chapter 3
販売上の課題
[流通卸・訪販系に拡大の流れ]
ソフトバンクBBは、社内の多くの社員に、パソコンとiPhone/iPadを配布している。これらの端末を、デスクトップ環境をネットワークを通じて提供する「Desktop as a Service(DaaS)」の仮想環境で結び、シンクライアントの形式で利用している。高瀬本部長は「当社で試験的に導入しているが、これを外部にも提供する」と、スマートデバイスにも関連した企業の基幹インフラ構築に必要な仮想化環境の構築支援を行っている。昨年11月には、販売代理店向けにこうしたソリューション販売を支援する約30人の専任部隊を設置した。同社の販売代理店のうちスマートデバイスの販売をする「モバイルパートナー契約」を結んでいるITベンダーは約500社に達し、今も増え続けている。
こうした流れは、事務機器販売会社にも拡大しつつある。
キヤノンマーケティングジャパンは、クラウド型文書管理サービス「C・Cabinet/HOME」で管理している文書をiPadで閲覧や追記・印刷するソフト「Smart Browse Print」の販売を今年3月上旬に始める。この事業を担当するSMBソリューション企画部HOME企画課の田村孝一氏は、「企業ユーザーの間に、iPadをはじめスマートデバイスが普及する見通し。文書管理サービスとスマートデバイスとの連携需要を先取りする」として、ビジネス拡大に弾みをつける。スマートデバイスを単なるビューワーとしてだけでなく、文書管理など基幹に近いシステムと連携するソリューションで、既存ビジネスの拡大を狙う考えだ。
パソコンやサーバー、ソフトウェアなどの基幹システムを大量に販売する流通卸や訪販系販社が動き出したことで、電子カタログを閲覧する程度だった従来の利用シーンよりも深い提案を顧客にできる流通網ができつつある。
次世代ウェブアプリケーション「RIA(Rich Internet Application)」を提供するマジックソフトウェアジャパンは、一つの開発パラダイムで「RIA」のクライアントとサーバーの両方を統合開発できる業界初のツール「magic uniPaaS」を、世界的に「Mobile Enterprise Application Platform(MEAP)」と呼ばれる市場を席巻できる製品へと進化させる。アップデートの詳細は明らかになっていないが、「今年10月頃にuniPaaSの次期版を出す。既存の企業システムの業務プロセスを洗練し、社外秘情報の流出を防ぎ、デバイスやOSに依存しないスマートデバイス環境をつくり出す」(佐藤敏雄社長)と話す。サーバー側を構築するだけで既存資産を生かし、スマートデバイス側で操作できる開発環境が整うわけだ。同社によれば、同社の販社、約800社のうちの約250社が、今年6月に配布予定の次期uniPaaSのβ版から検証し、この製品を販売するパートナーになることを約束しているという。
ただ、現段階では、セキュリティポリシーの変更や既存の業務プロセスの見直しなど、負荷作業を強いられる可能性のある企業の情報システム担当者の腰は重い。そのため、スマートデバイスと関連アプリやサービスの販売の場合、ソリューション販売というよりは、通信回線や端末を増やすことで利益を得る通信キャリアの存在が目立っている。基幹の社内ネットワークに関連づけない環境で、スマートデバイスが使われているのが現状だ。逆に、基幹システムとの連携部分で情報システム担当者の要求に応えられる洗練された製品・サービスとソリューションならば、受け入れられる可能性は大きい。クラウドコンピューティングの利用拡大と相まって、スマートデバイスが法人市場に拡大するのは時間の問題といえる。
専門家の声 その1
イシン 大木豊成社長
パイロット導入から入り込め 多くのプレーヤーがスマートデバイスの法人向け販売を展開している。ただ、情報システム担当者の不安を考慮せずに、パソコン導入と同じように“てんこ盛り”の提案をしている。既存のシステムにつながず、専用システムとしてパイロット的に導入するのが最初のステップ。そして情報システム担当者の理解が深まり、ユーザーの利用も慣れてきた段階で、付加提案をすることが重要だ。初段階では、マニュアルや提案資料などの閲覧や店舗で商品を見る仕組みから入り、スマートデバイスを利用するうえでのセキュリティポリシーや業務プロセスの改善などが進んだ段階で、既存資産を生かした提案をするといい。また、スマートデバイスの提案にクラウドは必須だ。コストをかけずに導入したいという企業が多いからである。
専門家の声 その2
デロイトトーマツコンサルティング 八子知礼
テクノロジー・メディア・テレコミュニケーションズパートナー
大量データの閲覧ニーズが高い この10年で法人向けモビリティ環境が大きく変化した。最近では、スマートデバイスの登場によって、端末を持ち歩いて仕事をすることが前提になっている。現段階ではカタログを閲覧したり、会議をペーパレスで実施したり、遠隔地を結んだテレビ会議などに使われている。とくに、後者の部分では大手企業の役員レベルで利用が進んでいるようだ。 しかし、企業内の個人レベルでスマートデバイスを業務で使う割合が増えてきており、知らずしらずに端末が普及し、使わざるを得ない状況になっている。一方、企業内のデータ量は急速に増えている。このデータをアウトプットして使うシーンは多くなる。その出力端末としてスマートデバイスは利用できる。従来パソコンを使わなかった領域への提案も有効だ。