSと生産・販売管理システムが連動していれば、迅速に発注手配ができる。別の例でいえば、ソーシャルメディアやエンドユーザーからの問い合わせ窓口に苦情が多い商品・サービスがあったとする。そうした場合、SFA(営業支援)やCRM(顧客情報管理)システムにその情報を流し、顧客対応に役立てる──こうした使い方が可能になるのだ。
ECサイトでみれば、もっとわかりやすい。エンドユーザーが、ECサイトで購入した商品と顧客の情報を、販売管理、配送管理、CRMと連動させ、滞りなく商品を届けられたかのチェックに利用して、今後の販促に役立てることも可能になる。顧客との接点としての存在が高まれば高まるほど、他のシステムと連動させたいと考えるのは当然。そこにSIerのビジネスが生まれる。
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