国内市場の落ち込みが一段落し、回復の兆しが強まっている。リーマン・ショックから3年が過ぎ、震災復興の需要と歩調を合わせた成長に期待が集まるものの、国内だけに限定していては大幅な伸びは見込みにくい。ユーザー企業は中国・ASEANをはじめとする経済成長国への進出を加速しており、国境を越えたグレーター・ジャパニーズ・マーケット(海外を含む日系市場)や地場有力顧客の獲得に向けた動きが活発化している。
“底打ち”に実感あり 2011年、情報サービス市場は「ほぼ底を打った」と、NTTデータの山下徹社長はみる。主要SIerの直近の上期業績では、リーマン・ショック以降のような大幅な落ち込みは、かろうじて回避できているようにみえる。だが、国内市場だけでいえば、業界トップを独走するNTTデータでさえ苦戦しており、今後も大幅な伸びは見込めそうにない。
図は、NTTデータの国内と海外の売り上げを四半期ごとに区切ったものだ。第1四半期、第2四半期ともに国内の売り上げが落ちる一方で、海外売り上げは連結子会社拡大によって大幅に成長している。通期(2012年3月期)では国内が前年度比およそ600億円減少し、海外売上高が倍増の2000億円に達する見込み。差し引き400億円の売り上げ増の見通しだが、もし、NTTデータが海外への本格進出を早期に決断していなければ、大幅な減収は避けられなかった可能性が高い。
NTTデータの場合、主にM&A(企業の合併と買収)によって海外売上高を増やしてきたが、海外グループ会社はすでに152社、海外社員数約2万6500人に達し、ややもすれば一体感に欠ける面があった。そこで、ここ1~2年をかけて、段階的に“NTT DATA”ブランドに統一していく準備を進めていたものの、ここへきて急遽、前倒しを決めた。北米は2012年1月から順次、欧州は4月から順次“NTT DATA”ブランドに統一する。「“GLOBAL ONE”としての“NTT DATA”に切り替えてくれという各国法人トップの要請に押されるかたちで前倒しを決めた」(NTTデータの山下社長)という。
NTTデータグループの欧米法人の経営者の多くは、年商10兆円を超えるNTTグループに入ったことをユーザー企業に示すことで、受注能力の増大をより明確にアピールすることができる。これによって、従来よりも大型の案件の受注可能性が高まることに期待が集まる。なかには創業社長が社名変更に難色を示すケースもあったが、とりわけ北米は「直接所属している会社組織よりも、上司・部下の関係性を示すレポートラインを重視する」(同)傾向が強く、国境や法人の枠組みを越えた“GLOBAL ONE TEAM”に対する適応力が高いという。
収益力と競争力の追求 主要SIerもNTTデータと同様、グローバル化を急ピッチで進めた年でもあった。東芝ソリューションは2011年7月に中国大手SIerの東軟集団(Neusoft)と組んで、中国市場をメインターゲットとする現地法人の本格的な営業をスタート。日立グループは8月に中国有力SIerの大連創盛科技と合弁会社を設立し、1年後の2012年11月をめどに大連にラック換算で約2000ラック規模のDCを竣工する。さらに10月、野村総合研究所(NRI)がインド法人を設立し、地場有力調査会社と資本業務提携を結んだと発表。同じ時期に日立ソリューションズが北京に中国法人を立ち上げた。
ほかにも、ITホールディングスや富士ソフト、JBCCホールディングスなどの有力SIerが、主に中国やASEAN地区での事業拡大を推し進める動きが顕著になっている。中国・ASEANに代表されるアジア成長国は、製造や流通・サービスなど主に産業分野の日系ユーザー企業の主な進出先でもある。日系SIerはユーザーの海外進出先拠点へのITサポートをしっかり行わなければ、「既存の国内ビジネスの失注につながりかねない」(ある大手SIer幹部)という切実な課題を抱える。こうした日系ユーザー企業に向けた海外サポートを国内ビジネスの延長線上と位置づける「グレーター・ジャパニーズ・マーケットの拡大」(SCSKの中井戸信英社長)と捉えるSIerが増加。まずは日系ユーザーへのITサポートを軸に海外進出する動きが、今後も加速していくものとみられる。
リーマン・ショック以降続いた国内市場の縮小傾向には、ほぼブレーキがかかりつつあるとはいえ、大幅な伸びは期待しにくい。成熟度が増す国内情報サービス市場におけるSIerの業界再編は2012年以降も続く見込みで、規模のメリットを生かすことによる収益力の強化と国際競争力の強化が、SIerの生き残りに欠かせない要素となりそうだ。
震災の影響は限定的
不透明感は依然として残る
震災の影響は限定的だった──。主要SIer50社の直近の上半期業績を週刊BCN編集部でまとめたところ、およそ7割の企業が前年同期比で売り上げの増加を果たし、約半数が営業利益ベースで増益となった。震災直後の混乱や、電力事情の悪化による業績への悪影響が懸念されたが、上期が終了した段階でみる限りは、ひとまず胸をなで下ろしていいように思える。
あるSIer幹部は、「2010年4~10月期がリーマン・ショック後の停滞から抜け出していない状況だったので、本来なら2011年度の上期はもっと改善してもよかったはず。“二番底はなかった”程度のレベル」と厳しく評価する。また、今年度いっぱいは続くとみられるタイの洪水によるサプライチェーンの混乱や、EUの債務危機の影響が読み切れないなど、不透明感が依然として残るのも気がかりだ。情報サービス特有の“遅効性”も懸念される。
手組みのソフトウェア開発から、パッケージソフトの活用やクラウド/SaaSをはじめとするサービス形態への移行がより一層進むことが予想されるため、手組みのソフト開発比率が高いSIerは、「市況とは関係なく売り上げ減の要因になる」(別のSIer幹部)との指摘もある。2012年以降も構造改革を推し進めながら、経済情勢の変化に伴う業績へのインパクトを最小限に抑える難しい舵取りが続きそうだ。