事業拡大を促す三つのポイント
「ターゲット力」「パートナー力」「提供力」が決め手
勝ちパターン その1
「大手」と「SMB」の両方を攻略する  |
シマンテック 河村浩明社長 |
トレンドマイクロ、シマンテック、マカフィーのセキュリティ大手の3社とも、2012年はコンサルティング部隊を強化し、大口案件の獲得が期待できる大企業向け展開にさらに力を注ぐ姿勢を示している。大企業は、標的型攻撃の直接のターゲットとなる可能性が高く、急ピッチでセキュリティの強化を図っているところだ。それだけに、セキュリティメーカーにとっては非常に魅力的なマーケットとなる。
官公庁やテレコム会社など、超ハイエンドの領域を得意とするマカフィーは、2011年にデータセンター(DC)でのネットワークセキュリティを商材として、数件の大型案件を獲得して売り上げを伸ばした。今年も引き続き、受注見込みが高い大規模システム向け案件をいくつか抱えているという。マカフィーは、昨年、米国本社が半導体メーカーのインテルに買収され、インテルと共同開発した技術を徐々に製品メニューに反映している段階だ。インテルによる買収によって手に入れた「セキュリティ×ハード」という独自の強みを生かし、ハイエンド向けビジネスに拍車をかける。
セキュリティメーカー3社は、大企業のほか、SMB市場の開拓に意欲を示している。SMBは企業の数が多く、各案件の規模は比較的小さいものの、ボリューム販売で売り上げを稼ぐことができる。しかし、SMB市場の開拓は、セキュリティへの投資の重視度が低いなど、独特の難しさがあるので、メーカーは製品と販売モデルの両面で工夫する必要がある。SMBの市場を狙う場合に一つのキーワードとなるのが、ユーザー企業がサーバーを用意する必要がないSaaS型サービスの提供だ。
トレンドマイクロは、主力製品の「Deep Security」から機能を抜き出して、SMB向けのSaaS版「Deep Securityあんしんパック」を2月に発売した。サービス提供に必要なサーバーは、当面はトレンドマイクロで運用し、「いずれパートナーに任せる」(ソリューション事業本部の大田原忠雄部長代行)考えだ。「あんしんパック」を商材として、今後3年で10億円の売り上げを目標に掲げている。
シマンテックとマカフィーも、SMB開拓に取り組んでいる。シマンテックの河村浩明社長は、「SMB市場向け事業の強化は、2012年、最もプライオリティの高いものとして位置づけている」と語る。マカフィーは、ターゲットをピラミッドの頂点から下に拡大しており、「今年は、大手とSMBの両方にフォーカスしていく」(コーポレート事業統轄の茂木正之常務)という。SMB市場の開拓にあたり、パートナー体制の強化が必須の課題となる。
勝ちパターン その2
販売パートナーの幅を広げる  |
マカフィー 茂木正之常務 |
セキュリティメーカーは、大手企業向けビジネスの現場では、ハイタッチ営業などによって、自ら製品を提案しながらユーザー企業に接することが多い。一方、ユーザーの数がケタ違いに多いSMB市場を開拓するためには、販売パートナーの存在が不可欠。つまり、小規模企業を含めた幅広い市場をカバーする販売網を築くことが成功への近道となるわけだ。そこで大手3社は、事業を拡大するために、販売パートナーの幅を広げることを2012年の取り組みの中心に据えている。
シマンテックは、伸び悩んでいるSMB事業のテコ入れを目指して、昨年末からSMB向け販売チャネルの再構築に取り組んできた。ソフトバンクBBやネットワールドなどの有力ディストリビュータ4社と組んで、彼らがもつ2次店の販売網を生かそうとしている。SaaS型サービスをライセンス形態で提供することによって、「小規模な町工場を含めて、SMB市場で幅広い導入実績を上げたい」(パートナー営業統括の宍戸武士本部長)としている。このような取り組みに力を入れて、同社は今後3年で、SMBビジネスの売り上げの倍増を目指している。
トレンドマイクロは、SMB市場での存在感を高めるために、近々、サーバーの販社と提携する販売モデルを開始する。このモデルでは、販社がトレンドマイクロのセキュリティ製品をサーバーにバンドルしてユーザー企業に提案する。これによって、サーバーを売りやすくすると同時に、ユーザー企業でセキュリティの導入決定を促すことを目指しているのだ。トレンドマイクロは、これまでセキュリティの“箱売り”をSMB向けの主な販売モデルとしてきたが、今回の取り組みによって、セキュリティ単品では導入が進まなかった企業を狙う。現在は、サーバーの販社と提携の準備を進めている段階にあるという。
パートナー戦略は、SMB向けビジネスだけではなく、大企業向け展開でも重要な成功要因となる。マカフィーは、2月に開催したパートナー向けのキックオフ会で、支援策を強化する新しいパートナープログラムを発表した。プログラムでは、販社への技術サポートや共同プロモーションに本腰を入れ、茂木常務がいうところの「メガSIerや有力ハードメーカー」など、トップレベルの売り手をパートナーとして獲得することを目指している。
マカフィーのパートナー戦略の背景には、インテルによる買収によって、同社がハードウェアを切り口としたセキュリティの新しい提供形態に力を入れていることがある。茂木常務は、とくに活況を呈するDC市場に着目して、大手SIerとハードメーカーとのパートナーシップを通じて、他社にはできないセキュリティの提供を実現しようとしている。
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