協業進むCMSメーカーとSIer CMSと業務システムの連携が、新たな価値をユーザー企業に与える可能性が大きいなか、すでにCMSメーカーとSIerが手を組んだ例が現れている。CMSを担ぐSIerや、SIとCMSの両方をもつことを強みに実績を積み上げているITベンダーが登場しているのだ。ウェブ制作会社のなかにも、SIerとの協業の必要性を感じる企業が出てきた。
CMSで案件を大規模化  |
ジゾン 神野純孝代表取締役 兼CEO |
CMS「HeartCore」を開発・販売するジゾン(神野純孝代表取締役兼CEO)。SEO(サーチエンジン最適化)対策を施さなくても、関連するキーワードで検索された時、「HeartCore」のユーザーのウェブサイトを検索結果ページの上位に表示する特徴をもつ。それが高く評価され、今、伸び盛りだ。顧客数は、2011年9月末時点で165社・団体まで増え、今年度末までには250社・団体への到達を見込んでいる。
ジゾンの主な販売スタイルは間接販売で、パートナーを経由してユーザーに販売する方式をとる。ユニークなのは、パートナーに名を連ねる企業の顔ぶれだ。キノトロープなどのウェブ制作会社だけでなく、日立システムズやNTTデータ、日本システムウェア(NSW)、電算など、SIerの名前も多い。業務システム開発に強いSIerでも、「HeartCore」を活用していることがわかる。神野代表取締役兼CEOは、「基幹システムと連携させて、大規模なSIプロジェクトを動かしているパートナーもいる」と、SIerがCMSをSI案件の武器にしているケースを紹介する。
同社のパートナーの1社である日立システムズは、日立電子サービスと日立情報システムズが10月1日に経営統合して誕生したが、旧・日立情報システムズは数年前から「HeartCore」を活用したビジネスを展開。以前から、「HeartCore」の有力販社だった。旧・日立情報システムズは、中堅・中小企業(SMB)向けにSIを得意にする強みを生かして、バックオフィスシステムとの連携をうたっている。
SIとECの融合を図るベンダー  |
ソフトクリエイト 林宗治社長 |
CMS「TeamSite」をもつオートノミーも、多くのSIerを販社として抱えている。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)やSCSK(旧・住商情報システム)、三菱電機インフォメーションシステムズなどが販売している。
オートノミーは、今年9月にマーケティングコミュニケーション基盤と称する「Autonomy Multi Channel Optimization(Autonomy MCO)」を発表。これは、ウェブサイトのアクセス状況だけでなく、メールマガジンのクリック率や出稿した広告に対する評価のほか、Twitterなどのソーシャルメディア上での自社商品・サービスの評判など、ユーザー企業が手がけた複数のマーケティング施策の効果を分析するソリューションだ。CMSからもう一歩先に進み、マーケティング基盤システムに脱皮させようとしているわけだ。
CMSメーカーとSIerが協業する動きがある一方で、CMSをもちながらSIも手がける異色のITベンダーも存在する。それが、ソフトクリエイトだ。同社は、CMS「ContentsMeiSter」とECサイト構築パッケージの「ecbeing」を自社開発・販売しながら、基幹系システムの構築も手がける力がある。「SI力、バックオフィス系システムの開発力も見込んで当社を選んでくれるユーザー企業もいる」と林宗治社長は説明。SIとCMS、そしてEC構築パッケージソフトを持つことが競争力の向上につながっていることを実感している。林社長は「今後はBtoB系企業でもECを手がけるケースが増えるはず。そうなれば、基幹システムとの連携はより重要になる。当社の強みをさらに生かせる」と展望を語る。
また、ウェブ制作会社のなかには、SIerとの連携の必要性を感じているところもある。かつて「楽天市場」の構築を手がけたことがあるウェブ制作大手のアイ・エム・ジェイ(IMJ)の廣田武仁社長は、「企業の情報システム部門とウェブマーケティング部門が連携する必要性は今後高まってくるはずで、そうなるとバックオフィス系システムとウェブサイトが連携することも当然出てくるだろう。その時に、IMJとSIerが協業する可能性がある。ウェブマーケティングに関連するシステム構築・運用はIMJが、バックオフィス系のシステム開発はSIerが手がけるといったコラボレーションが今後出てくるかもしれない」とみる。
ウェブサイトと業務システムの連携の必要性を感じて、動き始めているITベンダーがすでにいるのだ。
商談のポイントは提案先 ウェブサイトと業務システムを連動させるという提案はわかりやすいが、実は工夫が必要なポイントがある。それが提案先だ。業務システムは情報システム部門が提案先だと判断できるが、ウェブサイトの場合は、「ウェブ」をどれほど重視するかで運用を手がける部門が違ってくる。その見極めが、ビジネスチャンスをつかめるかどうかを決定づける。
重要度が増すウェブサイトだが、ユーザー企業によってその運用責任を負っている部門が異なるというのが、見逃せないポイントだ。運用するウェブサイトの性質や重視度によって、運用する部門も人員数にも違いがある。
例えば、最も重視している企業の場合は、ウェブサイトの企画・運用を専門に手がける部門を設けている。関係部門と調整し、掲載するコンテンツを収集・精査したうえで掲載する。このような企業は、ウェブサイトの技術に明るいスタッフもいて、自ら率先して企画できるメンバーが揃っている。したがって、提案内容には高度なものが求められるが、ターゲットは明確で、ある程度の予算を設定している場合が多い。
一方、ウェブサイトを軽視している企業では、総務部門が兼務するケースが少なくない。「会社案内や事業内容、簡単な製品・サービスを掲載しているだけという印象を与えるウェブサイトは、「ウェブを軽くみて片手間で総務部門が兼務しているケースが多い」(ウェブ制作会社の担当者)。この場合は、ウェブに対する知識が乏しくて、どのような要件を満たせばいいのかが理解されておらず、後々に問題が起きるパターンが少なくない。さらに、ウェブサイトの構築・改善に費やすコストも乏しい。
また、大企業で多いのが、各事業部門が個別に独自のウェブサイトを構築・運用しているケースだ。事業部門の予算内で、独自に制作会社に依頼して構築する。同じ企業でも違ったデザイントーンのサイトが乱立したり、URLがまったく違うウェブサイトをもつ企業は、こうしたタイプが多い。ウェブの知識が高いスタッフは少ないが、ウェブへの意識が高いスタッフがいればまとまった費用を投じる。
SIerがウェブサイトと業務システムをともに開発する場合、情報システム部門に加えて、ユーザー企業内のウェブサイトの運用部門はどこで、誰がキーマンなのかを把握することが欠かせない。
誰に提案すべきか──。ウェブサイト制作を始める場合、CMS選びとともにそこが極めて重要な要素になる。
スマートフォンが差異化にも ウェブサイトの開発を始める場合、大きな差異化要素になるのがスマートフォンだ。業務端末としてスマートフォンを活用する機運は高まっており、ユーザー企業もスマートフォン対応のサイトを構築したり、対応アプリケーションを開発したいというニーズがある。その体制をもっているかどうかがポイントになる。CMSのなかには、スマートフォンに特化したものや、パソコン用サイトを立ち上げると、ほとんど手間をかけずに、スマートフォン用サイトを構築できるツールもある。業務システムとパソコン用ウェブサイト、そしてスマートフォン向けサイト・アプリという組み合わせ提案が実現すれば、SIerにとって大きなポイントになるはずだ。

急速に普及するスマートフォンは、CMS市場も活性化する