chapter 2
製品・サービスの拡大
[MDM中心に多くのアプリが登場]
企業でスマートデバイスが急速に普及したのは、2011年後半からといわれている。ソフトバンクBBの高瀬正一・コマース&サービス統括CP事業推進本部長は、「この時期、MDM(モバイルデバイス管理)製品が多くのメーカーから続々と投入され、企業が安心してスマートデバイスを使える環境が揃ったからだ」と分析する。
MDMを使えば、社内外のスマートデバイスの使われ方をシステム部門で集中管理できる。何か問題が起これば、機能制限や強制的にアプリケーションをアップデートできるからだ。高瀬本部長は「MDMはスマートデバイスと一緒に販売されるデファクトスタンダード(事実上の標準)製品になっている」として、スマートデバイスの普及にひと役買っているという。
11年9月にクラウド型PCセキュリティ維持・管理サービス「ISM CloudOne」のAndroid向け機能強化版を出し、今年2月にiPhone/iPad版を出すクオリティは、「当社のISMのAndroid版については、すでに13社のインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)向けにOEM供給している」(楠田大輔・アドバンスドソリューション部担当課長)と、その反響の大きさに驚く。
MDMがスマートデバイスの普及に貢献している理由は、その導入ルートにある。とくに、スマートフォンを企業で導入する際は、大半が総務部経由で入る。従来型の携帯電話に比べて安価で、利用できる範囲が広いスマートフォンを提案する通信キャリアが増加。総務部は社員に対し、コスト削減が見込まれるスマートフォンの利用を推奨する。つまり、情報システム部門の知らないところで、スマートフォンが勝手に社内で普及しているケースが多い。「だが、ひとたび入り始めると、管理上の問題が浮上し、情報システム担当者があわててMDMを入れる」(楠田担当課長)という具合だ。
クオリティが事務局を務めるユーザー主体の「PCネットワークの管理・活用を考える会」でアンケートをとると、大部分の情報システム部門はスマートデバイスの導入に慎重という結果が出た。反面、「普及の流れは止められない」とも考えているようだ。個人で購入した端末での業務利用を含め、勝手に入った端末のセキュリティを担保するためにMDMを入れざるを得ず、同時にセキュリティポリシーの見直しにも取りかかっている。
とくに、Android OSの端末に対する情報システム担当者の懸念は大きい。Android端末は開発の自由度が高い反面、統制が行き届かず、ウイルスなどに対するぜい弱性も散見できるからだ。一方のiOS端末は、制限が多い分、安全性が高い。しかし、最近では、Android端末向けのセキュリティ製品も登場しつつあり、こうした問題も解決へと向かいつつある。
ダイワボウ情報システムは、WiMAX回線とセット契約でAndroidとWindowsのタブレット端末を主に販売しているが、11年4~12月の累計で法人向けに約6万3000台を販売した。Android端末メーカー別では、同社と業務提携するエイサーが約7割を占め、次いでレノボ、東芝、オンキヨーが続く。国内パソコン販売が家電量販店を含め1500万台に達するなかでは限定的だが、セキュリティ上の課題を抱えるAndroid端末も、堅調に推移しているようだ。
ソフトバンクBBのコマース&サービス事業では、現在、国内で急速に普及するスマートデバイスを中核端末として、通信回線や付加価値サービスなどを加えた企業向け「モバイルインターネットサービス」を拡充している。端末と関連製品・サービスを増やし、同社の販売代理店へと流通させている。販売代理店は、同社から端末を仕入れて通信回線と一緒に顧客へ販売するだけでなく、「一度導入したら、引き続いて製品・サービスを付加でき、儲けにつながる」(溝口泰雄・取締役常務執行役員)仕組みを構築しているのだ。
ソフトバンクBBが付加できるスマートデバイス向けのサードパーティー製品・サービスは、iOS、Android、Windowsの全OSで製品を揃え、MDMをはじめPOSシステムやSFA(営業支援)/CRM(顧客管理)、ウェブ会議、フィルタリングなど40カテゴリ以上で100製品以上に達する。同社の北澤英之・モバイルビジネスマーケティング部長は、「法人でのスマートデバイスの使い方がみえてきた。製品・サービスは、さらに拡大する傾向にある」と、ソフトメーカーを中心にスマートデバイス向け商材の開発が、この先も加速するとみている。
スマートデバイス関連のビジネスを展開するITベンダーのもう一つの期待は、マイクロソフトの次期OS「Windows 8」だ。「Windowsベースのタブレット端末でOffice製品が使えるだけでなく、マイクロソフトの開発環境で構築したセキュアな企業システムの既存資産をタブレット端末で生かせる」(八子氏)からだ。指タッチの操作に適したUIをもつアプリを世に出せるかどうかが、Windows陣営の課題となりそうだ。
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